●東洋経済保険特集号の過去論文要旨(05年5月4日)
(週間東洋経済04年版保険特集号巻頭論文「窓販全面解禁」:山野井良民著作元稿の一部に加筆)
<国内生保編>大義がない銀行窓販全面解禁、生保の苦悩と銀行のリスク
▼窓販全面解禁の本丸は07年度郵政完全民営化
03年10月の窓販実績やコンプラ関連での金融庁担当官によるヒヤリングの席でのことだった。04年3月末までに固まる窓販拡大種目について、「損保会社が強く要望している第3分野の追加解禁で落着だろう」とタカを括っていた大手生保の企画担当課長は、担当官から「全面解禁」をにじませた言葉を聞いて、一瞬、耳を疑った。ノンキャリアの担当官との実務的なヒヤリングの席でもあり、「まさか本気では…」と思い直そうとしたが、重い衝撃が彼の思考能力を停止させた。11月まで行われた内外保険各社、銀行へのヒヤリングを通して、誰もが金融庁の「本気」を知るところとなった。
12月19日の生保協会理事会後の意見交換会の席上、金融庁の三國谷審議官が窓販の説明の中で、「関係業界のヒヤリングで寄せられた意見や、今年3月閣議決定の規制改革推進3カ年(再改定)計画で、すべての保険を取り扱えるとされていることを踏まえて精力的に検討を進める」と保険窓販全面解禁の方針を明示した。事前の政治介入の暇を与えぬ、それは異例の速さの通告だった。金融庁が自民党金融調査会の内諾も取らずに、何故、時限を区切って独断専行で全面解禁路線を急いだのか?
金融庁が蛮勇を奮って世界初の壮大なバンカシュアランス実験を決断した背景には諸説ある。竹中金融相がかねて面識のある三木繁光・東京三菱銀行頭取(銀行協会長当時)との会談で証券仲介業務の取扱を積極的に支持し、気楽にあれもこれもとそこからすべての流れが始まったとの説が一つ。
また、与党の守旧派・改革派含めて最終的には支持せざるを得ない大きな理由があって、官邸主導で事は進んだとの説もある。今秋の経済財政諮問会議(議長:小泉首相)で07年度の郵政民営化のビジネスモデル、すなわち郵便局窓口での簡保(生保)・郵貯(銀行)・郵便抱き合わせのユニバーサルサービスによる民営化モデルの骨格を公表し、民営化法案を来年の次期通常国会に上げなければならない。07年度以降郵政民営化を実現し、民間の郵便局の窓口で預貯金と生保商品を扱えるようにするには、銀行窓販の保険商品を制限しておくわけにはいかない。内閣官房・郵政民営化準備室(副室長の高木長官ほか金融庁からスタッフ派遣)としては、同時期に競争条件のイコールフッティングを図らなければ、銀行側の反発を招くことは必至で、いまや小泉首相の一枚看板の郵政民営化は進まない。かくして、郵政民営化路線に乗って、ゆくりなくも銀行には窓販満額回答のアメが与えられる形となった、という「郵政民営化・本丸説」である。後者の説に従えば、本丸の郵政民営化で簡保・郵貯の分離方式が導入されない限り、金融庁による大義=消費者ニーズの無い保険窓販全面解禁実験を止めることは困難であり、すでに大勢は決していることになる。利害当事者の肝心の生保は蚊帳の外に置かれたままで。
▼42万人の対面販売チャネルが第1・第3分野市場に参入
一気に世界のバンカシュアランスの常識を飛び越えて壮大かつ希有な実験をやろうとしている割には、金融庁の事務方は専権裁量範囲の内閣布令(弊害防止措置)を書けば事が済むと見ているフシがあり、今夏、実際に府令案をまとめているもようだ。彼らの好きな世界標準にならえば、消費者・契約者そして保険会社・銀行にも多大なリスクが発生する懸念のある事柄については、保険業法・銀行法の本法(国より法制体系は異なる)で付随業務規定、兄弟・子保険会社規定、募集制限規定を定めて、議会承認を経なければ実行できないのが通例だが、金融庁は大したリスクは発生しないレベルの規制緩和と認識しているのかもしれない。
日本生命の宇野郁夫社長は、「銀行員が片手間に生保を売ることを消費者が求めているなどという声は聞いたことが無い。こうした議論自体が消費者・契約者を愚弄している。銀行が長期保障の生保の引受責任を取れるのか。96年の業法改正の議論を忘れたのか。余りにも安易で無責任極まりない話だ。もっと言うなら、保障性商品に利便性を求めて良いのかという根本的な問題がある。断られても顧客を守るために説得する仕事として、生保販売は昔も今も将来も聖業でありたい。われわれのスピリチュアルな誇りを無視するような安直な考えは絶対に容認できない」と憤慨する。
確かに客観的にも、ぜひ銀行でガン保険やら定期付終身保険を買いたいという消費者の声はついぞ聞いた事がない。
ペイオフの不安もあるし、銀行預金の一部を年金商品に移したいといった同じ貯蓄商品に関わる消費者の利便性を求めるニーズは至極当然であって、すでに02年10月から年金窓販が追加解禁されている。銀行側にとっても、預金から年金へ顧客の資金を移動するだけで、低い国内生保でも2〜3%台、高い外資系生保では5%台という銀行本業サービスでは考えられない高い販売手数料が収入できる実に美味しいビジネスだ。また、大半の内外生保会社が年金窓販に乗り合い、退職者市場という新しい生保市場の創出にも裨益した。貯蓄商品の年金窓販は消費者・販売者・生産者それぞれの利益を高めたベストミックスの規制緩和モデルとして成功している。
年金窓販解禁当時、大手地銀幹部は「いきなり第1球目にど真ん中のストライクが来た」と正直に本音を語っていたが、望外のオマケ付きで一気に保障性商品まで含めて全面解禁への途が開かれることになったのである。
