知っておきたい「生命保険選びの基礎知識と注意点」(03年3月13日)


【はじめに
 @商品・価格の自由化、A業態間相互参入、B販売チャネル(流通経路)の多様化――の3つの柱で、保険の自由化が急速に進んでいます。もう「保険はどこでも同じ」ではありません。消費者契約法、金融商品販売法で企業側に重要事項の説明義務が法定されましたが、消費者も自己責任で賢い「保険選び」を心がけましょう。保険は、契約者が保険料を支払い、保険会社が保険金を支払う約束をする「契約」なのですから。
保険事業には民間保険会社のほかに、郵便局(郵政事業庁)の簡易(生命)保険、共済団体の各種共済制度(協同組合保険)があります。以下、紙幅の関係で、民間保険会社の生命保険について、主な仕組みと「保険選び」のポイント、最近の保険業界の問題点などを含めて解説します。

【生命保険の基礎知識と注意点
●生命保険とは
 少しややこしい法律(保険業法)上の規定では、生命保険とは「人の生死に関し定額給付を行う保険」(第1分野)であり、生命保険会社は生命保険と、医療(疾病)・傷害・介護保険(第3分野)を扱うことができます。基本的に生命保険会社の保険商品には第3分野商品も含め、一定の死亡給付があります。
 世俗的な表現では、「生命保険は庶民をお金持ちにする経済的な機能」とも言われます。例えば、万一の生活保障のために1000万円必要だとすると、自助努力で貯金する(利息を考慮しない)場合は年に100万円ずつ10年間貯めなければなりませんが、保険は1000万円の保険金額の契約に加入すれば即必要保障額が満たされるからです。つまり、保険制度は大勢の人が参加し助け合う相互扶助の優れて合理的な経済システムなのです。
 一方、1000万円の貯金を忘れる人はいませんが、契約金額1000万円の保険の内容をあまり理解していないという人は多くいます。しかし、保険契約を契約者の保険料負担の面から捉えると、払込期間中に1000万円を超す保険料を払い込む約束をしている人は大勢います。デフレ経済の今日、家庭(家計)の危険管理における「費用対効果」を真剣に考えるべき時と言えます。

●生命保険の種類と選び方     
 生命保険の主な保障機能は、@遺族の生活・教育資金などを確保するための「死亡保障」、A本人や家族の医療・介護資金を確保するための「医療・介護保障」、B本人や夫婦の老後の生活資金を確保するための「老後保障」の三つに大別でき、また、一部の保険(こども保険、養老保険、予定利率変動型積立終身保険など)には一定の貯蓄機能もあります。
 生命保険にはたくさんの種類がありますが、独身→結婚→子育て→老後の各ライフステージにおいて、優先すべき保障は何かを決めて、最適な保険商品を選び、必要な保障額を掛け、また、ライフステージの変化に合わせて生活保障の見直しをしましょう。
 保険契約は基本的に、保障のベースとなる「主契約」と、それに付加して保障内容を拡充する「特約」で構成されます。保障機能別に、多くの消費者が利用している代表的な保険種類を分類すると次の通りです。 

