土砂災害、洪水など水害の補償のポイント解説(2014年8月22日・26日)


●被害者生活再建支援制度と保険の補償について
  集中豪雨による土砂災害・洪水など水害に適用される主な補償制度は次の通り。
<自治体の補償>
 被災者生活再建支援法に基づいて、都道府県が拠出した基金により被災者生活再建支援資金(最高300万円)を支給する「被災者生活再建支援制度」がある(国からの補助が2分の1。東日本大震災では5分4補助)。原則、10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等に適用される。広島市は8月20日付で適用(福知山市は17日付)。
 対象となる被災世帯は、@住宅が全壊、A住宅が半壊または敷地に被害が生じ、やむを得ず解体された場合、B居住不能(避難)状態が長期間継続した場合、C住宅が半壊し、大規模な補修が必要となる場合。支援金は、住宅の被害程度に応じて支給する基礎支援金として、@全壊100万円、A解体100万円、B長期避難100万円、C大規模半壊50万円と、住宅の再建方法に応じて支給する加算支援金@建設・購入200万円、A補修100万円、B賃貸(公営以外)50万円の各合計額。例えば、住宅が全壊、解体、長期避難により、新たに住宅を建設・購入した場合は計300万円、住宅を補修した場合は計200万円、大規模半壊で賃貸住宅に住む場合は100万円が支給される。
 支給申請窓口は市町村で、罹災証明書(市町村が交付)、住民票、住宅購入・賃貸契約書など必要書類を提出する。

<保険の補償>
 個人が加入する各種保険・共済でも、水害(水災)に対して所定の補償を行うものがある。
〈住宅・家財〉水害については、住まいの火災保険で所定の補償を行うものがある。火災保険では、掛け方と水害を補償する保険の種類、保険金支払いの条件を知っておきたい。

 (1)掛け方のポイント:火災保険は建物と家財それぞれに契約するものであり、例えば建物だけに火災保険を掛けていて家財に掛けていない場合、当然、家財の損害は補償されない。基本的な掛け方の例としては、戸建て住宅なら建物と家財(一式)に、賃貸マンション・アパートなら家財(一式)に火災保険を契約する。

 (2)保険選びのポイント:保険の種類によって水害が補償されるものと補償されないものがあること。大別すると、水害が補償されるのは損保各社のいわゆる独自商品(総合補償タイプ)と呼ばれるものと、従来から各社共通に扱う住宅総合保険。一方、水害が補償されないのは住宅火災保険。
 詳しく説明すると、損保各社の独自商品(総合補償タイプ)は現在、個人が加入する火災保険契約の5割以上を占めていると思われる。契約時に設定した3万円・5万円といった免責金額(契約者の自己負担額)を超える損害について、契約金額を限度に実際の損害額が補償される。
 また、住宅ローンにセットして加入することが多い住宅総合保険は、火災保険契約全体の4割前後を占めるだろう。これは水害の補償については一定の制約がある。損害割合(保険価額=建物や家財の経済的価値に対する損害額の割合)15%未満の場合は契約金額の5%(100万円限度)、同15%〜30%未満の場合は同10%(200万円限度)、同30%以上の場合は同70%(契約金額限度)となり、最高でも損害額(または契約金額)の70%の支払いとなる。
 これらに対し、旧来の損保業界共通商品の住宅火災保険は水害不担保で補償されないが、現在、住宅火災保険の新規引き受けは行っていない損保会社が多いと思われる。かつての住宅ローン付帯の長期契約が残っている程度で、全体の1割前後の契約占率と類推される。水害を補償しない分保険料が安いことから、住宅ローンを借りた際とりあえず住宅火災保険に加入した人がかつてはかなりいたが、最近の記録的な集中豪雨等を勘案して居住地域の水害リスクを精査して改めて適切な保険選びをすべきだろう。
 ちなみに、水害を補償しないそのほかの火災保険契約としては、当然のことながら、水害の不安がない地域に建つマンション居住者が総合補償タイプの各社独自商品に加入してはいるが、水害不担保特約を付帯して水害の補償を取り外している契約もある。

(3)保険金支払い条件のポイント:広域災害が想定される水害の補償対象となるには一定の制約条件があるということ。どのような損害でも補償されるわけではない。水害により、保険価額(契約金額の上限となる経済的価値)の30%以上の損害、または床上浸水(商品により、地盤面より45センチ以上の浸水との規定も含む)が補償の対象となる。床下まで水につかったとしても、床下浸水は補償対象にならないのだ。