仮に、銀行の付随業務規制も銀行の子または兄弟保険会社の条件(キャリア規制)や販売地域条件の規制も無く、銀行本体に第1・2・3分野にわたるすべての保険商品の販売が認められることになれば、下記の点で世界に例を見ない日本独自の巨大なバンカシュアランス市場が出現する可能性がある。
およそ欧米の銀行は預金者が銀行店舗に出向くのが一般的である。もちろん、国によって独立系のFA、株式ブローカーなどの財務コンサルタントや代理店の販売員が契約先の銀行の年金商品を始め、ユニバーサル商品、医療保険などを顧客に販売するケースもあるが、預金者の行動は基本的に銀行に出向くものである。
一方、長年、コスト競争に晒されることの無かった日本の金融各業態には銀行渉外行員、生保営業職員、損保代理店と、いずれも大量の労働集約型の対面販売チャネルが根付いている。特に銀行には大量の対面販売を行う自前のセールスマン(渉外行員)が地域店舗に配置され、事業者・富裕層の得意先を始め地域の預金者をきめ細かく訪問して営業活動を行っている。これまでの年金窓販の大半が渉外行員扱いによるものである。日本の銀行には、この顧客を訪問する世界にも希な渉外行員という独自の営業資源と商習慣があり、この点にこそ欧米と日本の銀行の営業スタイル、バンカシュアランス形態の最大の相異点がある。
年金窓販に際して、「頭取以外は皆受験した」(銀行関係者)と言われるほど、銀行員は一斉に生保募集人試験を受験し、現在、生保募集人登録数はなんと約42万人(念のため誤植ではない)に上る。ちなみに、生保会社の営業職員登録数は逐年大幅に減少して約28万人と、銀行の生保募集人の6掛けの陣容でしかない。生保販売において、外形上は生保本業より副業の銀行セールスマンのほうが圧倒的に数が多いという逆転現象が起きている。また、顧客の財布と家計、会計、税務など金融万般の相談にあずかる渉外行員は、既存のあらゆる生損保販売チャネルの中で優れてコンサルティング能力が高い。顧客の財布を預かり大量かつ資質の高い渉外行員を持つ銀行に無制限で第1・3分野の販売を認めるとなれば、それはもはや生保会社に自前の対面販売チャネルを放棄せよと言うに等しい。
▼全面解禁時の窓販類型は…ポイントは銀行の信用リスク
今後の弊害防止措置はさておき、第1・3分野の制約無き全面解禁を前提にした場合のバンカシュアランスの形態は、おおむね次のような類型が考えられる。
A:カウンターセールス=店舗内で次の2つの販売形式が可能となる。
@保険専用カウンターセールス=いわゆるカウンターでの窓口販売であり、説明に時間がかかる保険商品の販売は困難で、銀行窓販の主体にはなり得ない。通販レベルの簡易告知型かつシンプルな保障内容の第3分野商品、固定金利型の定額年金商品、定型的な貯蓄型商品などの単品販売や、低額S(保険金額)の定期保険または簡易告知型第3分野商品+定期積金などのセット販売が可能。
Aプライベートバンキングサービス=資産家・富裕層向けに専任のFA行員が店舗内でコンサルティングを行う。変額年金や外貨建利率変動型定額年金、一時払養老・終身など各種の高額貯蓄型商品のほか、ユニバーサル型商品、さらには逓増定期など死亡保険の節税・相続対策プランまで含めフルラインの販売が可能。ただし、対象顧客は限定される。
B:渉外行員による販売=渉外行員が銀行顧客を訪問し対面でコンサルティングを行う。日本のバンカシュアランスの主体になる。多忙な本業営業に上乗せする追販ビジネスの範囲なら、低単価で説明が煩雑な単品商品の販売は敬遠される。資金シフト型の簡便な販売ができる一時払変額年金・外貨建利率変動型年金、一時払養老・終身など高額貯蓄型商品や、融資先中小企業向けの高額逓増定期などの販売が可能。都銀では各店舗に1名の女性コンサルタントを配置し、店舗内でのマネー相談と訪問コンサルティングを行う事例もある。保険専任の渉外行員を配置して保険販売する場合は上記PB同様のフルラインの訪問販売が可能。地域金融機関では、上記のほかに低額S定期または簡易告知型第3分野商品+定期積金のセット販売などが可能。
※上記のA・Bの販売形式の場合、保障性商品の場合は販売時点と給付時点にかなりのタイムラグがあるため、給付時にトラブルが発生する懸念がある。生保委託代理店において生保会社の第1・3分野商品の販売は媒介行為になるが(損保第三分野商品を損保代理店が販売する場合は委任行為)、銀行ブランドによる販売力が強いため、銀行側の顧客への説明義務の履行・危険選択の基本動作等に関わる販売責任と、保険会社の引受責任が乖離し捻れる懸念がある。トラブルが起きた際はブランド力のある銀行側に直接的な風評(信用失墜)リスクが発生する。殊に大量販売が可能なBの場合、銀行が被る風評リスクは最大化し、本業の信用に影響を及ぼす懸念がある。
C:既存の別働体代理店によるブース販売=間借りした銀行店舗内の専用スペースで、保険専業の別働体代理店の使用人(FA・FP資格者)がコンサルティングする。あらゆる第1・3分野商品の販売が可能。銀行店舗内での販売のほか、他の使用人が銀行紹介先の個人客や企業・職域に出向いての訪問販売も可能。この形式では保険会社から別働体が代理店手数料を収入するので、銀行側に販売手数料収入は発生せずフロー収益拡大に貢献しない。よって顧客紹介を受けた銀行に間借りしている代理店が紹介手数料を支払うケースが考えられる(手数料上昇要因となる)。併行して本体渉外行員が訪問販売を行う場合は、同行・分担募集や保障性・貯蓄性それぞれ取扱商品の棲み分けが可能。保険販売で実績のある別働体が本体の保険窓販を一元的にマネジメントする形式も想定できる。また、市場適性に応じて乗合保険会社の営業職員や代理店との分担募集も可能。