 ▽死亡保障のための保険(死亡保険)
〔定期保険〕一定の保険期間内に被保険者(保障の対象となる人)が死亡したときに、死亡保険金が受け取れます。一般的に掛け捨ての保険と呼ばれ、満期保険金はありません。基本的に保険期間中、保険金額が一定の平準(定額)定期保険、一定率で逓減する逓減定期保険、一定率で逓増する逓増定期保険の三タイプがあります。定期保険の死亡保険金を一時金ではなく年金払いで受け取るタイプを収入保障(生活保障)保険といいます。最近は月払いで給付金を受け取るタイプもあります。保険期間が超長期にわたる長期平準定期保険などもあります。一定以上の死亡保険金額では医師の診査が必要ですが、高血圧・糖尿病でも所定の条件下で高額保障も可能なものもあります。
〔終身保険(単体)〕定期保険と異なり、死亡保障が一生涯続くので「保障切れ」がなく、生活保障設計の土台をなすものです。保険料払込満了後、蓄積部分と積立配当金をもとに年金や介護保障に変更する取り扱いも可能です(保険会社・商品による)。
 超低金利の影響で予定利率(蓄積保険料の運用利率)が低下傾向にある中、最近は金利水準に応じて一定期間ごとに積立利率(蓄積保険料の利率について、保険料設定時の予定利率=最低保証と保障開始後の運用利率である積立利率で構成されている)が変動する積立利率変動型の積立終身保険が多くの保険会社で販売されています。また、通常より保険料払込期間中の解約返戻金を低く設定することで、同じ保障額でも保険料が割安になる低解約返戻金型の終身保険を取り扱う保険会社もあります。外国の葬式保険の仕組みを導入して、無診査・無告知の無選択型終身保険(予定死亡率を高く設定する分保険料総額はおおむね割高)も登場しています。
〔定期付終身保険〕終身保険を主契約とし、子育て期間など一定期間の必要保障額を大きくするために保険料の割安な定期保険特約を上乗せしたもので、死亡保険の既契約の大半がこのタイプの保険です。定期保険特約を保険料払込満了時まで上乗せした全期型、10年・15年と一定期間ごとに更新(無診査)する更新型があります。更新型の定期保険特約は更新時の年齢で保険料が適用されるので、同じ保険金額で更新しても保険料は上がります。定期保険特約部分の減額や更新しない取り扱いも可能です。定期付終身保険には死亡保険金を一時金で受け取る定期保険特約に加えて、同じ定期保険の収入保障特約などがさらに上乗せの特約の形であらかじめセットされている場合が多く、必要保障額をオーバーしているケースもあるので、注意したいものです。このタイプはよく「一時金+年金受取」といったセールストークで販売されることがありますが、もちろん個人(生存)年金が付加されているわけではありません。定期特約の保険金額のタイプは全期の平準型。逓減型・逓増型のほか、自由設計型もあります。
 最近は予定利率の低下により、保険料が上昇傾向にある終身保険をベースに置く定期付終身保険の販売を控え、加入時の保険料が割安な生存給付金付定期保険を主契約として保険料払込期間満了後に終身保障に移行できる仕組みを導入している保険会社もあります。
〔ユニバーサル型の保険〕定期付終身保険に変わる次世代型主力保険として複数の保険会社が販売しています。貯蓄部分と保障部分を分離し、転換や乗り換えをすることなく保障内容と払込保険料を一定条件下で自在に変更(リフォーム)できる特色があります。
 積立利率変動型の積立終身保険を貯蓄部分とし、この貯蓄部分に保険料払込の自在性を持たせることで、保障部分として特約または単品の定期保険、医療保険、介護保険などのほか、保険会社の商品により損害保険まで自在に組み合わせることが可能で、「生涯一契約」が謳い文句になっています。米国では貯蓄部分に変額機能を織り込んだ変額ユニバーサル保険が最大のシェアを占めています。
 貯蓄部分の積立金は手数料なしで引き出せ、銀行預金や投資信託、変額年金商品などと資金スイング(移動)できるものもあります。「生涯一契約」として取引するものだけに、保険会社の健全性をチェックすべきでしょう。また、既契約の転換の受け皿商品となっている面もあり、予定利率のチェックも必要でしょう。
〔災害死亡を上乗せ保障する特約〕災害による死亡に対して、主契約の死亡保険金に上乗せして災害死亡保険金が受け取れる「災害割増特約」「傷害特約」などがあります。 
 ※生前給付保険として次のようなものがあります。
〔リビング・ニーズ特約〕死亡保険にこの特約をセット(特約保険料は無料)しておくと、被保険者の余命が6ヵ月以内と認定された場合に死亡保険金の全額または一部が生前に前払いされます。
〔特定疾病保障保険〕ガン、急性心筋梗塞、脳卒中の3大成人病で所定の状態になったとき、生前に死亡保険金と同額の特定疾病保険金が受け取れます。特約として主契約にあらかじめセットされている場合がありますが、一般の死亡保険に生前給付機能を織り込んだ分、保険料は割高なので、下記の医療保障の備えや預貯金の状況などを勘案して取捨選択すべきでしょう。

