●99年度損保決算総括・構造不況業種の入り口に立つ(2000年6月)
主力の自動車保険の低迷により、損保主要15社の99年度決算は3期連続の売り上げ(正味収入保険料)減収となった。東京海上、安田火災、住友海上、大東京火災の4社が前期比1%以下のギリギリの増収でなんとか「勝ち組」の地位を確保したが、その他はすべて減収で「負け組」となった。2001年度合併組の三井海上+住友海上、大東京火災+千代田火災、日本火災+興亜火災の各2社合計収入保険料はいずれも減収となり、なんのことはない大手単独損保の東京海上と安田火災の2社だけがかつかつ「勝ち組」になったという格好だ。
個別に見ると三井海上、日動火災、富士火災、興亜火災、日産火災、大成火災、共栄火災は2%台の減収で、商品・価格・販売チャネル各面で有効な自由化戦略が打ち出せなかったことから、「勝ち組」に契約を奪取された形となった。自由化市場の「負け組」に共通するのは、経営の意志決定と営業施策展開に著しくスピード感がないことだ。
当期利益は東京海上を除き各社増益となったが、おおむねシステム経費の一括償却や企業年金の積立金不足の解消のため、含み益を吐き出した化粧がめだつ。
肝心の本業の保険引受利益(危険差益+費差益)ではついに三井海上と千代田火災が赤字決算を余儀なくされたが、台所事情はどこもおおむね同様で、モータリゼーションの伸展(自動車販売台数の右上がりの伸び)が終焉を迎えた今日、自動車保険頼みの損保はもはや構造不況の入り口に立たされている。
6月で損保料率自由化の経過措置期間が終了、完全自由化に突入した。さらに2001年4月から代理店手数料の自由化が行われ、2年間の移行経過措置(認可制維持)期間後、いよいよ本格的なコスト(付加保険料)圧縮競争が始まる段取りだ。だがしかし、「負け組」各社の現状は分母の売り上げが落ち込む中、リストラでいくら社費を削減しても事業費率の改善は遅々として進まない。
今後、危険差損を費差益でカバーできない赤字会社の続出が予測される中、本格的な価格競争を前に早くも、自動車保険の早期の料率引き上げに期待を寄せる輩もいるほどだ。
2001年の統合を決めている三井海上+住友海上、大東京火災+千代田火災、日本火災+興亜火災と、日本生命の傘下に入る同和火災は資源統合によるスケールメリットが期待できる一方、営業課支社の人事体制や代理店レベルの一体化が完了するには5〜10年の期間を必要としよう。その間、営業展開がスピードダウンする懸念もある。
とりわけ、合従連衡の輪の中に入れない中小損保の前途は極めて厳しい。唯一生保型のポートフォリオで逆ざやを抱えた第一火災が破綻したが、今後は価格(コスト)競争に負けて損保市場から消えていく会社が出てくるだろう。現状の会社構造のままで資本提携・統合の手当ができていない中堅下位6社が単独で今後の価格競争を生き残る姿は見えない。
2001年以降の第2次統合の輪に入るか、他業態・外資の傘下に入るか、あるいは自律的に直販会社への組織変更や地域販売会社の設立など大胆なリストラクチャリングを断行するか――もはや猶予期間は残り少なく、その命運は切迫していると言っても過言でない。今後、持続的なIT投資ができなければ何より有力代理店のグリップが困難となろう。統一価格・統一商品の時代が終わり、消費者・代理店による保険会社選びの時代が始まった。(マネージャパン2000年8月号掲載記事に加筆)
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