別働体代理店は外形上、米国などで見られる買収による銀行の子会社代理店と類似するが、日本の別働体は関連会社に該当しない独立代理店で銀行本体との一定のリスク遮断が可能。なお、銀行の企業統治上、手数料収入面から別働体を本体連結の子会社代理店に再編する考え方が一般的だが、リスク遮断が困難。すでに別働体が最適正化措置済みの独立代理店としての基盤整備(プロフェッショナル化)を果たしていることから、保険販売の主体性とリスク遮断の効果を勘案して現行別働体形式でのブース販売を想定した。
※独立代理店たる別働体には危険選択、給付時のトラブル懸念が少なく、販売責任と引受責任の捻れ懸念も少ない。トラブルの際は店舗貸しする銀行にも間接的な風評リスクが発生するが、プロフェッショナルな独立代理店が取り扱うためリスク頻度は低い。ただし、プロフェッショナルな保険販売体制を持つ別働体は現状では大手の都銀・地銀系の一部に限られ、大半の地域金融機関では本体渉外行員による訪問販売に依存せざるをえない。
D:別働体代理店による販売=従来同様の販売形式だが、本体窓販全面解禁の影響を受けることになる(取扱種目の本体移転)。本体窓販のバックオフィス機能を備えるか、RM・リタイアメントビジネスなどのコンサルティング機能をさらに強化して本体窓販と協業する方向で生き残る。
※現行通り、銀行側に風評(信用)リスクは発生しない。
▼銀行側における窓販のメリットとは
銀行側の窓販メリットは言うまでもなく、高い保険販売手数料収入によりフロー収益が拡大することにあるが、銀行にとって魅力的な窓販戦略のポイントは、ざっくり次の諸点に括れる。
<貯蓄型生保商品の窓販の場合>
@貯蓄型商品は銀行にとってみれば固定性定期預金と同じで扱いやすく、かつ金利コスト・預金保険料不要で、反対に手数料収入が入るわけで、一石三鳥のメリットがある。
A年金など貯蓄型商品を扱う場合は、預金・投信・年金(貯蓄型保険)・国債の顧客預かり資産の一元管理ができる。
B店舗のリストラで閉鎖支店での顧客離れが避けられない中で、扱いやすい貯蓄商品の販売により閉鎖支店の顧客をつなぎ止められる。
決済預金、金融機能強化法により現在はペイオフ対策としての年金販売のインセンティブは低下している。これまでの年金窓販の段階では、50歳代後半〜60歳代後半の小金持ち層を主体とするリタイヤメント市場開拓で顕著な成果を挙げている。土曜日に行員自主参加の形で年金研修を行うほど意欲的な都銀もあるほどだ。
<保障性商品の窓販の場合>
@銀行が信用リスクを恐れなければ、全面解禁の場合は融資と回収(死亡保険)の一体的な顧客管理ができること。言わば歩積両建の保険版で、顧客が万一の時は保険で貸金が回収できる。
A渉外行員は顧客企業の財布の中身(会計、税務)と貸金との両睨みで仕事をしており、逓増定期のような中小企業向けの事業保険が最も売りやすい。節税・利益の平準化などのコンサルは本業の基本動作であり、渉外行員なら誰でも売れる。嵩の大きい契約が取れるので、渉外行員とは別に中手企業向けに保険販売専任部隊を整備することも可能。
B地域金融機関の場合、小口の定期積み金に低額の死亡定期や第3分野商品をセットすることで、収益単価を高めることが可能になる。
▼銀行の窓販の実態と懸念されるリスク
では、銀行営業現場の窓販の実態はどうか。生保募集人登録数42万人の外観とは大きく異なるお寒い現実がそこにあり、これが銀行側のリスクを生む要因になる。
大手都銀・地銀レベルで、本業の片手間に保険(年金)販売を行っているのは、およそ1店舗当たり1〜5名程度に過ぎない。要員のリストラが進む中、ほとんどの渉外行員は本業で精一杯である。保険窓販のシステムインフラも脆弱で、銀行は本業の顧客情報の漏洩を防ぐため、本体の勘定系システムと窓販システムを分離している。営業店舗で窓販システムが使えるのはニュースなどの情報系の端末に限られ、窓販専用のパソコンは各店舗1台程度しか使われていない。銀行側での年金の加入申込作業はほとんど手作業で行われているため、引受保険会社が手書き申込書を回収し、オペレーターコストを負担して自社で入力している。銀行にとって、「ストライク」の年金販売ですらこの実態なのである。
銀行と保険のカルチャーの相異に、銀行員自身が困惑している問題もある。銀行取引は顧客1人の名前と住所と印鑑があれば成立するが、保険契約では1契約につき被保険者・契約者・受取人の3人の人物が登場し、被保険者の年齢・性別とそぞれぞれの続柄まで調べなくてはならない。銀行は習慣的にお金を払う人(契約者)が大事であり、被保険者を重視することはない。生保の契約確定率は92%程度と言われ、申込者の100人中7、8人は取引を断るが(危険選択)、そも銀行には取引開始前に断るという文化はない。 こういう窓販現場の実態を把握せずに、保障性商品をフル解禁すればどうなるかは自明のことだ。
例えば、銀行員が話やすいリスク顕在型の第3分野商品であっても長期の保障が商品の中身である。第3分野商品は給付頻度が高く、販売時点よりかなりの年数を経て給付が発生するために、加入時の説明の不手際や販売した行員の担当替え・退職などにより、「言った」「言わない」のトラブルが頻発する可能性もある。
