●課題多い保険相互会社の株転  (1999年9月)
 生保相互会社の自己資本強化策は基金の増額か、劣後債・劣後ローンの調達か、いずれにせよ金利負担のかさむ限定的な方法しかない。そこで、市場からの機動的な資本調達に道を開くため、96年施行の新保険業法に保険相互会社の株式会社への転換(株転)規定が導入された。
 株転は、大手生保にとっては保険持株会社傘下に生保、損保、銀行(無店舗)、証券会社をブラ下げての保険・金融フルサービス体制を実現する攻めの手段となり、一方、資産劣化の著しい「危ない生保」にとっては救済合弁による生き残りの切り札となる。現在、生保46社中15社が相互会社で、保有契約高や総資産の約9割を占めているが、6324万人もの膨大な数の社員(契約者)の存在が、株転の最大のネックになっている。現行規定では株転に際して、各社員の寄与分(会社の純資産形成への貢献度)に応じて株式を割り当て、社員権の補償をしなければならない。しかし、中堅生保でも100〜300万人、大手生保では日本生命の1400万人を筆頭に1000万人前後の社員を抱えており、株式の最低額面5万円未満の端株や端株未満の端数割当てが大量に発生するため、株主総会の運営、管理コスト面などで実際上株転は困難なのだ。
 金融審議会はこのネックを解消するため、商法の端株制度の特例として、端株・端株未満を一括売却し、その代金交付をもって社員権の補償を行うスキームを打ち出した。これにより株転がやや現実の話になりつつあるが、株式割り当てに際しての実務的な寄与分計算方法も決まっておらず、とりあえず株転の方向性が見えてきたという段階に過ぎない。 端株以下を一括売却代金の補償で整理した場合、一株以上の株主になれるのは二割前後とみられる。社員数が1000万人の会社なら、200万人の株主が誕生するわけで、NTTの140万人を上回る会社が少なくとも3社(日本生命、第一生命、住友生命)出現する。もし全社株転すれば1200万人余の大量の株主が新たに誕生するわけで、株式市場の活性化につながる。ただし、「危ない生保」が株転すれば即、市場から退出命令が出されるため、株転が必要な会社ほど株転できないことになる。また、株転後の株価が下落すれば、株主訴訟が起こされる可能性もある。
 しかし、銀行・保険の垣根を越えた大規模な包括提携が進む中で、株転の実務的検討に猶予はない。(本稿はマネージャパン執筆稿に加筆したもの)

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