生命保険選びの基礎知識と注意点(2001年11月15日)


 【はじめに】
 @商品・価格の自由化、A業態間相互参入、B販売チャネル(流通経路)の多様化――の3つの柱で、保険の自由化が急速に進んでいます。もう「保険はどこでも同じ」ではありません。消費者契約法、金融商品販売法で企業側に重要事項の説明義務が法定されましたが、消費者も自己責任で賢い「保険選び」を心がけましょう。保険は、契約者が保険料を支払い、保険会社が保険金を支払う約束をする「契約」なのですから。
 保険事業には民間保険会社のほかに、郵便局(郵政事業庁)の簡易(生命)保険、共済団体の各種共済制度(協同組合保険)があります。以下、紙幅の関係で、民間保険会社の生命保険と損害保険について、主な仕組みと「保険選び」のポイント、最近の保険業界の問題点などを含めて解説します。
 なお、消費者との接点において、保険という無形商品を扱い、家庭(家計)のリスクマネジメントを行うべき生命保険会社の営業職員は2年以内にほぼ8割が脱落し、また、損害保険会社の代理店でプロフェッショナルな経営体制を備えているのはわずか1割程度しかいないというところに、常に古くて新しい最大の問題があるのです。

【生命保険の基礎知識と注意点】
●生命保険とは

 少しややこしい法律(保険業法)上の規定では、生命保険とは「人の生死に関し定額給付を行う保険」(第1分野)であり、生命保険会社は生命保険と、医療(疾病)・傷害・介護保険(第3分野)を扱うことができます。基本的に生命保険会社の保険商品には第3分野商品も含め、一定の死亡給付があります。
 世俗的な表現では、「生命保険は庶民をお金持ちにする経済的な機能」とも言われます。例えば、万一の生活保障のために1000万円必要だとすると、自助努力で貯金する(利息を考慮しない)場合は年に100万円ずつ10年間貯めなければなりませんが、保険は1000万円の保険金額の契約に加入すれば即必要保障額が満たされるからです。つまり、保険制度は大勢の人が参加し助け合う相互扶助の経済システムなのです。
 一方、1000万円の貯金を忘れる人はいませんが、契約金額1000万円の保険の内容をあまり理解していないという人は多くいます。しかし、保険契約を契約者の保険料負担の面から捉えると、払込期間中に1000万円を超す保険料を払い込む約束をしている人は大勢います。デフレ経済の今日、家庭(家計)の危険管理における「費用対効果」を真剣に考えるべき時と言えます。

●生命保険の種類と選び方     
 生命保険の主な保障機能は、@遺族の生活・教育資金などを確保するための「死亡保障」、A本人や家族の医療・介護資金を確保するための「医療・介護保障」、B本人や夫婦の老後の生活資金を確保するための「老後保障」の三つに大別でき、また、一部の保険(こども保険、養老保険、予定利率変動型積立終身保険など)には一定の貯蓄機能もあります。
 生命保険にはたくさんの種類がありますが、独身→結婚→子育て→老後の各ライフステージにおいて、優先すべき保障は何かを決めて、最適な保険商品を選び、必要な保障額を掛け、また、ライフステージの変化に合わせて生活保障のリフォーム(見直し)をしましょう。
 保険契約は基本的に、保障のベースとなる「主契約」と、それに付加して保障内容を拡充する「特約」で構成されます。
 保障機能別に、多くの消費者が利用している代表的な保険種類を分類すると次の通りです。 

