●保険は「補償を買う」もの
損害保険は急速に自由化が進んでおり、保険会社ごとに商品内容やサービス、そして価格も異なっています。昔のように「損害保険はどこも同じ」ではないのです。「いままでと同じ保険会社でいい」というのではダメ。面倒くさがらずに必ず、複数の保険会社や代理店から見積もりを取り、よく比較検討して最善の保険選びをしましょう。
損害保険には、いわゆる掛け捨て型の一年更改の保険と、長期の積立型の保険がありますが、保険は「補償を買う」ものです。自分の暮らしを取り巻くリスク(危険)をよく考えて、補償範囲と価格を見比べたうえで、最適な保険選びを心がけましょう。万一の時、保険金が支払われてはじめてその効用が発揮されるものです。したがって、単に価格が安ければいいというものではありません。どんな事故や災害に遭うか誰も分かりません。まずは各種の特約を含めできるだけ補償範囲の広い保険を選ぶことが基本です。
●「住まいの保険」のワンポイントアドバイス
●火災保険
一般的な住宅火災保険や住宅総合保険などのほか、自由化で各社から総合補償型の保険が発売されています。従来の住まいの火災保険では時価(再築費用から経年減価分を差し引く)をベースに保険金を設定するため、万一の火災の時に保険金で元と同じ家を立て直すことができません。そこで、新価(再築費用)ベースで保険金額が設定できる価額協定保険特約を付帯する必要がありましたが、各社の新しい総合保険では新価ベースで保険金額を設定し保険金を支払うタイプが多くなっています。
最近は不燃構造の建物が普及し、火災損害よりも台風や地震など自然災害の補償に消費者のニーズが高まっています。従来からの火災保険でも、それぞれ所定の自然災害が補償されますが、広域災害となる水害は総合保険タイプの火災保険で補償されます。従来型の火災保険では水害(床上浸水)の補償は保険金額の70%を上限とされていましたが、最近の新しい総合保険では100%補償するものが増えています。自分が注意していてもさけられない風水雪害など、自分の住んでいる地域の特有の自然災害リスクに対応した保険選びの視点も大切です。一方、都市部の高台に住まいがあり、水害の心配がないという場合は従来の住宅火災保険に価額協定保険特約を付帯しておけばひとまず安心といえます。
火災保険の掛け方では、@建物と家財を別々に契約するので、家財の付け漏れがないようにする。戸建て持ち家の場合は建物と家財、分譲マンションの場合は専有部分と家財、賃貸マンション・アパートの場合は家財に、それぞれ火災保険を掛ける、A従来の保険では時価が保険金支払いの基準となるので、契約金額を時価いっぱいに掛ける、B再築費用が支払われる契約にすることなどです。
最近は火災保険に傷害保険や賠償責任保険、各種費用をトータルに補償する家庭用の総合保険が盛んに開発されています。各種の保険をセットすることで、主に経費部分の保険料が割り引かれる仕組みです。このような総合保険に加入する場合は、個別の既契約と重複しないようにチェックしましょう。
●地震保険
火災保険では地震等(地震・噴火またはこれらによる津波)による損害は補償されません(ただし、地震等により建物が半焼以上、家財が全焼となった場合にのみ火災保険金額の5%=300万円限度の地震火災費用保険金が支払われる)。地震等による建物や家財の倒壊・破損・焼損・埋没・流出などの損害を補償するのが地震保険で、契約対象は居住用の建物とその家財です。地震保険は住宅火災保険や住宅総合保険など主契約の住まいの火災保険にセットして加入するもので、単独では掛けられません。
地震保険の保険金額は、主契約の住まいの火災保険金額に対して30〜50%の範囲内で契約者が任意に決めます。建物5000万円、家財1000万円が限度です。例えば住宅総合保険を建物に2000万円、家財に1000万円掛ける場合、地震保険金額は建物が600〜1000万円、家財が300〜500万円の範囲内で設定します。
地震保険金の支払方法は、建物・家財が全損となった場合は建物・家財の地震保険金額の全額、以下同様に半損の場合は地震保険金額の50%、一部損の場合は地震保険金額の5%が支払われます。
地震保険の問題点は、火災保険料+地震保険料を払い込んで加入したとしても、地震保険金では元通りの住まいに復旧できないことです。契約金額の上限が火災保険金額の50%にしばられているため、全損で地震保険金額の全額が支払われたとしても、いわば元の住まいの半分の価値のものしか立て直せないわけで、現状の地震保険は仮住まい費用・生活資金など当座の立ち上がり資金の備えとしての性格が強いといえます。