 ▽医療・介護保障のための保険

〔各種医療特約〕主契約の定期付終身保険や個人年金保険などに特約としてセットするもので、中途付加もできます。疾病入院特約・災害入院特約が一般的で、病気やケガで入院したときに入院給付日額・入院日数に応じた入院給付金や手術給付金などが受け取れます。本人型のほか、家族型もあります。
 保険会社により成人病、ガン、女性疾病など特定の医療目的の各種医療特約や、短期入院(1泊2日の入院から保障)、長期入院、通院特約などもあります。
 医療特約の保険期間は原則主契約の保険料払込期間中ですが、疾病・災害入院特約などは通常80歳まで付加でき、保険会社により終身医療保障の取扱いもあります。公的医療保険の自己負担額の拡大が確実視される中で、入院特約は日額1万円程度の保障が最低限必要でしょう。
〔医療保険〕単独で加入できるタイプで、病気やケガで入院したり手術を受けたときなど給付金が受け取れます。生命保険の医療保険では通常、死亡したときは少額ながら死亡保険金も受け取れます。特約タイプに比べ保障内容・保険料両面で各社が特色を出しています。とくに平成13年7月からの第3分野における生損保相互参入により、国内生保会社、損保会社、損保系生保会社、外資系保険会社の間で独自商品の開発競争が進んでいます。
 日帰り入院や1泊2日から保障する短期入院保障、1入院1000日までの長期入院保障、一定期間給付金の支払いがない場合に無事故給付金が受け取れるものや、入院日額が逓増するもの、また、死亡保障や解約返戻金をなくしたり低くして保険料を安くしたもの、傷病ごとの定額給付商品など、各保険会社が自由化の中で、保障内容を拡大したり、あるいは保険料を安くする方向での競争を展開しつつあります。保険期間も1年・10年更新型から終身保障まで多様な選択肢があります。少子高齢化の中で、終身医療保険を主契約とし、死亡保険の特約を付加する契約形式に変換した保険会社もあります。
 ひと通りの病気やケガを総合保障する医療保険のほかに、特定の医療目的の保険で代表的なものにガン保険があります。各社のガン保険にほぼ共通する保障内容は、ガン診断給付金、ガン入院給付金、ガン通院給付金、ガン手術給付金、ガン療養給付金などで、生命保険会社のガン保険では原則として死亡保険金が受け取れます。保険期間は1年・10年更新型、終身保障などとなっています。最近ではなんとガン既往(10年以上経過条件)の人も入れるガン保険まであります。
 総合保障型の医療保険に比べ、保険料はガン医療だけを保障するガン保険のほうが安くなりますが、その他の病気やケガの保障はないわけで、ガンの恐怖にあおられてとりあえずガン保険に加入するというのでは賢い消費者とはいえません。いつ、どんな病気になるかは誰にも分からないので、総合保障型の終身タイプの医療保険を選択すべきでしょう。
〔介護保険〕公的介護保険を補完するもので、主契約に付加する介護保険特約と単独で加入できる介護保険があります。また、終身保険の保険料払込満了後に死亡保障の一部または全部を介護保障に変更する取扱もあります。第3分野の生損保相互参入で損保会社でも単独で加入できる介護保険を扱っています。
 寝たきりや痴呆で所定の要介護状態(最近の商品は公的介護保険の要介護2ランク程度から保障対象となる)が、商品により90日または180日以上継続した場合に、介護給付金・介護年金が受け取れます。日常動作障害という独自の基準で比較的軽度の状態から保障する商品もあります。保険期間は一定期間のものと終身保障のものがありますが、やはり老後の要介護リスクに備えて終身保障タイプを選択すべきでしょう。

 ▽老後保障のための保険
〔個人年金保険〕多くの生命保険会社が扱っている主な年金保険として、確定年金と保証期間付終身年金があります。確定年金は被保険者の生死に関わらず、一定期間年金が受け取れます。保証期間付終身年金は、保証期間中は被保険者の生死に関わらず年金(死亡した場合は残余期間の年金または一時金)が受け取れ、以降、生きている限り年金が受け取れます。ほかに、一定期間において、生きている限り年金が受け取れる有期年金タイプもあります。
 受取方法では本人年金での受取のほか、夫婦のいずれかが生きている限り年金が受け取れる夫婦年金もあります。通常、本人年金として加入しておけば、年金開始時に夫婦年金としての受取を選択することができます。
 現在は予定利率が低いので、積立利率利率変動型個人年金保険や銀行の窓販解禁で投資信託型年金といえる変額個人年金保険へのニーズが高まっています。