 ▽死亡保障のための保険(死亡保険)
 〔定期保険〕一定の保険期間内に被保険者(保障の対象となる人)が死亡したときに、死亡保険金が受け取れます。一般的に掛け捨ての保険と呼ばれ、満期保険金はありません。保険期間中、保険金額が一定の平準(定額)定期保険、一定率で逓減する逓減定期保険、一定率で逓増する逓増定期保険の三タイプがあります。定期保険の死亡保険金を一時金ではなく年金払いで受け取るタイプを収入保障(生活保障)保険といいます。
 〔終身保険〕定期保険と異なり、死亡保障が一生涯続くので「保障切れ」がなく、生活保障設計の土台をなすものです。保険料払込満了後、蓄積部分と積立配当金をもとに年金や介護保障に変更する取り扱いも可能です(保険会社・商品による)。
 超低金利の影響で予定利率(蓄積保険料の運用利率)が低下傾向にある中、最近は金利水準に応じて一定期間ごとに予定利率が変動する予定利率変動型の積立終身保険が多くの保険会社で販売されています。また、通常より保険料払込期間中の解約返戻金を低く設定することで、同じ保障額でも保険料が割安になる低解約返戻金型の終身保険を取り扱う保険会社もあります。外国の葬式保険の仕組みを導入して、無診査・無告知の無選択型終身保険(死亡率を高く設定する分保険料は割高)も登場しています。
 〔定期付終身保険〕終身保険を主契約とし、子育て期間など一定期間の必要保障額を大きくするために保険料の割安な定期保険特約を上乗せしたもので、死亡保険の既契約の大半がこのタイプの保険です。定期保険特約を保険料払込満了時まで上乗せした全期型、10年・15年と一定期間ごとに更新(無診査)する更新型があります。更新型の定期保険特約は更新時の年齢で保険料が適用されるので、同じ保険金額で更新しても保険料は上がります。定期保険特約部分の減額や更新しない取り扱いも可能です。定期付終身保険には死亡保険金を一時金で受け取る定期保険特約に加えて、同じ定期保険の収入保障特約などがさらに上乗せの特約の形であらかじめセットされている場合が多く、必要保障額をオーバーしているケースもあるので、注意したいものです。このタイプはよく「一時金+年金受取」といったセールストークで販売されることがありますが、もちろん個人(生存)年金が付加されているわけではありません。
 最近は予定利率の低下により、保険料が上昇傾向にある終身保険をベースに置く定期付終身保険の販売を控え、加入時の保険料が割安な生存給付金付定期保険を主契約として保険料払込期間満了後に終身保障に移行できる仕組みを導入している保険会社もあります。
 〔ユニバーサル型の保険〕定期付終身保険に変わる次世代型主力保険として複数の保険会社が販売しています。貯蓄部分と保障部分を分離し、転換や乗り換えをすることなく保障内容と払込保険料を一定条件下で自在に変更できる特色があります。
 予定利率変動型の積立終身保険を貯蓄部分とし、保障部分として特約または単品の定期保険、医療保険、介護保険などのほか、保険会社の商品により損害保険まで組み合わせることが可能で、「生涯一契約」が謳い文句になっています。
 貯蓄部分の積立金は手数料なしで引き出せ、銀行預金や投資信託、変額年金商品などと資金スイング(移動)できるものもあります。「生涯一契約」として取引するものだけに、保険会社の健全性をチェックすべきでしょう。
 〔災害死亡を上乗せ保障する特約〕災害による死亡に対して、主契約の死亡保険金に上乗せして災害死亡保険金が受け取れる「災害割増特約」「傷害特約」などがあります。 
 ※生前給付保険
 〔リビング・ニーズ特約〕死亡保険にこの特約をセット(特約保険料は無料)しておくと、被保険者の余命が6ヵ月以内と認定された場合に死亡保険金の全額または一部が生前に前払いされます。
 〔特定疾病保障保険〕ガン、急性心筋梗塞、脳卒中の3大成人病で所定の状態になったとき、生前に死亡保険金と同額の特定疾病保険金が受け取れます。特約として主契約にあらかじめセットされている場合がありますが、一般の死亡保険に生前給付機能を織り込んだ分、保険料は割高なので、下記の医療保障の備えや預貯金の状況などを勘案して取捨選択すべきでしょう。