2001年10月1日から地震保険の保険料が改定され、木造建物の基本保険料率を約17%引き下げるとともに、建物の地震耐性の応じた割引制度が新たに導入されます(最大42%引き下げ)。
今回、地震保険料の改定を行う背景としては、@耐震性に優れた住宅が増え、保険料を引き下げる余地が生まれていること(阪神大震災以降、地震危険度の低い地域の契約が増加したことや、住宅の建て替えが進み耐震性の高い住宅の割合が高まった)、A阪神大震災の被害事例から住宅性能の差により被害程度が異なることが証明されたことが挙げられます。
地震保険の全国平均の加入率は、阪神大震災当時(1995年)の7.3%から2000年3月末は15.4%と2倍以上に上昇していますが、全国的にはまだバラツキがあります。阪神大震災では多くの人が家を失い、長期間にわたり仮住まい生活を強いられました。今回保険料が引き下げられることから、他の金融資産の有無などを勘案し、立ち上がり資金を確保するという前提で加入を検討すべきでしょう。
●「からだの保険」のワンポイントアドバイス
傷害保険にはたくさんの種類がありますが、目的別に見ると、@主に日常生活上のケガの補償(普通傷害保険など)、A主に交通事故によるケガの補償(交通事故傷害保険など)、B主にレジャー・スポーツ中のケガの補償(旅行傷害保険、ゴルファー保険など)に大別できます。一般的には最も補償範囲の広い普通傷害保険や家族傷害保険を掛けておき、日常生活とは異なるリスクに直面する可能性のあるレジャー・スポーツを行う期間中には専用保険で補償を厚くしておくという掛け方が基本です。
傷害保険は他の生命保険や健康保険、労災保険などと重複して保険金が支払われます。通常、賠償損害や携行品損害の補償が選択、セットできます。また、あらかじめセット化されている場合もあるので、他の保険で十分な保険金額の補償を備えている場合は不要な補償を取り外して契約することです。
なお、今年の7月から損保会社でも単品の医療保険やがん保険、介護保険(第3分野商品)の取り扱いを始めました。目下、主に企業や団体向けに販売されていますが、今後は個人向けの販売が盛んになるでしょう。損保会社の医療保険・がん保険の特色は、生保型医療保険のような死亡保障が無いことで、その分保険料が安くなっています。いわば民間健康保険的な機能を持ち、公的健康保険を補完するものといえます。一部に自動車保険と医療保険をセット販売している保険会社もあります。
●「任意の自動車保険」のワンポイントアドバイス
個人を取り巻くリスクのうち自動車事故の頻度が最も高いことから、「自動車保険選び」優先順位のポイントを示すと、まず第一に、どのような事故が起きても必ず補償されるように最もカバー範囲の広いものを選ぶことです。
例えば、人身傷害補償保険を組み込んだ完全補償型自動車保険より、従来のSAPのほうが価格だけをみれば2割程度安くなります。しかし、SAPは契約者による加害事故の場合はひと通りの損害が補償されるものの、被害事故の場合は@過失相殺により契約者の過失部分は自己負担となる、A示談が確定し双方の過失割合が決まるまで損害が補償されない、B相手方100%過失の完全被害事故の場合は、契約保険会社の賠償保険事故でなく、契約保険会社が示談代行に入れないので、賠償知識のない被害者(契約者)自身が相手方の保険会社の専門家と直接示談交渉しなければならない。このためトラブルになったり不利益を被るケースもあり得る―などの問題があります。人身事故の示談確定まで後遺障害で平均約2年、傷害でも数カ月かかることがあるのです。
この弱点を解消したのが人身傷害補償保険で、@相手方との示談を待たずに、まず契約者の過失部分も含めて実際の損害額全額を補償する、Aその後、契約保険会社が相手方と示談交渉し、損害賠償金の回収を行う仕組み(代位求償)です。現在、大半の保険会社がこれを基本約款に組み込み、または特約でSAPに付帯する形で完全補償型商品(他車運転危険担保特約も基本セット)を品ぞろえしています。保険は「価格」を買うのではなく、万一の時の「補償」を買うものであることを忘れてはなりません。