第3分野商品は保険会社ごとの個別化が最も進んでいるが、副業の保険販売で乗合保険会社の多様な商品を時間を掛けていちいち説明するほど暇な渉外行員がいるだろうか。保障性商品のコンサルはWeb型携帯パソコンの使用が常識になっている昨今、乗合保険会社のパソコンを全部かついで訪問販売する行員がいるだろうか。営業職員や代理店は悪用するものだと差別的な前提で措置されている保険業法の一部比較情報の禁止規定が撤廃されない限り、各社商品の一覧表示はできず、乗合全社分のパンフやパソコンをかついで顧客廻りをするしかない。現実にそんなことはできないだろうから、自ずと手数料の高い特定保険会社の商品を限定して販売することになるだろう。乗合代理店であるにもかかわらず、消費者に適切な商品選択の機会を与えることは困難なのだ。
銀行側のメリットだけを優先して、危険選択の手間の掛からない簡易告知型の第3分野商品を販売するのも一法だが、貯金とセットで簡易告知型医療保険を中高年齢層に大量販売したりすると、引受保険会社のリザルトは10年も経たないうちに悪化するだろう(貯金とセットするので保険商品の危険選択は実務的に不可能)。特に生保の無診査・告知型商品は媒介行為とはいえ、実際は銀行の販売(危険選択・説明)責任と保険会社の引受責任は不可分なのだ。銀行が販売責任を果たせなければ、引受保険会社が販売前面に出て行かざるを得なくなり、結果、余計な販売コストを被ることになる。
販売面だけでも問題山積だが、保障性商品の保全面となると、これはもうお手上げだろう。例えば、大手都銀系の別働体の場合、数十万口に上る加入者の住所変更手続や職域集団扱からの離脱退職者の個人契約変更に伴う料率変更などの諸保全手続は、ほとんど自ら行っている。代理店には事実上この保全業務込みの募集手数料が支払われることで手数料水準が維持されている。第3分野商品を銀行本体が販売するのは容易だが、保全業務が飛躍的に拡大することを覚悟しなければならない。売れ筋の医療終身保険は保全がエンドレスになり、銀行が副業のためにコストをかけて大規模な保全体制を持つか、保険会社がコスト負担して保全支援するかのいずれかだが、結局、引受保険会社が人的・事務的コストを負担せざるを得ないだろう。保障性商品の保全問題は別働体がバックオフィスの受け皿にならない限り解決しない。
死亡保険の窓販については細かい弊害をあげつらうまでもなく、その販売方法やプロセスが如何にあれ人の命に質権設定して貸金回収を企図する振る舞いが行われるならば、それこそ銀行は「ヴェニスの商人」になってしまうだろう。公序良俗の許容範囲は信用生命保険が限界である。銀行が融資との抱き合わせを企図しなくても、たまたま融資と保険加入が同時期になるケースもあり得る。自殺免責への最高裁判断が記憶に新しいが、中小企業経営者はイザとなると自らの命で借金を返済することも辞さない。実際に事が起きたらマスコミの好餌になること必定である。
また、商道徳に関する問題では、融資を行う銀行が最も販売しやすいのは事業者向けの逓増定期保険だが、保険料の全額損金処理と、保険金逓増の直前で解約して厚い前払費用保険料の蓄積(予定利率1.65%程度)を受け取ることで、利益の繰り延べを図ることが主たる目的の特殊な「租税回避」商品を銀行本体で扱うことの是非を凝視する必要がある。銀行が販売するとなれば国税庁も看過しないだろうが、節税メリットで売った商品が後で税制改正された場合、銀行が知らなかったでは済まされない。
さらに、顧客の健康情報と融資との線引は理論的には可能だが、日常の担当行員と顧客との関係を見れば区分けが困難であることはすぐ分かる。仮に融資と保険販売の担当を分けても、顧客は融資担当と保険担当を区別して会話するわけではないので、実際は医的診査情報が融資担当者の耳に入る可能性は十分にある。
上記のような問題で保障性商品を巡るトラブルが発生すれば、すべからく銀行ブランドに傷が付く結果を招来する。それでも銀行は副業でリスクを取るのだろうか。
銀行が本業で業務純益が拡大しているにもかかわらず、竹中金融行政によるアメ(公的資金注入や、保険窓販・証券仲介業務解禁によるフロー収益拡大措置)とムチ(不良債権処理の厳格化)に唯々諾々と身をまかせていると、いつしか裁量行政に縛れる結果を招く。「保障性生保商品の窓販には、預金者の利便性ない。世界の常識で日本の非常識となっている口座開設手数料を取るとか、貸し金リスクへの金利感応度を高める工夫をするなど、堂々と本業の収益拡大で努力すべき課題がいくらでもある。ブランド力で楽に稼げる保険販売手数料に依存して、銀行自らが租税回避行為や歩積み両建ての保険版にまで手を染めると、必ずや企業の存亡に関わる風評リスクを背負い込む。そのダメージは、かつて経験した変額保険の無資格行員募集などの比ではない。モニタリングで弊害防止措置を決めるというが、何かある度に内閣布令を書かれたのでは、窓販の面でも旧MOF時代の裁量行政に戻ってしまう。銀行側にも大きなリスクが発生する前提で、きちんとした線引ルールを業法本法上に明文化すべきだ」(銀行関係者)
▼保有剥がしに怯える大手生保の苦悩