 ▽医療・介護保障のための保険
 〔各種医療特約〕主契約の定期付終身保険や個人年金保険などに特約としてセットするもので、中途付加もできます。疾病入院特約・災害入院特約が一般的で、病気やケガで入院したときに入院給付日額・入院日数に応じた入院給付金や手術給付金などが受け取れます。本人型のほか、家族型もあります。
 保険会社により成人病、ガン、女性疾病など特定の医療目的の各種医療特約や、短期入院(1泊2日の入院から保障)、長期入院、通院特約などもあります。
 医療特約の保険期間は原則主契約の保険料払込期間中ですが、疾病・災害入院特約などは通常80歳まで付加でき、保険会社により終身保障の取扱も可能です。公的医療保険の自己負担額の拡大が確実視される中で、入院特約は日額1万円程度の保障が必要でしょう。
 〔医療保険〕単独で加入できるタイプで、病気やケガで入院したり手術を受けたときなどに給付金が受け取れます。生命保険の医療保険では通常、死亡したときは少額ながら死亡保険金も受け取れます。特約タイプに比べ保障内容・保険料両面で各社が特色を出しています。
 とくに今年7月からの第3分野における生損保相互参入により、国内生保会社、損保会社、損保系生保会社、外資系保険会社の間で独自商品の開発競争が進んでいます。
 1泊2日から保障する短期入院保障、1入院1000日までの長期入院保障、一定期間給付金の支払いがない場合に無事故給付金が受け取れるものや、入院日額が逓増するもの、また、死亡保障や解約返戻金をなくしたり低くして保険料を安くしたものなど、各保険会社が自由化の中で、保障内容を拡大し保険料を安くする方向での競争を展開しつつあります。保険期間も1年・10年更新型から終身保障まで多様な選択肢があります。少子高齢化の中で、終身医療保険を主契約とし、死亡保険の特約を付加する契約形式に変換した保険会社もあります。
 ひと通りの病気やケガを総合保障する医療保険のほかに、特定の医療目的の保険で代表的なものにガン保険があります。各社のガン保険にほぼ共通する保障内容は、ガン診断給付金、ガン入院給付金、ガン通院給付金、ガン手術給付金、ガン療養給付金などで、生命保険会社のガン保険では原則として死亡保険金が受け取れます。保険期間は1年・10年更新型、終身保障などとなっています。
 総合保障型の医療保険に比べ、保険料はガン医療だけを保障するガン保険のほうが安くなりますが、その他の病気やケガの保障はないわけで、ガンの恐怖にあおられてとりあえずガン保険に加入するというのでは賢い消費者とはいえません。いつ、どんな病気になるかは誰にも分からないので、総合保障型の終身タイプの医療保険を選択すべきでしょう。
 〔介護保険〕公的介護保険を補完するもので、主契約に付加する介護保険特約と単独で加入できる介護保険があります。また、終身保険の保険料払込満了後に死亡保障の一部または全部を介護保障に変更する取扱もあります。第3分野の生損保相互参入で損保会社でも単独で加入できる介護保険を扱っています。
 寝たきりや痴呆で所定の要介護状態(最近の商品は公的介護保険の要介護2ランク程度から保障対象となる)が、商品により90日または180日以上継続した場合に、介護給付金・介護年金が受け取れます。日常動作障害という独自の基準で比較的軽度の状態から保障する商品もあります。保険期間は一定期間のものと終身保障のものがありますが、やはり老後の要介護リスクに備えて終身保障タイプを選択すべきでしょう。

 ▽老後保障のための保険
 〔個人年金保険〕多くの生命保険会社が扱っている主な年金保険として、確定年金と保証期間付終身年金があります。確定年金は被保険者の生死に関わらず、一定期間年金が受け取れます。保証期間付終身年金は、保証期間中は被保険者の生死に関わらず年金(死亡した場合は残余期間の年金または一時金)が受け取れ、以降、生きている限り年金が受け取れます。ほかに、一定期間において、生きている限り年金が受け取れる有期年金タイプもあります。
 受取方法では本人年金での受取のほか、夫婦のいずれかが生きている限り年金が受け取れる夫婦年金もあります。通常、本人年金として加入しておけば、年金開始時に夫婦年金としての受取を選択することができます。
 現在は予定利率が低いので、予定利率変動型個人年金保険や投資信託型年金といえる変額個人年金保険へのニーズが高まっています。