●いくら掛ければよいのか 
優先すべき保障と最適な保険種類の選択を決めたら、次に必要保障額すなわち契約金額を検討します。
 生計維持者(例えば夫)に万一のことがあった場合の遺族の生涯生活資金は、@一番歳下の末子が独立するまでの家族の生活費と、A末子独立後の妻の 生活費に分けて計算し、それにB夫死亡時の葬儀費用・予備費、子供の教育費などを加算して算出します。子供のいる家庭の場合、最低限@Bの資金を備える必要があるでしょう。@Aの目安は次の算式で概算します。
 @末子独立までの家族の生活費=現在の年間生活費×70%×(22歳−末子の現在の年齢)
 A末子独立後の妻の生活費=現在の年間生活費×50%×(末子22歳時の妻の平均余命)
 Bの費用については、夫死亡直後の予備(生活立ち上がり)資金として半年分の生活費を見込んでおきます。それ以外は一括りに試算できませんが、現在の平均値で葬祭費用が約300万円、お墓関連費用が約250万円〜1200万円、教育費用(1人・お稽古ごと費用など含む)は幼稚園〜高校が公立約470万円、私立約1200万円、大学(4年間)が国立(自宅)約530万円〜私立(理科系・賃貸アパート)約1200万円かかります。以上の@ABの合計が見込まれる支出の総額です。
 次に、C公的遺族年金などの社会保障、Dサラリーマンの場合は死亡退職金・弔慰金などの企業保障、E預貯金などの金融資産、F妻のパート収入など遺族の稼得収入といった収入の総額をあらまし見積もります。そして、支出(@+A+B)から収入(C+D+E+F)を差し引いた金額が生命保険などの私的保障で備えるべき必要保障額(契約金額)となります。ライフステージの変化により、必要保障額は増減します。

●保険料と配当の仕組み
 将来の契約である生命保険の保険料は、@将来の保険金支払にかかわる予定死亡率、A保険料の運用にかかわる予定利率(割引率)、B保険会社の経費にかかわる予定事業費率――の3つ予定率で計算されます。保険会社は長期的に安定した運営を行うため、本来は安全率を見込んで予定率を設定するので、契約者から見れば、いわば入口では基本的に「過払保険料」の形となります(現状は運用実績の低迷で平成8年3月以前の契約は予定利率に対して過小保険料の形)。
 契約者が払い込む保険料は、保障に充てられる保険料(純保険料)と、保険会社の経費に充てられる保険料(付加保険料)で構成されています。さらに、保障に充てられる保険料は、生命保険は長期契約なので将来の保険金支払のために積み立てられる蓄積保険料と、保険集団を形成している人たちの毎年の保険金支払に充てられる危険保険料に分けられます。契約者に約束した蓄積保険料の運用利率が予定利率で、保険会社は見込まれる利息分をあらかじめ割り引いて保険料を算出するので、端的に予定利率は保険料の割引率を意味します。本来の予定利率の位置付けは、保険会社は通常、一定の運用利息が見込まれるため、安全度を見込んだ予定死亡率や予定事業費率で算出した保険料を予定利率で割り引くという考え方なのです。同じ年齢・保険種類・保険金額でも、加入時期の予定利率が高ければ保険料は安くなり、予定利率が低ければ保険料は高くなります。従来は各社ほぼ横並びの予定利率を設定していましたが、現在は自由化により法定の基準利率を目安に個別に予定利率を設定しており、バラツキが見られます。各社の予定利率を比較検証しましょう。
 予定率と実績値との差益(死差益・利差益・費差益)による剰余金が出た場合は、保険会社は配当金として契約者に還元します。つまり、出口で過払保険料の精算をするわけで、生命保険の配当金は預貯金の利息と異なり、「清算金」の性格を持つものと言えます。最近は超低金利により、国内保険会社を中心に運用実績が予定利率を下回る「逆ざや」(利差損)の状態にあり、予定利率も配当実績も低下するという悪循環が続いています。入口の保険料から出口の配当金を差し引いたものが生命保険の「実質価格」であり、その意味で生命保険の価格は値上げ傾向にあると言えます。
 生命保険は予定利率と配当金の分配方式により、@有配当保険(予定利率は低めだが毎年死差・利差・費差配当が分配される)、A準有配当保険(予定利率はやや高めだが5年ごとに利差配当が分配される)、B無配当保険(予定利率は高めだが配当の分配がない)――の3つのタイプに分類されますが、現在はABが主力です。
 なお、最近は健康体割引や非喫煙者割引を多くの保険会社が採用するようになり、生命保険でもリスク細分型の保険料体系が一般化しつつあります。