生保の保有市場を外観すれば依然として大手国内生保が寡占化しているが、内実は営業職員の採用難と早期脱落による加速度的な陣容縮小で保有契約が孤児化し、最大収益源の保有S(普通死亡保険金額)は50歳代1900万人の死亡保障市場からの退出、家計のリストラ、外資系生保・損保系生保の新規参入組による死亡保険既契約剥がし(乗り換え)の攻勢などにより、逐年縮小の一途を辿っている。この上、生保会社のコントロールが効かない大量の銀行渉外行員チャネルが第1・3分野に全面新規参入し、収益源の保有Sを引き剥がすことになれば国内生保経営の根幹が揺らぐ。銀行にプラス効果、生保にマイナス効果となる着想が竹中流辻褄合わせ金融行政の特色の一つだが、タイミングの悪い保有純減下の利下げ法導入(銀行にプラス効果)で世論の支持を失った国内生保はしかし、これに抗う有効な武器もなく、経営者の苛立ちと苦悩は増すばかりだ。
大手生保の中では営業職員の機関長が多く、比較的顧客グリップ力に勝る第一生命の森田富治郎会長は、「各社揃って沈んで行く中で、ウチが一番水面に近いなんて誇れるものではない。50歳以上1900万人の死亡保障市場からの退出は、生保産業未曾有の激変だ。軽い第3分野とは収益に与える迫力が違う。会社収益曲線とリンクした保有重視の評価体系に替え、守りを固めて保有減少を必至になって食い止めようとしている今この時に、手数料稼ぎの売りっぱなしチャネルを無定見に参入させれば、生保産業の命運は尽きると言っても過言ではない。2次市場の無い長期独占契約の生保と金融商品を同一視する粗雑な論法は、まるで田を作ったことが無い人が稲の育て方を語るようなもの」と吐き捨てる。
変額年金の窓販で国内生保中、突出した実績を誇る住友生命の横山進一社長も、「唯一、消費者利便のニーズが認められる年金窓販でも、国内社は契約者の付加率負担軽減と営業職員チャネルとの経費バランスを前提に手数料を設定しているが、外資系は法外な手数料で窓販ビジネスを主導している。成熟化した生保市場で窓販を全面解禁すれば、利益が一致する銀行と外資系が国内社からの乗り換えビジネスを進める懸念すらある。生保解禁論者は外資系ビジネスの水先案内人と言わざるを得ない」と斬り捨てる。
合併で3万9000人の営業職員を率い、かつ定額年金の窓販にも注力する金子亮太郎・明治安田生命社長は、「合併を機に給与評価体系、業務プロセス、システムインフラ、ポイントサービスなどのすべての施策を保有重視で一本化したばかりだ。生保販売は顧客と商品とチャネルのベストミックスで考えるべきもので、特定チャネルの利便性だけで論じてはならない。顧客が求める年金商品を銀行が扱うことで利便性が高まり、銀行も資金移動で手数料が稼げるから、ベストミックスが成立する。保障性商品はベストミックスが成立せず、生保会社には事後救済が不可能な圧力募集から顧客を守り、また営業職員を守る経営責任がある」と語る。
裏返せば、貯蓄商品のようにベストミックスが成立し、大手生保の銀行との資本・取引関係が反映できる形なら糊代合わせも可能と読める。
一方、水面上に顔を出し国内生保の中では勝ち組に位置する中堅生保は保有剥がしを警戒する一方、窓販のビジネスチャンスにも積極的に目を向けている。
小口の特殊養老主体の太陽生命と中小企業向け事業保険主体の大同生命こそ、かつては銀行窓販の影響を最も受けやすいビジネスモデルだった。その両社が株転、グループ統合し、持株会社上場に至るプロセスを経て、最終受益者の株主を意識してしなやかに収益を追求するビジネスモデルを身につけた。宮戸直輝・T&Dホールディングス社長は、「海外投資家向けのIR活動で自分の意識が心底変わった」と振り返るが、彼の言葉は旧来のハイコスト型マーケティングを変えずに天動説的経営を続けた結果、今日の市場構造の変化に追いて行かれなくなった相互会社経営者への警鐘でもある。宮戸社長は、「民間企業にとって規制緩和こそビジネスチャンスであり、大歓迎だ。契約者に不利益を与える不当な乗り換え募集さえ防止されるのなら、窓販は自由競争で行われるべきだ。傘下3社がそれぞれ市場・商品・チャネルの最適組成で独自のモデルを構築し、グループ統合により他の参入を許さぬよう障壁を高くして守りを固めた。可能な限り資源の共有化を進め収益を拡大する」と、通信簿(株価)を意識してか、窓販拡大にひるむ姿勢は微塵も見せない。太陽生命における定期付終身保険への契約構造転換が好調に進捗していること、中小企業経営者側に立って資金全般のコンサルを行う税理士チャネルは、融資ルートの窓販チャネルとバッティングしないこと、そして何より窓販チャネルを基盤に置くフィナンシャル生命を抱えていることが、強気の姿勢の背景にある。
純増会社で、かつ信金の年期窓販と別働体の代申幹事を席巻している富国生命の秋山智史社長は、「強い営業職員と地域の窓販チャネルを併存・両立させ、二本柱に育てるのが経営者の任務だ」と、きっぱり語る。「見出しにならない所でしっかり稼ぐのが伝統」の同社にとって、地域密着の信金の店舗数約8000店舗、渉外行員約12万人の資源は今後の夢を紡ぐ美田だ。信金窓販の当面の課題は、保険ルールの浸透とWebシステムのインフラ整備だ。秋山社長は、「弊害防止ルールは当然必要だし、保全も含めきっちり販売責任は果たしてもらう。そのために当社出前型の汗をかく研修を徹底している。役割分担のためならシステム支援も厭わない。信金ビジネスにとって顧客と息の長い取引ができる保険商品は有効であり、定期積金+小口の死亡定期や第3分野商品のセット商品への取扱ニーズが高い」と抱負を語る。
