●新潟中越地震発生!地震災害の備えは大丈夫?
<速報>10月23日午後5時56分の1回目を皮切りに、新潟県中越地方で震度6強の地震が3回発生した。新潟県の地震保険の世帯加入率(03年3月末)は11%と低く、火災保険に対する地震保険付帯率も26.4%に止まっているため、現地被災家庭の生活建て直しには困難が伴うものと思われる。ちなみに、新潟地方では、地震保険創設の契機ともなった1964年(昭和39年)6月の新潟沖を震源地とする新潟地震以来40年ぶりの大規模震災となった。以下は9月4日掲載分の「地震保険Q&A」に追記したもので、改めて地震保険の内容を理解しておきたい。
Q:阪神大震災で地震保険に対する関心が高まったと言われるが、普及状況はどうなのか?
A:確かに、阪神大震災以降、地震危険度の高い地域での加入率が徐々に高まってきていますが、全体的には03年度末の世帯加入率を見ても17.2%(北海道16.1%、宮城20.5%、千葉21.9%、東京24.8%、神奈川23.9%、静岡22.1%、愛知26.3%、大阪17%、兵庫12.9%、広島19%など)と、余り高いとは言えない状況です。
火災保険の加入申込書の手続においては、原則として地震保険にも自動的に加入する申込書になっているのですが、あえて署名または捺印して地震保険には加入しないという手続をする人が大半を占めているのが実情です(火災保険に対する地震保険の付帯率は約3割)。
損害保険料率算出機構の統計でも過去500年間で被害のあった地震は400回発生しており、発生頻度は年平均0.8回となっています。明治以降の統計でも死者が発生した地震災害は90回も発生しています。したがって、地震列島・日本では全国どこでも阪神大震災や今回の新潟県中越地震のような地震災害が年1回程度は起きる可能性があり、地震保険やJA共済の建物更生共済への加入、あるいは預貯金による備えが必要です。
Q:火災保険だけ加入している場合は、地震による損害は補償されないのか?
A:地震による火災・倒壊・破損、地震や噴火またはこれらによる津波の損害、地震等に起因する河川の洪水や崖崩れ・地滑り・山津波による流失・倒壊・埋没・破損、などの損害は、一般の火災保険では補償されません。地震保険を火災保険にセットして加入することではじめて、地震等による上記の様々な損害が補償されます。また、地震保険だけ単独で加入することはできません。
なお、地震による火災で半焼以上の損害が発生した場合、住まいの火災保険で保険金額の5%(300万円限度)の地震火災費用保険金が支払われますが、これは火災時の緊急費用を補填する趣旨のもので、損害保険金が支払われることはありません。
Q:すでに火災保険だけに入っている場合は、その火災保険の保険期間の途中で地震保険に入ることはできるのか?
A:いま加入している火災保険の保険期間の途中でも地震保険をセットすることができます。地震保険は住まいの火災保険にセットして契約するものですから、保険期間は同じになります。逆に、地震保険をセットした契約でも火災保険を保険期間の途中で解約すると、地震保険の補償も無くなります。
Q:建物の中には当然、家具などの家財があるが、契約は建物と家財それぞれ別にするのか?
A:そもそも火災保険は建物と家財を別々に契約するものですから、したがって地震保険も建物と家財と別々に契約することになります。なお、地震保険の対象となる家財とは家具、什器、衣服などの生活用動産です。通貨、有価証券、自動車、貴金属や宝石等で30万円を超えるもの、商品・営業用什器などは対象になりません。
Q:具体的に地震保険の掛け方とはどうなっているのか?補償の制約はあるのか?
A:地震保険の保険金額は、住まいの火災保険の保険金額に対して30%〜50%の範囲内で設定して契約します。ただし、建物で5000万円、家財では1000万円が限度になります。一戸建てもマンションの専有部分も同じ掛け方になります。
具体例で言うと、例えば建物の火災保険の保険金額が5000万円掛けている人の場合は、地震保険の保険金額はその30%〜50%の範囲ですから、1500万円〜2500万円の間で決めることになります。火災保険を5000万円掛けているからといって、地震保険も5000万円掛けられるというわけではありません。同様に、家財に2000万円の火災保険を掛けている場合は、地震保険の保険金額は600万円〜1000万円の間で決めることになります。
このように掛ける時に、地震保険の保険金額は火災保険金額の50%が上限になるため、地震で全焼・全壊して地震保険金額が全額支払われたとしても、いわば元の半分の価値の家しか建て直せないという制約があります。この点に、地震保険の普及が遅れている最大の問題点があります。
Q:地震保険の保険料は地域や建物の構造によって差があるようだが、何故か?