●いくら掛ければよいのか 
 優先すべき保障と最適な保険種類の選択を決めたら、次に必要保障額すなわち契約金額を検討します。
 生計維持者(例えば夫)に万一のことがあった場合の遺族の生涯生活資金は、@一番歳下の末子が独立するまでの家族の生活費と、A末子独立後の妻の 生活費に分けて計算し、それにB夫死亡時の葬儀費用・予備費、子供の教育費などを加算して算出します。子供のいる家庭の場合、最低限@Bの資金を備える必要があるでしょう。@Aの目安は次の算式で概算します。
 @末子独立までの家族の生活費=現在の年間生活費×70%×(22歳−末子の現在の年齢)
 A末子独立後の妻の生活費=現在の年間生活費×50%×(末子22歳時の妻の平均余命)
 Bの費用については、夫死亡直後の予備(生活立ち上がり)資金として半年分の生活費を見込んでおきます。それ以外は一括りに試算できませんが、現在の平均値で葬祭費用が約300万円、お墓関連費用が約250万円〜1200万円、教育費用(1人・お稽古ごと費用など含む)は幼稚園〜高校が公立約470万円、私立約1200万円、大学(4年間)が国立(自宅)約530万円〜私立(理科系・賃貸アパート)約1200万円かかります。以上の@ABの合計が見込まれる支出の総額です。
 次に、C公的遺族年金などの社会保障、Dサラリーマンの場合は死亡退職金・弔慰金などの企業保障、E預貯金などの金融資産、F妻のパート収入など遺族の稼得収入といった収入の総額をあらまし見積もります。そして、支出(@+A+B)から収入(C+D+E+F)を差し引いた金額が生命保険などの私的保障で備えるべき必要保障額(契約金額)となります。ライフステージの変化により、必要保障額は増減します。

●保険料と配当の仕組み
 将来の契約である生命保険の保険料は、@将来の保険金支払にかかわる予定死亡率、A保険料の運用にかかわる予定利率(割引率)、B保険会社の経費にかかわる予定事業費率――の3つの予定率で計算されます。保険会社は長期的に安定した運営を行うため、本来は安全率を見込んで予定率を設定するので、契約者から見れば、いわば入口では基本的に「過払保険料」の形となります。
 契約者が払い込む保険料は、保障に充てられる保険料(純保険料)と、保険会社の経費に充てられる保険料(付加保険料)で構成されています。さらに、保障に充てられる保険料は、生命保険は長期契約なので将来の保険金支払のために積み立てられる蓄積保険料と、保険集団を形成している人たちの毎年の保険金支払に充てられる危険保険料に分けられます。 契約者に約束した蓄積保険料の運用利率が予定利率で、保険会社は見込まれる利息分をあらかじめ割り引いて保険料を算出するので、端的に予定利率は保険料の割引率となります。したがって、同じ年齢・保険種類・保険金額でも、加入時期の予定利率が高ければ保険料は安くなり、予定利率が低ければ保険料は高くなります。従来は各社ほぼ横並びの予定利率を設定していましたが、現在は自由化により法定の基準利率(現在は1.5%)を目安に個別に予定利率を設定しており、入口の価格においてバラツキが見られます。各社の予定利率を比較検証しましょう。
 予定率と実績値との差益(死差益・利差益・費差益)による剰余金が出た場合は、保険会社は配当金として契約者に還元します。つまり、出口で過払保険料の精算をするわけで、生命保険の配当金は預貯金の利息と異なり、「清算金」の性格を持つものと言えます。最近は超低金利により、国内保険会社を中心に運用実績が予定利率を下回る「逆ざや」(利差損)の状態にあり、予定利率も配当実績も低下するという悪循環が続いています。入口の保険料から出口の配当金を差し引いたものが生命保険の「実質価格」であり、その意味で生命保険の価格は値上げ傾向にあると言えます。
 生命保険は予定利率と配当金の分配方式により、@有配当保険(予定利率は低めだが毎年死差・利差・費差配当が分配される)、A準有配当保険(予定利率はやや高めだが5年ごとに利差配当が分配される)、B無配当保険(予定利率は高めだが配当の分配がない)――の3つのタイプに分類されますが、現在はABが主力です。