●保険料負担を軽減するリフォーム法
保険は保障を買うもので、価格面だけで見直しを考えるのは賢明とはいえません。しかし、単純に平均値の目安で捉えても、保険料という将来の備えのための長期拘束的な資金支出のウエートが収入の2割を超えるようなお金の使い方は改めるべきでしょう。保障性資金、流動性資金、利殖性資金のバランスを考えて資金運用すべきです。
 収入が減り保険料の払込が困難だからと解約を考えている人は、加入時の予定利率(保険証券には記載されていない)を保険会社に聞いてみることです。現在の基準利率は1.5%ですが、平成8年3月末まで3.75%、6年3月末まで4.75%、5年3月末までに加入した契約は5%を超える高い予定利率すなわち割引率が適用されているので、全部解約するのは実にもったいない話です。予定利率の高い契約は保険料が払える範囲まで保障の一部を減額しましょう。定期付終身保険の場合は定期保険特約部分を更新しない手続きも可能です。解約後また入り直すとなると、予定利率が下がって、かつ年齢も高くなるので、かなり割高な買い物になってしまいます。
 同様に、かつて消費者への「逆ざや転嫁」として問題になった転換制度も、予定利率の下降局面では高い買い物になってしまいます。転換制度については契約者保護のため、保険会社に対して文書による説明義務が法定されています。
 保険料の払込方法を集金→口座振替、月払→半年払→年払に変更するだけでも保険料負担が少なからず軽減できます。どうしても保険料の払込が困難だけど保障は残したいという場合は、保険種類により、「払済保険」(保険料の払込を止めても、その時点の蓄積部分をもとにして保険期間はそのままで小型の保障に変更できる)や、「延長定期保険」(保険料の払込を止めても、その時点の蓄積部分をもとに死亡保障のみの定期保険に変更できる)などの取扱も可能です。

●健全な保険会社の選び方
 デフレ不況下の超低金利政策により運用実績が予定利率を下回る「逆ざや」と、平成8年4月の改正保険業法の施行(保険自由化)により護送船団行政に終止符が打たれたことから、9年4月の日産生命の破綻を皮切りにこれまで生命保険会社7社が破綻し、多くの契約者が保険金削減の被害を受けました。今日なお深刻なデフレ不況下にあり、先の見えない超低金利政策と内外株価の急落、有価証券への時価会計制度の導入など、生命保険会社を取り巻く環境は厳しさを増しています。
 5月末には保険会社の3月期決算が開示されます。マスメディアによる風評も飛び交うでしょうが、冷静に保険会社の経営内容を検証すべきです。年度末決算や中間報告で公表されるさまざまな経営指標の中で、一般の消費者・契約者が保険会社の健全性を大づかみに把握するための目安として、「ソルベンシーマージン比率」と「基礎利益」をチェックするとよいでしょう。
 保険会社は将来の保険金支払に備えて責任準備金を積んでいますが、通常の予測を超える死亡リスクや資産運用リスクなどが起こった場合に、どの程度の財務的なゆとり(保険金支払余力=ソルベンシーマージン)があるのかを表す指標が「ソルベンシーマージン比率」で、200%以上なら行政監督上、健全性の基準を満たしているとされます。ただし、公表値で200%を上回っていた旧千代田生命や旧協栄生命が破綻した事例を考慮するなら、消費者の自衛的な健全度のバーとしては400%程度に上げて判断すべきでしょう。
 新たに生命保険会社の本業の期間(フロー)収益の健全性指標として公表されるようになった「基礎利益」は、利差損益・死差損益・費差損益の合計にほぼ等しく、昨年3月期決算値ではどの保険会社も「逆ざや」(利差損)を死差益・費差益で埋めてなお多額の利益が出ています。有価証券売却損益を含めこれらの利益は不良債権などの償却に充てられるため、資産劣化が進行する中で、基礎利益が減少すると体力が衰弱していくことになります。
 その他、保有純増高や実質純資産、純資産額に保有契約からもたらされる将来収益を加えた潜在的価値等々、重要な経営指標はいろいろありますが、各保険会社の経営内容を一般の消費者・契約者が正確に判断するのは困難なので、信頼のおける格付機関4社のホームページで保険会社の格付けを閲覧(無料)するのもよいでしょう。ちなみに外資系の格付会社は外資系保険会社にやや甘く、日本の格付会社は国内保険会社にやや甘い傾向があり、両者の中間あたりで判断するとよいでしょう。最近は風評を企図したあいまいなサイトも多数存在するので、注意しましょう。 