異色なのはネット・バンカシュアランス構想を持つソニー生命とソニー銀行で、銀行顧客への変額年金・定額年金のネット販売を6月から開始した。「銀行のホームページから生命にアクセスしてもらい、オーダーメードのコンサルティングを希望する顧客には生命のLPの派遣も行う。将来は第3分野、学資保険、無選択型終身なども品揃えしたいが、グループ内の顧客情報が幅広く活用できるよう個人情報の規制緩和を望みたい」(藤方弘道・ソニーフィナンシャルホールディングス副社長)
▼窓販拡大を営業職員体制改革の好機とせよ
金融庁が保険・銀行の基本法制の議論も尽くさずに、拙速に全面解禁の方針を明示できたのは、国内生保の非生産的な営業職員体制の病巣が厳然としてあるからだ。この自戒と改革なくして窓販全面解禁を批判しても、世論の支持は得られない。目先の年責に追われてどれだけ多くの機関長が苦しみ呻吟しているか、機関長経験の無い経営者は実感しないだろう。彼らは働くことは些かも厭わない。辛いのはいくら働いても成果が出ないことだ。 営業職員のモノチャネルが悪いわけでもない。昔も今も愚直なまでにモノチャネルの営業職員がニードセールスを行い躍進を続ける米国のノースウェスタンミューチュアル、日本のプルデンシャル生命のほか、最近では女性職員主体のジブラルタ生命(旧協栄生命時代の3分の1の陣容で、1人当たり月新規3.8件)の個人能率向上の成功例が現実にあるではないか。
朝礼で「今月は契約獲得より採用活動!」などと、珍なる檄を飛ばしている生保会社が世界のどこにあるというのか。陣容の員数合わせと顧客グリップのために高額の退職金を支払った後も優績職員を延長雇用するのは、すでに生保の常識になっている。優績者軽視・新人重視の現場風土に嫌気がさして、国内生保の意欲的な中核職員層が外資系に大量移転して一大勢力を成している現実を、経営者はどう見るのか。「契約獲得・採用・育成」の生保営業のコアビジネスを営業職員の職制にマル投げしている姿を初めて知った代理代行先の損保社員が、こう言った。「生保の機関長(内勤営業社員)って、一体何をやるんですか?」。そう、彼らは日夜悶々と苦悩するのが仕事になっているのだ。
日本生命は今年度から、十把一絡げのS年責より一人ひとりの資格に合わせた主に件数活動を重視する「標準活動」をスタートさせた。縮小再生産からの反転には時間が掛かるだろうが、長年の制度疲労の綻びを謙虚に一つ一つ繕う姿勢は評価して良い。
窓販騒動に目もくれず、朝日生命は粛々と営業職員の個人能率向上に目を当てて企業再生に取り組んでいる。「原点に立ち戻って、獲って守れる強いプレーヤーを丁寧に育成する。顧客(保有)への定期訪問を励行し、紹介(新規)をもらうという同心円のニードセールスを息長く継続して行く。事務部門も含めて総員営業体制を敷き、職員の訪問活動を補完するコミュニケート体制を強化する。総員営業体制で必ず改革を成し遂げ、いずれ株転するつもりだ」(藤田譲社長)
復興に向け業務純益ベースのルール作りを先行させた朝日生命に対し、三井生命は収益拡大が命題となる株転(平成19年度上場予定)を機に組織・業務プロセス改革を先行し、支社・営業所(支部)を一体化した営業部を新設、フラット型営業組織を構築した。銀行との関係では変額年金の窓販でリタイアメントビジネスに布石を打つ一方、三井住友銀行の行員(出向)を受け入れ、中小企業法人RM部門を設置してP/L、B/SベースのRMコンサルのスキルを開発した。このスキルを営業部長に習得させ、各県の中小企業団体中央会(39県で同社が幹事)傘下の中小法人開拓に取り組んでいる。つまり、総合職の営業部長が率先垂範でセールスしているのだ。開拓先の職域には当然営業職員を送り込む。また、個人保険の孤児化対策として保全部隊をチーム編成し、保全部隊から上がってきた新規紹介客にはチームを束ねる総合職管理職がセールスに出向いている。こうした一連の管理職営業の定着を待って、来年度から業務純益ベースの評価基準を試行する。「管理職が実際にセールス活動をしないのでは、営業職員に何も教えられない。そんなまやかしは株式会社では通用しない」(西村博社長)。
突然降って湧いた窓販全面解禁騒動も、国内生保の営業モデル改革の契機になるのなら、後に金融庁の英断として評価されるかもしれない。
<外資系・損保系生保編>外資系は全面解禁、損保系は第3分野解禁主張
▼苦難乗り越え規制緩和で花開く外資系生保
日本市場での営業開始は外資系第1号のアリコジャパン(AIG)が1973年、AFLACが1974年で、今でこそ花形市場の第3分野、年金といった生存保障分野のリーディングカンパニーとして脚光を浴びているが、その歴史の前期3分の2は極めて厳しいニッチ商売を強いられて来た。およそ10年前までは昭和20年代前半生まれの1000万人余が死亡保障中核層を形成し、40万人余の生保営業職員が死亡保障市場を制圧していた。
したがってそれ以前の約20年間、知名度が低く販売チャネルが脆弱な外資系生保は、定期付終身とは比較にならないほど収益が軽いニッチの第3分野商品を損保代理店である企業代理店、金融機関代理店(別働体)、あるいは専業代理店に販路を求めて、細々と売り歩くしかなかった。外資系だから合理的なローコストオペレーションとロスコントロールを行っているというのは誤りであって、本体の軒先を借りて営んでいる損保代理店のさらに軒先を借りながら、利幅の薄い商品で幾多のロスコントロールの失敗も経験しながら食いつないできた前期20年の体質が、今日の比較優位のローコストオペレーションとロスコントロールを可能ならしてめているのだ。
