●金融・保険サービスミックスの展望(1999年12月26日) ◎「金融・保険総合口座」に向けた統合・再編
98年、イギリスに端を発した金融ビッグバンの潮流は、99年のアメリカの金融制度改革法の成立(グラス・スティーガル法の廃止)、そして日本での2001年金融ビッグバンへと受け継がれ、世界3大金融市場で銀行・保険・証券相互参入の規制緩和措置が完了する。
すなわち、2001年以降は世界的規模で情報技術(IT)革命と相まって、金融・保険革命が一気に進行する。商品、サービス、販売チャネルの各面で金融・保険サービスミックスの時代が到来するのだ。
その流れの中での覇権(勝ち組)と生き残り(負け組)を賭けて、目下、金融・保険業界での統合・再編の動きが活発化している。
金融・保険サービスミックスの流れは、「金融・保険総合口座」という多機能商品の姿で消費者の目の前に出現するだろう。それは金融・保険サービスを顧客単位に一元的かつ一体化して資産管理するフルライン口座である。
主なサービスメニューとして@生保(伝統的な単品の定期付終身保険に代わって、今後は変額保険や予定利率変動型保険などの金融機能を組み込んだ商品や、医療・介護保険などの生存保障商品が主体になる)、損保(自動車保険+火災保険+傷害・賠責保険+医療・介護費用保険などのオーダーメード型商品が主体になる)、A決済・預金、B投資信託など金融商品、C個人年金(保険)、確定拠出(401K)型年金、確定給付型年金、D各種ローン(主に小口無担保ローン)、E医療・ヘルスケア・介護サービス――などがパッケージされ、消費者が必要なメニューを選択して取引きすることになる。
消費者にはワンストップショッピングによる利便性が高まり、金融・保険会社は経営資源共有化によるコスト圧縮(=低価格化)を実現しつつ顧客囲い込みが可能になるメリットがある。
「金融・保険総合口座」による顧客囲い込みで主役となるのは、決済機能を持つ銀行と、契約者カードや新旧契約束ね式の保険料割引サービスで、すでに大量の個人顧客の名寄せシステムが構築できている大手生保会社だ。
とくに401K型年金が導入されると、個人顧客の大量のデータベースを保有する大手生保会社が脚光を浴びることになろう。
◎直販、流通業主導で保険の価格破壊が進む
「金融・保険総合口座」のサービス供給主体を類別すると、@金融・保険会社提携型、A金融(保険)持株会社型、B直販金融・保険会社、流通業主導型、C独立系FP・ブローカー管理型―の4つの類型が考えられるが、それぞれマーケット別に機動的に連携することもある。
当面、投資コスト面から最も実行しやすいのは「金融・保険会社提携型」で、それぞれ既存の銀行・証券・生保・損保会社が提携して、総合口座に商品・サービスを供給し、銀行窓口販売(銀行店舗ATMや流通業店舗内店舗としてのATMサービスを含む)、インターネットや電話による直販、生保会社の営業職員、損保会社の代理店、証券会社の外務員などがクロスセルを行う。医療・ヘルスケア・介護の現物給付サービスについては、新たに経営資源を整備する必要があることから、コスト負担が大きく外部の専門業者と提携する方法が一般的だろう。
また今後、すでに傘下に損保子会社や証券・投信関連企業を持つ大手生保相互会社各社は株式会社転換後、保険持株会社を設立するだろう(株転の時期は、同じ金融機関として銀行の株価が上昇する局面が1つの参考になる=コラム「生保相互会社の株式会社転換」参照)。同様に大手損保各社も保険持株会社を設立することになろう。
この持株会社の下に生保会社、損保会社、証券会社、ネットバンクを配置して単独の保険グループとして「総合口座」を供給する考え方が「金融(保険)持株会社型」のサービスミックスである。
ただし、傘下に銀行(ネットバンク)を保有すると金融持株会社となり、一般事業会社を保有できないので、ヘルスケア市場等への進出を重視する保険グループの場合は、保険持株会社の形態で傘下に生保、損保、証券会社と医療・ヘルスケア・介護の現物給付サービスを行う事業会社を置き、決済機能は他の銀行(ネットバンク)と提携するという選択肢もあるだろう。
こうした「提携型」や「持株会社型」のサービスミックスの場合、保険商品の価格面で保険会社が供給主体である以上、低コストチャネル(直販、窓販・ATMサービス)であれ、高コストチャネル(営業職員、代理店)であれ、「一物一価」の原則を守ろうとするため、販売チャネルごとに価格格差が出てこない懸念もある。これでは消費者にとって、利便性はあっても有利性がないことになる。