(4)損害発生時のポイント:水害が発生した際、契約者がこれだけは覚えておいて欲しいポイントは、火災保険は自然災害を広く補償するものだから、自分の加入している火災保険の内容がよくわからなくてもいいから、ともかく風水害などの損害が発生したら、保険会社や取り扱い代理店に直ちに連絡することが必要だ。補償内容は保険会社や代理店がわかるし、保険証券が水につかってみつからなくても、保険会社は契約をコンピュータ管理しているから、何ら心配ない。むしろ、保険会社への事故連絡が遅れると後で因果関係が不明確になり、保険金支払いをめぐってトラブルになることもあるので、注意したい(損害の拡大を防止する主旨で、契約者の事故連絡が通知義務として規定されている場合がある).。

(5)保険料比較のポイント: 戸建て住宅の契約モデル例による、水害補償あり・なし保険料比較
※火災保険料率は建物構造別に3区分(マンション構造、戸建て耐火構造、戸建て非耐火構造)、地域別に47区分(都道府県別)ある。
※大手損保会社の独自商品(スタンダードな総合補償タイプ)の例。水害の補償が選択できる。
〈契約条件〉
 ・戸建て、木造非耐火構造 ・保険金額:建物3,000万円、家財500万円 ・保険期間:1年 ・保険料支払い方法:年払い ・自己負担額(免責金額):なし
◎東京都の場合
 ・水害補償ありの場合 建物:49,920円 家財:11,050円
 ・水害補償なしの場合 建物:37,020円 家財:7,270円
◎広島県の場合
 ・水害補償ありの場合 建物:55,080円 家財:12,000円
 ・水害補償なしの場合 建物:42,180円 家財:8,220円

 上記の保険料例の通り、保険料は水害の補償なしより補償ありのほうが、補償範囲が広い分2割以上高い。また、都道府県別の事故の発生・損害状況をもとに地域別料率が算出されているため、最近は自然災害の支払いが多い地域の保険料が相対的に高い傾向にある。特に台風の影響を受けやすい九州、中国地方は高い傾向にあり、東京より広島のほうが約1割保険料が高い

〈水害を補償する住まいの共済〉民間保険以外では、JA共済の積立型長期火災共済「建物更生共済」が主に地方農村部で普及している。水害の補償は、共済価額(共済金額の上限となる経済的価値)に対する損害額の割合が5%以上(床上浸水以上)の場合、契約金額に損害割合を乗じた金額が支払われる。

〈車〉水害については、一般の車両保険、エコノミーワイド車両保険(エコノミー車両保険+車両危険限定A特約)で補償されるが、他車との車対車の事故による損害のみを補償するタイプの契約(エコノミー車両保険。新規引き受けしていない会社もある)では補償されないので注意したい。

〈身体〉水害で死傷した場合、生命保険、医療保険、傷害保険で契約内容通りに補償される。


●水害リスクの見分け方について
 では、どういう地域で水害の補償が必要になるのか。居住地域における水害リスクの有無と保険料負担との兼ね合いで、水害補償の選択を検討することだ。
〈ポイント1〉自治体のホームページで調べること。各自治体のホームページで洪水(浸水)ハザードマップを掲載しているので、居住(見込み含む)地域の水害リスクを調べること。水害の危険度に応じて地図が色分けしてあり、すぐわかる。過去の地形は国土地理院のホームページで明治時代の河川、沼、水田などを調べることもできる。
〈ポイント2〉自分の目と足で日頃から地形や排水状況などを観察すること。居住地域の地形の高低はどうか、川や水路、沼、水田、崖などがあるか、昔の名残はないか、雨水の排水設備に瑕疵はないかなど、実際に歩いて観察する。とくに雨の日に下水路の排水状況、道路やアンダーパスの水の溜まり具合などをチェックしておくこと。
〈ポイント3〉地名で潜在リスクをすること。古くからの住人に水害の有無を聞くのも良いが、最近の50年や100年に1度の集中豪雨には最近の経験則が通用しない。ただし、多くの地名には100年前200年前の隠された地形が残っている。地名に下、川、沼、沢、谷、堀、池、井、泉、浦、浜、窪、淵、瀬、島、田、津、港、潮、船、橋などが残っている地域は、コンクリートの舗装の下に昔の川、沢、沼、田などが隠れている可能性がある。

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