●保険会社が破綻したら
 <契約者保護機構>生命保険会社が破綻した場合、「生命保険契約者保護機構」(以下「保護機構」)は資金援助等を行うことにより、保険契約者の保護を図っています。保護機構は、保険業法に基づいて平成10年(1998年)12月1日に設立・事業開始した認可法人であり、国内で営業を行う全ての生命保険会社が会員として加入しています(全社に加入を義務付けている。なお、簡保・共済等は保護機構の会員ではない)。
 ちなみに、平成8年4月施行の新保険業法に基づき、保険自由化に伴う契約者保護のセーフティネットとして、保険契約者保護基金(指定法人、生保業界負担財源2000億円)が設けられ、救済(承継)保険会社に対して資金援助ができることとなっていましたが(平成9年4月に破綻した日産生命の場合、救済保険会社が現れず、生保業界が新たに救済保険会社として「あおば生命」を設立して処理した経緯がある)、さらに万全を期して、救済保険会社が現れない場合においても破綻保険会社の保険契約を引き受ける保護機構を新たに設立したものです。保護機構の補償対象となる保険契約は、生命保険の全保険契約(個人保険、個人年金、団体保険、団体年金)です。 
 生命保険会社が破綻した場合に、仮にその会社の契約を引き継ぐ会社等が現われず、会社が清算されることになると、保険契約者は会社の資産を売却することによって得た金銭を配当として受け取ることはできますが、保険契約は継続することができません。このような事態に陥ると、年齢や健康状態によっては、それまでと同様の条件で他の生命保険会社との間で新たに保険契約を締結することが困難になることも想定されます。
 そこで、万一、生命保険会社が破綻した場合、保護機構は、@破綻した生命保険会社の契約を引き継ぐ救済保険会社への資金援助や、A救済保険会社が現われない場合には、A-I保護機構の子会社として設立される承継保険会社への保険契約の承継、A-IIまたは保護機構自らが契約の引受けを行うことにより、保険契約を継続させ、保険契約者の保護を図ることにしています。
 @救済保険会社が現れた場合:破綻保険会社の保険契約等を引き継ぐ救済保険会社が現われた場合には、破綻保険会社の保険契約は、救済保険会社による保険契約の移転、合併、株式取得により破綻後も継続することができます。
 A救済保険会社が現れなかった場合
  I. 承継保険会社による保険契約の承継:救済保険会社が現われなかった場合には、保護機構の子会社として設立される承継保険会社へ保険契約の承継を行うことができます。
承継保険会社は、保険料の受入れ、資産運用、保険金・給付金等の支払等の通常業務に加え、引き続き救済保険会社を探すなど、引き継いだ保険契約の管理及び処分を行います。  II. 保護機構自らによる保険契約の引受け:保護機構自らが保険契約を引受けることも可能です。この際、保護機構は、上記A-Iの場合と同様に、引き継いだ保険契約の管理及び処分を行います。
 上記のいずれの場合でも、保護機構によって、破綻時点の保険契約(再保険を除く)の責任準備金等の90%まで補償されます。なお、生命保険会社が破綻すると、通常、業務が再開されるまでは、契約内容の変更等の業務が停止されますが、その間に保険事故が発生した場合の保険金等の支払については、破綻保険会社と保護機構との間で「補償対象保険金の支払に係る資金援助契約」が締結されることで、従前の保険金額の90%の額で保険金等の支払が行われ、万一の場合の資金需要にこたえられるようになっています。
 破綻した生命保険会社において更生手続が開始された場合には、原則、保険契約者に代わって保護機構が更生手続に関する一切の行為を行っています。

<契約者保護機構の財源と資金援助額の算定法>
保護機構の財源は、会員である生命保険各社の負担金からなっており、破綻した生命保険会社の保険契約者の保護のために、生命保険各社の負担金から資金援助等を行うことになっています。
 ただし、生命保険会社各社の負担金だけで資金援助等の対応ができない場合には、予算で定める金額の範囲内において、国から保護機構に対して補助金(財政資金)を交付することが可能とされています。
  財源の総額は9600億円で、うち生保業界負担分5600億円(保護機構設立時4600億円、平成12〜14年度の財源枠として1000億円追加負担)、国庫補助金枠4000億円(平成12~14年度の補助金枠)となっています。ただし、これまでの破綻ですでに5380億円の資金援助(旧東邦生命3663億円、旧第百生命1450億円、大正生命267億円。更生特例法が適用された旧千代田生命、旧協栄生命、旧東京生命は資金援助なし)が行われ結果、生保業界負担分の資金援助枠が220億円まで減ったことから、新たに平成14年度まで業界追加負担1000億円+補助金枠4000億円の計5000億円の財源枠が設定されています。引き続き15~17年度についても同額の財源枠を設定する方向で、今通常国会に保険業法(259条)の一部改正案が提案される運びになっています。
 保険会社の破綻とは、バランスシート上の資産に欠損が生じ、負債(責任準備金など)がまかなえなくなった状態(債務超過)を言います。資金援助額は、負債の一部カット(責任準備金10%削減など)と、移転の際の確認資産評価額を考量し、資産の不足分を補うこと、および移転費用から次のように算定されます。
 保護機構の資金援助額= @移転等の際の負債−A移転等の際の資産+B移転等の際に要する費用
 ※@移転等の際の負債は、補償対象契約の責任準備金等×補償率(90%)
  A移転等の際の資産は、確認財産評価(有形資産+営業権(のれん代))
※営業権(のれん代):移転等を受ける保険契約や営業網その他のインフラ等について、将来期待し得る収益や財産価値を評価したもので、保険会社が他社の営業の全部又は一部を譲り受ける場合等に、会計上発生する。
 ※移転等の際に要する費用:保険契約の移転等に要すると見込まれる費用(保険契約の移転計画の策定に係る費用、移転契約の締結に係る費用、保険契約者等への通知に係る費用等)のうち、保険契約の移転等の円滑な実施のために必要であると機構が認めた額。