●保険料負担を軽減するリフォーム法
 保険は保障を買うもので、価格面だけで見直しを考えるのは賢明とはいえません。しかし、単純に平均値の目安で捉えても、保険料という将来の備えのための長期拘束的な資金支出のウエートが収入の2割を超えるようなお金の使い方は改めるべきでしょう。保障性資金、流動性資金、利殖性資金のバランスを考えて資金運用すべきです。
 収入が減り保険料の払込が困難だからと解約を考えている人は、加入時の予定利率(保険証券には記載されていない)を保険会社に聞いてみることです。現在の基準利率は1.5%ですが、平成8年3月末まで3.75%、6年3月末まで4.75%、5年3月末までに加入した契約は5%を超える高い予定利率すなわち割引率が適用されているので、全部解約するのは実にもったいない話です。予定利率の高い契約は保険料が払える範囲まで保障の一部を減額しましょう。定期付終身保険の場合は定期保険特約部分を更新しない手続きも可能です。解約後また入り直すとなると、予定利率が下がって、かつ年齢も高くなるので、かなり割高な買い物になってしまいます。
 同様に、消費者への「逆ざや転嫁」として問題になった転換制度も、予定利率の下降局面では高い買い物になってしまいます。転換制度については契約者保護のため、保険会社に対して文書による説明義務が法定されています。
 保険料の払込方法を集金→口座振替、月払→半年払→年払に変更するだけでも保険料負担が少なからず軽減できます。どうしても保険料の払込が困難だけど保障は残したいという場合は、保険種類により、「払済保険」(保険料の払込を止めても、その時点の蓄積部分をもとにして保険期間はそのままで小型の保障に変更できる)や、「延長定期保険」(保険料の払込を止めても、その時点の蓄積部分をもとに死亡保障のみの定期保険に変更できる)などの取扱も可能です。

●健全な保険会社の選び方
 バブル経済破綻後の超低金利政策による「逆ざや」と、平成8年4月の改正保険業法の施行(保険自由化)により護送船団行政に終止符が打たれたことから、9年4月の日産生命の破綻を皮切りにこれまで生命保険会社7社が破綻し、多くの契約者が保険金削減の被害を受けました。気がつけば、国内の保険会社ではほとんど大手会社だけが生き残っているような状況ですが、今日なお深刻なデフレ不況下にあり、先の見えない超低金利政策と内外株価の急落、有価証券への時価会計制度の導入など、生命保険会社を取り巻く環境は厳しさを増しています。
 11月は保険会社の上半期業績の中間報告が公表されます。マスメディアによる風評も飛び交うでしょうが、冷静に保険会社の経営内容を検証すべきです。中間報告や年度末決算で公表されるさまざまな経営指標の中で、一般の消費者・契約者が保険会社の健全性を大づかみに把握するための目安として、「ソルベンシーマージン比率」と「基礎利益」をチェックするとよいでしょう。
 保険会社は将来の保険金支払に備えて責任準備金を積んでいますが、通常の予測を超える死亡リスクや資産運用リスクなどが起こった場合に、どの程度の財務的なゆとり(保険金支払余力=ソルベンシーマージン)があるのかを表す指標が「ソルベンシーマージン比率」で、200%以上なら行政監督上、健全性の基準を満たしているとされます。ただし、公表値で200%を上回っていた千代田生命や協栄生命が破綻した事例を考慮するなら、消費者の自衛的な健全度のバーとしてはこれを500%程度に上げて判断すべきでしょう。
 新たに生命保険会社の本業の期間収益の健全性指標として公表されるようになった「基礎利益」は、利差損益・死差損益・費差損益の合計にほぼ等しく、今年3月末決算値ではどの保険会社も「逆ざや」(利差損)を死差益・費差益で埋めてなお多額の利益が出ています。有価証券売却損益を含めこれらの利益は不良債権などの償却に充てられるため、資産劣化が進行する中で、基礎利益が減少すると体力が衰弱していくことになります。
 なお、各保険会社の経営内容を一般の消費者・契約者が正確に判断するのは困難なので、信頼のおける格付機関4社(ムーディーズ、スタンダード&プアーズ、日本格付投資情報センター、日本格付研究所)のホームページで保険会社の格付け(本サイトのリンク参照)を閲覧(無料)するとよいでしょう。外資系の格付会社は外資系保険会社に甘く、日本の格付会社は国内保険会社に甘い傾向があり、両者の中間あたりで判断するとよいでしょう。最近は風評を企図したような、数理的な裏付けのない勝手格付サイトも存在するので、注意しましょう。 