これに対して「直販金融・保険会社、流通業主導型」の場合、直販金融・保険会社はローコストによる低価格のホームフィナンシュアランス(ホームバンカシュアランス)サービスを最大の売りものにするであろうし、またコンビニチェーンなどの大規模流通業が主導するサービスミックス(ATM主体)では、保険会社より売り手側の力が強いため、保険の価格(経費部分の付加保険料)が卸し値になる可能性が高い。
これが契機となり、やがて「提携型」や「持株会社型」でも、販売チャネルごとに価格差が生まれ、保険の価格破壊が進む可能性もある。
◎外資が保険業界再編の引き金になる
金融・保険フルラインサービスの時代を目前にして、生保・損保会社とも国内外の金融機関と提携してインフラ整備を急いでいる。
一方、ビッグバン後のビジネスチャンスを見据えて、外国金融機関が単独での生き残りが困難な中小生損保会社を傘下に収める動きも目立っている。
株式の時価評価の低い保険会社の大半は、今後、持株会社方式または買収により外資の軍門に下ることを覚悟しなければならない時代になった。
とくに株価が低い割りに、含みの大きい政策投資(持ち合い)の株式を保有する保険会社が例えばアクサ、AIG、ING、GEなど巨大外資の買収攻勢を受けることになろう。
現在の株価で、2000億円前後の投資で準大手クラスの優良な損保会社が買えるが、資産の含み益を勘案すると、外資にとっては実にお買い得な物件といえるのだ。
損保業界の統合や資本提携が先行する裏側には、巨大外資による買収攻勢への防御を急いでいるという事情も透けて見えるのだ。
株式の持ち合いが崩れるこの2〜3年のうちに、外資による保険会社の買収攻勢が一気に激しくなるだろう。
◎保険業界の主な提携・統合の動向
[生保業界]
<日本生命> さくら銀行が富士通と提携して設立するネットバンクに資本参加、ネットサービスを共同開発。さくら銀行が三洋信販、コンビニチェーンのエーエム・ピーエム・ジャパンと提携して設立する個人ローン(小口無担保カードローン)会社に資本参加、ATM・ネットサービスを共同開発。さくら銀行、エーエム。ピーエムジャパンと共に複合サービス体制構築に向け協議会発足。
マスタートラスト(企業年金資産の一元管理業務)解禁に向け、三菱信託銀行と提携し、専門銀行を設立。
損害調査網でニッセイ損保と提携関係にある同和火災に資本参加、業務資本提携を強化し事実上傘下に収める。
<第一生命>日本興業銀行と全面業務提携。第一段階として両社の資本運用会社3社を合弁、第一ライフ投信投資顧問設立。年金受託残高は国内投資顧問会社で最大規模。
<明治生命 >401K型年金、証券業務一本化などで東京三菱銀行、三菱信託銀行、東京海上と包括提携。マスタートラスト業務で三菱信託銀行と提携。
日新火災に資本参加、事実上傘下に収める。代理店網の活用と明治損保の損害調査網拡充。
<安田生命 >英国自動車保険直販会社最大手のダイレクトライン社と合弁会社設立へ。損保分野は自動車保険の直販と、傷害、火災保険の営業職員代理店販売を棲み分ける。
<朝日生命・富国生命> 三金会グループの第一勧業銀行、日産火災、大成火災と共に介護事業会社設立。
<太陽生命・大同生命 >共同持株会社による統合へ。両社とも健全な経営内容を誇っているが、今後の銀行窓販対策(太陽生命)、国内保険会社への第三分野解禁に伴う法人会市場の確保(大同生命)などの課題を背負っており、統合より経営基盤を強化。三和銀行、東洋信託銀行、日本火災、興亜火災、ユニバーサル証券と業務提携、共通ブランドの総合口座開設へ。
◎[損保業界]
<東京海上> 三菱金融4社で包括提携(前述)。米国チャールズシュワブ社と合弁で証券直販事業に参入。
ネットバンク創設に向け、ソフトバンク、イトーヨーカ堂、オリックスとの企業連合で日債銀買収に乗り出すが、イトーヨーカ堂が単独で決済専門銀行を設立する方針を決めたため、企業連合での日債銀買収は流動的に。いずれにせよセブンイレブンのATMによる金融・保険サービスの開発は進捗。
<三井海上・日本火災・興亜火災> 住友海上は4社連合では統合のスピードが遅くなるとの判断で離脱。独自にパートナー選びを模索。3社は統合推進本部の下に分野別に16委員会を設置、具体的な統合作業を進捗中。統合後、直ちに引受会社と販売会社、あるいはホールセール主体会社とリテールセール主体会社など、機能・分野別に分社化できるかどうかがポイント。総合口座の決済機能で三和銀行系とさくら銀行系との股さき状態になる懸念もある。
<千代田火災> トヨタとの資本業務提携を強化し、トヨタグループ企業としてのブランドと経営基盤を確保。
<セコム東洋> セコムのブランドで経営基盤を拡充
(本稿は、「マネージャパン2000年2月号」執筆稿に加筆したもの)。
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