<破綻会社の更生手続>
生命保険会社が破綻した場合、「保険業法に基づく行政手続」または、「金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(以下「更生特例法」)に基づく会社更生手続」により、保険契約の継続に向けた手続が進められます。
 ▽保険業法に基づく行政手続:監督官庁の命令等に基づいて進められる手続です。
 過去の破綻事例においては、監督官庁は、まず破綻保険会社の業務の全部もしくは一部の停止を命令(「業務停止命令」)し、保険管理人による業務及び財産の管理を命ずる処分を行います(この管理処分と同時に、監督官庁は、保険管理人を選任します)。
 保険管理人は、破綻保険会社の業務・財産を管理、調査しながら、保険契約の移転等を柱とする業務・財産の管理に関する計画を作成し、監督官庁にこの管理計画の承認を求めます。管理計画が承認された後は、保険契約者による異議申立て、監督官庁の認可等を経て、計画に基づいて保険契約の継続が図られます。
 ▽更生特例法に基づく会社更生手続:裁判所の監督の下で進められる手続です。
 まず、事業継続困難と判断した生命保険会社は、更生手続の開始を裁判所に申し立てます(保険契約者等の保護に欠ける事態を招くおそれがあると認められる場合は、監督官庁が申し立てることも可能)。この申立てを受けた裁判所は、手続を開始すべきと判断した場合、開始決定と同時に更生管財人を選びます。
  更生管財人は、破綻保険会社の業務・財産を管理、調査しながら、保険契約の移転等を含む計画(「更生計画案」)を作成し、関係者の審理・決議を経て、裁判所に計画の認可を求めます。計画が認可された後は、この計画に基づいて保険契約の継続が図られます。
 一般事業会社の更生手続においては、更生会社の債権者は、自己が保有する債権内容を記した債権届出を裁判所に届出なければ、自己の債権について権利を主張できなくなります。しかし、生命保険会社の債権者である保険契約者の数は、一般事業会社における債権者数に比べて極めて膨大な人数となっています。従って、仮に一人一人の保険契約者に対して、裁判所への債権届出を行うことを求めるとすれば、更生手続の円滑・迅速な進行が困難となるうえ、保険契約者にとっても大きな負担となります。一定期間内に裁判所への債権届出を行わなかった保険契約者は、自己の債権について権利を主張できなくなるおそれも出てくるからです。従って、更生特例法では、保険契約者保護の観点から、生命保険会社の更生手続に関しては、一般事業会社における更生手続とは異なり、原則として保護機構が保険契約者の権利を代理して更生手続に参加することが規定されています。
 これにより、保険契約者は独自に裁判所への債権届出等の手続きを行う必要はなく、保護機構が、代理する保険契約者の一覧表(保険契約者表)を作成して裁判所へ届け出ることで債権届出を代理し、また、管財人の作成した更生計画案の審理・決議を行う関係人集会における議決権行使等、一切の手続を代理することになります。保険契約者が保護機構による手続の代理を望まない場合には、保険契約者が自ら裁判所に対して「独自の参加の届出」を提出することにより、更生手続に参加し、関係人集会で議決権を行使できます。
 なお、上記いずれの手続が取られる場合でも、保護機構によって、破綻した時点の責任準備金等の90%まで補償されることに変わりはありません。
※これまでの破綻処理の概要:▽行政手続:東邦生命、第百生命、大正生命、▽会社更生手続:千代田生命、協栄生命、東京生命
(「契約者保護機構」に関する記述は同機構ホームページのQ&Aの解説文に講師が加筆)