●保険会社が破綻したら
 破綻保険会社の保険契約を保護し、有効に継続させるために生命保険契約者保護機構があり、救済(受け皿)保険会社または同保護機構に承継され、すべての保険契約について責任準備金の90%が補償されます(最大1割削減)。このための資金援助枠として業界各社による拠出額が5600億円、国の財政資金4000億円、計9600億円のファンド枠が設定されています。破綻会社の保険契約は責任準備金の削減と、救済保険会社への契約移転に際して2次ロス(救済会社における逆ざやの発生)防止のため予定利率が変更されるので、とくに終身保険、養老保険、個人年金保険など貯蓄型保険の保険金(年金)削減幅が大きくなります。一方、定期保険など保障性商品の場合はさほど大きな影響は受けないと言っていいでしょう。
 昨年から破綻保険会社の迅速な更正手続きにより資産劣化を防止し、契約者負担(責任準備金削減)・業界負担(資金拠出)の軽減を図るため、裁判所の管理下で更生手続きを行う更生特例法が適用されるようになり、旧東京生命の事例では責任準備金の削減なし、保護機構の資金援助なしで救済保険会社に契約移転されました。更生特例法は将来収支分析の基準に則って、債務超過に陥る前に金融庁または当該保険会社が更生手続きを申請するもので、今後はこのスキームによる破綻処理が主体になるでしょう。
 ところが、昨年末、保険会社の破綻前救済による契約者負担の軽減という名目で、突然、政治レベルで既契約の予定利率引き下げ措置の導入が提起され、金融審議会でも相互会社の社員(契約者)自治による予定利率引き下げ(保険金削減)措置を中心に議論されました。結果、契約者の理解が得られないということでお蔵入りとなりましたが、当然の帰結です。
 直近の平成8年施行の改正保険業法で「財産権の侵害の懸念がある」(旧10条3項)、「平時における社員総代会での承認が困難であり、使えない法律」(旧46条)として削除されたばかりのシロモノであり、何より当該国内生保会社の大半が「実効性が無く、議論するだけで解約が増える」として反対していたのだから。
 要するに、これまでの破綻により保護機構のファンドが逼迫している中で、さらなる破綻の際の資金拠出を避けたいという一部の保険会社と、更生特例法による3社の破綻処理の結果、貸し込んだ巨額の劣後ローンなどの債権放棄を強いられた銀行の意を体して、政治家に働きかけた動きがあったということです。格付機関が「既契約の予定利率引き下げを承認した場合はデフォルト扱いとする」と表明したとたんに、邪な議論は終息してしまいました。
(関西消費者協会「消費者情報11月号」掲載の拙稿に加筆)

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