A:地震保険料は損害保険料率算出機構という第三者機関が算定していますが、主に地震による火災、倒壊、流出などの損害予測データに基づき、危険度に応じて保険料に差が付いているのです。地震保険の保険料は、建物の構造と地域によって異なります。建物の構造は木造と、鉄筋コンクリートなどの非木造の2区分で、木造のほうが2.4倍程度高くなります。地域は1等地〜4等地の4区分で、建物が集積している東京や神奈川は4等地で、1等地の北海道などに比べ木造建物で約3倍保険料が高くなります。
なお、平成13年に木造建物で約17%保険料が引き下げられたほか、建物の耐震性能によって10%〜30%保険料が割り引かれる制度や、昭和56年6月以降に新築された建物は10%保険料が割り引かれる制度が導入されたことから、地震保険も従来よりは加入しやすくなったと言えます。
Q:地震で被害をうけたときの補償について、保険金はどのように支払われるのか?
A:損害の程度に応じて保険金が支払われます。建物や家財が全損の時は地震保険金額の全額、半損の時は50%、一部損害の時は5%の割合で保険金が支払われます。この損害の程度は建物の軸組、基礎、屋根、壁などの主要構造部の損害額や家財の損害額が時価のどれくらいになるのかといった、損保業界統一の地震保険損害認定基準で判定される仕組みです。
Q:地震保険にはなぜ制約があるのか?地震保険の必要性について、どう考えればよいか?
A:まず地震保険の特殊な性格をお話しすると、一般の損害保険では地震による損害は巨大損害になるため、免責つまり補償しないことになっています。このような民間の保険会社では引受できない地震の損害を、ちょうど今から40年前の新潟地震を契機に、当時の田中角栄大蔵大臣の肝いりで、国民生活の安定のための最低補償の制度として「地震保険に関する法律」が制定され、以来、いわば半官半民の形で地震保険が運営されています。保険金の支払についても、大震災の場合は国と民間保険会社が再保険で責任分担する仕組みで、現在、1回の地震における総支払限度額が4兆5000億円という総枠がはめられています。
火災保険料に地震保険料を上乗せして加入しても、地震保険の契約金額が火災保険金額の上限50%までしか掛けられないので、全損で地震保険金が全額支払われたとしても、元の家は建て直せないという根本的な問題点があるわけですが、地震災害は生活再建に大変長い時間を要することになります。阪神大震災の被災者の方の中には仮設住宅で4、5年も生活された方がたくさんおられます。貯蓄が十分あって被災後の生活資金や仮住まいの費用などがまかなえる人は地震保険を掛けなくても心配ないでしょう。しかし、ローンで家を建てた人が被災後また建て直すとなると、前の家と新しい家との2重ローンの借金を負うことになります。また、貯金では当座の生活費や仮住まいの費用の工面が難しいという人は、いわば貯蓄の「時間を買う」という意味で、制約があっても地震保険の保険金で当座の生活再建費用がある程度賄えるという効用があります。
Q:地震保険が生活再建にもっと役立つ制度にするためには、どんな課題があるか?
A:全国どこでも大地震の可能性があるわけで、地震保険が生活再建に役立つようにしなければなりません。地震保険を改善する方向性としては、1つは契約時の地震保険金額の上限を火災保険金額の60%、70%と段階的に引き上げることです。そうすれば、だんだん元の家と同じような家が建て直せることになり、本来の保険の効用が発揮できます。ただし、これをやるには総支払限度額の枠を拡大する必要があり、国の分担をさらに増やす必要があります。
もう1つは保険料の負担を軽減することです。前述の通り、平成13年に建物の耐震性能が高まってきたことから、木造建物の地震保険料が約17%引き下げられたほか、昭和56年6月以降に新築した建物は10%保険料が割り引かれる制度も導入しています。現在はさらに、耐震・耐火建物が普及しているので、保険料の見直しをきめ細かく行っていけば今後、保険料が引き下げられる可能性があると思います。さらに、現在の建物の構造で木造・非木造の2区分、県別に1等地〜4等地の4区分の保険料算定のリスク区分を、さらに細分化すれば、いまより高くなるケースもある一方、大幅に安くなるケースも出てくるでしょう。
地震保険は始めにお話した通り、法律に基づく半官半民の保険制度ですから、官民一体となって補償を拡大し、保険料を引き下げる取り組みが必要です。
一方で、地震保険制度の問題は一朝一夕には解決しないので、国や自治体による被災者支援のあり方を同時並行的に検討すべきです。今回の中越地震では被災者生活再建支援法で全半壊の世帯に対して、取り片付け費用や身の回り品の購入費用として法定の300万円、さらに新潟県が再建費用として100万円上乗せすることになりましたが、いろいろな条件があり、被災者の立場からすればストレートに再建費用の補助として支給する内容に変える必要があるでしょう。
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