<契約条件の変更>破綻会社の保険契約は上記の責任準備金の最大1割削減のほか、救済保険会社への契約移転に際して2次ロス(現状では超低金利による救済会社における逆ざやの発生)防止のため、管理計画や更生計画に基づき契約条件が変更(現状では予定利率の引き下げ)されます。これにより、保険種類やこれまでの加入経過期間・未経過期間などによって一様ではありませんが、保険金が削減される可能性があります。おおむね単体終身保険、養老保険、個人年金保険など貯蓄型保険の保険金(年金)の削減幅が大きくなります。一方、定期保険など保障性商品の場合はさほど大きな影響は受けないと言っていいでしょう。
 上記のような保険会社の破綻→更生手続に関する法律上の基本的なルールが整備され、保険契約が確実に保護される仕組みになっていますが、責任準備金の削減の有無や条件変更の内容等はそれぞれケースバイケースで決められることになります。最近では更生特例法が施行されて以降、破綻保険会社の迅速な更正手続きにより資産劣化を防止し、契約者負担(責任準備金削減)・業界負担(資金拠出)の軽減を図るため、裁判所の管理下で更生手続きを行うケースが目立ちます。比較的債務超過額が少なかった旧東京生命の事例では、責任準備金の削減なし、保護機構の資金援助なしで救済保険会社に契約移転されました。更生特例法は本来、将来収支分析の基準に則って、実際に債務超過に陥る前に金融庁または当該保険会社が更生手続きを申請するもので、今後はこのスキームによる破綻処理が主体になるものと思われます。

●保険セールスの選び方

 営業職員数は平成3年度末約44万人→13年度末約30万人と、「デフレ・生保不況」が深まる中で急速に減少しています。このところ毎年のように予定利率が引き下げられる(純保険料の値上げ)中で、保険会社は少しでも価格を抑えるために付加保険料を圧縮するようになり、営業コストの削減を進めていることが主な要因と考えられます。採用後早期に脱落した不在籍職員の契約が早期解約(保険経理上は保険会社が赤字の状態で保険料収入が途絶する状態)され、収益低下の要因ともなっていることから、定着する可能性の高い人を選別採用し、初期教育を強化する体制を各社とも整備しつつありますが、13年度の新規登録職員数が12万2432人であるのに対し、業務廃止職員数は13万4677人と、なおターンオーバーの構造は改まっていません。
 一方、平成8年以降の生損保相互参入により損保系生保会社の登録代理店数が増え、また最近では破綻会社の受け皿となった外資系保険会社や、国内生保会社も積極的にローコストの損保代理店への乗合を進めており、生命保険の販売に従事する代理店使用人(従業員)数は平成9年度末16万3057人→平成13年度末29万6396人と毎年増加しています。昨年10月からの銀行による年金保険の窓口販売解禁によりさらに急増しているものと思われます。営業職員数と代理店使用人数を単純合計すると約60万人となり、全体としては増加傾向にあります。
 無形商品でかつ日常生活で使われることがなく(普段意識されない)、長い将来の約束事(保険契約)に関わる「保険選び」の最大のポイントは、「保険セールス(コンサルタント)選び」です。消費者にとって気がかりなのは、営業職員や保険代理店の資質と顧客対応力です。 生保セールスの資質向上の柱となっているのが、生保業界共通教育制度(資格認定試験制度)で、昭和49年に発足しました。生保セールスになろうとする人はまず、登録前研修を受け、一般課程試験に合格して始めて生命保険募集人の登録ができるという「試験合格後登録制度」をとっており、誰でもなれるというものではありません。以後、専門課程→応用課程→生命保険大学課程へとステップアップしていくことになります。ひと通りの保険専門知識・周辺知識を修めた専門課程合格者には「ライフ・コンサルタント(LC)」、さらにFP全般の知識を修めた応用課程合格者には「シニア・ライフ・コンサルタント(SLC)」、最も高度な専門知識・FP知識を修めた生命保険大学課程合格者の中から選ばれた者には「トータル・ライフ・コンサルタント(TLC)」の称号が授与されるので、セールスの人の名刺を確かめてみるとよいでしょう。         
    
―(財)関西消費者協会「消費者情報11月号」(01年11月)の執筆原稿に、最新動向やセーフティネットなどの記述を加筆―

***本稿の無断引用・使用は著作権、版権侵害となります。必ず著作者に許諾を求めて下さい***