▼自国の窓販の延長線上で夢を紡ぐ外資系生保
現在すでに、05年度の窓販拡大を睨んで、外資系生保の外貨建利率変動型養老保険や損保会社の貯蓄割合を高めた積立傷害保険などが相次ぎ市場に投入されている。
今回のヒヤリングで興味深かったのは、米国系経営者は米国での窓販を前提に、欧州系経営者は欧州諸国での窓販を踏まえて、それぞれ日本の窓販全面解禁への夢を描いていることだ。日本はおおむね保険市場は米国追随型だが、銀行と消費者の密着度では欧州型に近い。スペインは92年の販売チャネル自由化以降、10年間余で銀行窓販の生保市場シェアはゼロから実に77%に達した。フランス、イタリア、ベルギーで50~60%台、ドイツは21%で、独立系FAが強く18%と最もシェアの低いイギリスでも04年中に銀行が複数商品の販売ができるように規制緩和され、07年度には28%程度の占率となる見通しだ。今後、もし日本が欧州型のバンカシュアランス形態へと変貌を遂げるなら、生保業界の構造は大変革を遂げるだろう。
▼欧米最強生保は全面解禁で勝機探る
「規制緩和は公平・公正・透明の原則を徹底すべき。第3分野を狙い打ちするのなら絶対反対だ」 世界の保険業界で時価総額でトップにたつ米国系AIGの戸國靖器・日本生保統括COOはまず釘を指し、全面解禁論を主張する。「第1分野の圧力募集などコンプラの厳しい今日あり得ない。やるなら全面解禁だ。段階的でも良いが、種目を分けたり保険金で制限するのは消費者利益の機会均等にならない。構成員規制も消費者に保険購入機会の均等を阻害するので、早く撤廃すべき。国内生保は付加率の一物二価に将来つながるのを恐れているのではないか」
AIGグループの中核生保・アリコジャパンの宮本富生社長も、「全面解禁に向け、銀行への生保研修を拡充するとともに、グループの損保代理店の生保研修にも配意したい。銀行の富裕層・事業者顧客には逓増定期、カウンター販売には第3分野、年金+第三分野の定期商品、定期預金+死亡定期が売りやすい。銀行顧客への第3分野商品のダイレクトマーケティング(代理店介在型通販)も最適だが、顧客情報管理面のネックがあるのでは」と、早くも具体的な品卸し構想をめぐらす。
欧州系で総資産世界首位に立つ、仏アクサグループの日本持株会社アクサジャパンホールディングのフィリップ・ドネ社長は、「完全な自由化を望む。アクサグループは欧州だけでなく、全米3位のバンカシュアランス実績がある。自由市場ではイノベイティブな商品・サービスが提供できる競争優位な強いプレーヤーが勝ち残る。基盤の商工会議所チャネルと地域銀行との提携関係も構築可能だ」と自信を示す。
▼第3分野市場で利害対立する米国系と損保系生保
銀行本体窓販が全面解禁になるか、それとも第3分野限定になるかで、米国本社の盛衰にも影響するのがアメリカンファミリー生命だ。日本の売上げがグループ全体の8割を占め、別働体での第3分野販売でトップシェアを握るなど、銀行窓販のあり方次第で大きな影響が及ぶのは必至だからだ。チャールズ・D・レイク社長は、慎重に言葉を選びながら、「当局は国民、生活者の視点でベストの内容とタイミングで規制緩和すると信じている。自ずから公正で公平な競争が行われるようにするだろうし、消費者の自己責任による選択が最大限可能となる規制緩和を考えていると思う。特定分野のみに消費者の利便性ニーズがあるわけではなく、競争条件にねじれが生じるような例外を置くことなく、国民、生活者の視点ですべてのルールが全体的にすっきり緩和されるものと思う」と語る。
一方、損保各社とその生保子会社は、「第3分野早期解禁」で口を揃える。
東京海上日動あんしん生命の太田資暁社長は、「生損保トータルリスクマネジメントの主役であるプロチャネルが着実に育っている。開拓余地の大きい第3分野はプロチャネルとバッティングすることなく、窓販でさらに市場が拡大する」と期待を寄せる。
損保ジャパンひまわり生命の田山泰之社長、三井住友海上きらめき生命の近藤哲雄社長はともに、窓販の規制緩和に関連して、プロ化が進む企業代理店への構成員規制の撤廃を要望する。
▼窓販先進国の欧州勢は全面解禁へ強い期待
日本の別働体での逓増定期販売で首位に立つアイエヌジー生命のヨハン・デウィット社長は、「本国オランダではバンカシュアランスで首位に位置する。逓増定期の別働体での開拓をさらに進め、将来は銀行本体での販売も期待している。ただし、圧力販売は好ましくない」と語る。
クレディ・スイス生命のウルリッヒ・ブランケン社長は、「欧州での生保のバンカシュアランス占率はスペインが77%、フランス、イタリア、ベルギーが50~60%台、ドイツは21%で、独立FAが強い英国は18%だ。日本の銀行窓販では、変額年金、ユニットリンク、一時払養老がふさわしいと思う」と分析する。
ピーシーエー生命のトーマス・J・ホワイト前社長は、「15年前から銀行のカウンターセールス、クレジットカードの顧客情報による直販が行われ、現在英プルデンシャルグループでは、銀行内に自社(保険会社)社員のFAグループを配置し、行員から顧客紹介を受けている。また、銀行顧客の中小企業職域を訪問する社員コンサルタントチャネルもある。通常、エージェントが銀行店舗内にオフィスを置く。銀行に対する販売商品の制限はないが、ベストアドバイスの義務があり、保険会社がセールス・コンプライアンスを守らなくてはならない。コンプラ証明書類には、融資抱き合わせ販売はされていないとの声明文があり、顧客の署名をもらわなくてはならないルールになっている」と英国での窓販規制の実態を語る。
▼手数料ビジネスの年金窓販は外資勢が席巻
02年10月からの年金窓販で、AIG(アリコ、AIGエジソン生命)、ハートフォード生命、三井住友海上シティ生命の3社・グループが日本のリタイアメントビジネス市場開拓の先頭に立つ。消費者、チャネル、商品と環境要因のベストミックスが働き、特に銀行は預金から年金に資金移動するだけで、本業では考えられない望外の販売手数料(商品・年齢等で異なるが外資系生保の変額年金の例で初年度5%+継続0.1%台)を掌中にでき、販売意欲が強く刺激された。死亡保障主体の従来の日本の生保市場には見られなかった、50歳代半ば〜60歳代後半の小金持ちの高年齢契約者層で構成される資産残高3兆円規模の変額年金市場が僅か1年余の短時日のうちに創出された。
9割9分までが投資信託で、残り1分が既払込保険料相当分の死亡給付金が織り込まれているという点で、保険性がある変額年金商品は、旧来の保険マーケティングの手法には乗らない個人向け資産運用商品である。預金者は馴染みの銀行ブランドの運用商品として購入するわけで、供給者の保険会社にはほとんど興味を持たない。
フロー収益拡大のために渉外行員のコストを掛け年金保険を販売する銀行は、より高い販売手数料(事実上、銀行ブランド料)を求める。結果、国内生保のようにハイコストの支社経費が掛からず、ホールセラー(銀行店舗担当の販売支援社員)主体のローコストオペレーションにより、高い手数料を支払う外資系(シティ生命は三井住友海上の出資分が51%で正確には損保系生保の範疇)の年金窓販専業生保や、外貨建利率変動型定額年金(年齢・期間により2〜4%の手数料と、円→ドル、ドル→円の往復で銀行に為替手数料が入る)を扱う外資系生保が新市場を席巻している。
年金窓販は典型的な手数料ビジネスで、窓販規制緩和が日本の退職者市場創出とその先鋒役を担う外資系(損保系)生保の経営に追い風となった。出遅れた国内生保が1900万人の50歳以上の退職者市場に参入拡大するためには、そのアセットマネジメント資源を生かし、本体と分離したローコスト経営可能な退職者市場専門会社を興すのも一法だろう。
変額年金主体の新設会社は、現在検討中の責準見直しによる負担増の軽減や、銀行と銀行系証券会社の窓販でのみ取扱が排除されている終身保障特則・一時金付終身年金の即時解禁の要望で足並みを揃える。定額年金主体会社も含めて全社が要望するのが、銀行の役員派遣先・出資先(特定関係先)への構成員契約規制の撤廃だ。リテール外販市場の年金窓販顧客に対し同規制を適用することに関しては、国内大手生保経営者も自社での年金窓販を体験して初めてその制度矛盾を認識したが、「部分的に緩和するのは良いが、蟻の一穴になるのも困る」と、なんとも歯切れが悪い。
米国の変額年金分野でトップシェア、日本でも都銀地銀幅広く全方位取引を行い、売れ筋の最低保証型商品を主体に資産残高5600億円余と、変額年金最大手に上り詰めたハートフォード生命のティモシー・P・シルツ社長は、「日本の変額年金市場は10年度までに30兆~50兆円規模に発展するとみられ、極めて有望だ。今秋にも利率変動型定額年金を品揃えする。将来は米国で成功したFPチャネルを持ち、各年齢層向けに変額年金のほか401k、ミューチュアルファンドなど幅広い資産形成商品を販売したい」と語る。
三井住友銀行のネットワークを基盤に業績急伸展中の三井住友海上シティ生命は今年3月末の収保で4200億円余となり、ライバルのハートフォード生命を上回った。山本文夫社長は「開業1年半で顧客数が6万人に達した。長寿社会で長生きのリスクが高まり、今後とも好調な業績伸展が見込める。当面、商品の選択肢として定額商品も揃えたい」と意気軒昂だ。
外貨建の利率変動型定額年金が大ヒットし、アリコとエジソン合計で7000億円余の収保を荒稼ぎするAIGは、日米市場でハートフォード生命と資産規模の覇を競うが、投信会社を含む総合保険・金融グループならではの比較優位な資産形成モデルと研修体系を構築し、銀行側の信頼を掌中にした。「投信や株式投資でリスクが取れるのは現役世代で、リカバリーがきかない退職者の老後資金(年金)は変動率上下10%以内に抑えるべき」(AIGバンカシュアランス担当の平野哲・アリコジャパン専務)と、他社と戦略の違いが際立つ。
東京三菱銀行から50億円の優先株出資を受け、メガバンクへの純正商品を供給する途を選択したマニュライフ生命は、「銀行によって顧客層は異なる。東京三菱銀行の預金者のためだけの最適純正商品を作り込む。東京三菱の判断で系列地銀での要請があれば応えたい。全面解禁になればさらに幅広い商品が提供できる」(トレバー・マシュウズ前社長)。
ミレアグループの生保部門を担う東京海上日動あんしん生命と、同フィナンシャル生命は窓販商品を棲み分ける。あんしん生命は@中高年齢ミニリッチ層向けのドル建利率変動型定額年金、A現役世代向けの平準払い定額年金を、フィナンシャル生命は退職者富裕層向けの変額年金を卸している。「国内生保が定期付終身に傾斜して退職者市場を空けておいてくれたので、開拓余地が大きい」(山下勝・東京海上日動フィナンシャル生命社長)
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