なお、国内保険会社の大半は完全補償型をベースに1本の基本約款で総合補償する仕組みになっており、必要な補償を自由に組み合わせる形式が一般的です。従来のような単品のSAPやPAPを販売する会社は少なくなっています。 第二のポイントは、自動車賠償事故の9割以上が示談で解決していますが、一般のユーザーにとってはこれが一番やっかいなものなので、示談交渉を行う担当社員の能力や経験も含めて損害サービス体制が充実している損保会社を選ぶことです。ただし、示談代行を行う損害サービス担当社員の数がただ多ければよいと言うのではなく、一人当たりの社員が担当する事故(契約)件数で比較する必要があります。示談は法的には「和解」と同じ拘束力があり、原則として後で変更できないので、信頼のおける示談代行サービス選びをしないと、不利益を被るケースもありえます。まさに事故時の損害サービス体制こそ自動車保険の中身といっても過言ではありません。
ちなみに、世界最大の損保会社である米国ステートファーム社では、損害サービス担当社員が全社員の約4割強を占めており、地域密着の損害サービスで米国のトップブランドになっています。自由化先進国での消費者の保険会社選びのポイントを示す事例として興味深いものといえます。
日本の保険会社もこうした先例にならって損害サービス体制を強化拡充しているが、事故が起きるのは平日だけではありません。土曜・休日の平日並み対応の有無や、加害者・被害者の入院時などのスタッフ訪問サービスの有無も大切なチェック項目です。
これに関連して、第三のポイントは、地域で事故処理サービスに定評のある代理店を選ぶことです。顧客の側に立ってアドバイスすると共に、保険会社に対して迅速な損害処理を指示できるような、専門スタッフ社員の充実している法人(有限会社や株式会社)の専業代理店や、保険専任者のいる有力なディーラー代理店などを選ぶこと。担当者が誰か、その能力やキャリアも要チェックです。なんとなく愛想の良さで選んだり、昔から掛けているからといった安易な「代理店選び」をしてはいけません。何せ自動車保険の価格の2割弱も取り扱い代理店の手数料として支払われているのだから、契約者からすれば事故時にこそ万全な事故処理サービスが提供されて当然なのです。
そして、第四のポイントが価格のチェックです。各社商品の各種特約を含めた補償内容・サービス内容と価格を見比べて「より良く、より安い商品」選びをすること。
そこで、保険の価格についていくらか専門的な話をすると、保険料は補償部分の保険料(純保険料)と経費部分の保険料(付加保険料)で構成されています。その構成比はおおむね6:4となっています。現在、自由化の進行により損保会社は経費部分の保険料を圧縮しつつありますが、欧米(7.5:2.5)に比べかなり高い水準になっています。
直販保険会社の場合は、通信販売によってコストを合理化していると宣伝してはいるものの、その数値は公表しておらず、客観的に確認されていません。この経費部分の保険料が他の会社より低ければ、その会社の保険の価格水準が安いといえるのです。リスク細分型自動車保険の場合は、保険の原価部分(純保険料)が低リスク層は安くなるが、高リスク層は一般料率より高くなる仕組みであり、契約者全体にとって価格水準が安いわけではありません。ただし、無事故契約者層にターゲットを絞り込むことで予定損害率を低く見積もり、保険原価が安くなる仕組みであること。さらに、すでにインターネット割引を実施している直販会社があるように、今後、コールセンター・システムなどの経費の償却が終わって黒字転換後は経費部分の保険料も引き下げられる可能性があることから、いずれは商品内容も含めて「より良く、より安い」方向で、欧米の直販保険会社ならではの低価格水準のメリットを提供するようになるでしょう。
なお、「SAPで最大何%割引」と宣伝している保険会社もありますが、上記のように単品SAPを扱っている保険会社は少ないことから、公正な価格比較のうえで問題があるといえます。
なお、入り口の価格の他に、出口の保険金のバラツキもある。人身事故の保険金支払いの基準となる慰謝料の支払い基準(テーブル)が、実は各社ごとにかなりのバラツキがあるのですが、これは公開されていません。
以上のように、特約を含めた補償内容・損害サービス体制・各種サービスメニューなどをつぶさにチェックし、そのうえで自分の契約条件ではどの会社の価格が安いのかを比較する必要があります。いちいち保険会社や代理店に出向くのは面倒と思う人のために、最近は保険会社がホームページで保険料見積もりサービスを行っており、最寄りの代理店を紹介するシステムも開発している。
また、見積もりサービス専門サイトもいくつかありますが、@複数の保険会社と取り引きする乗合代理店で、代理店ビジネスの一環として行っているもの、A契約募集を目的としない紹介サイト(損保には紹介代理店制度がないのでサイト使用料を保険会社より取る)として見積もりサービスを行うもの――の二つのタイプがあります。申し込みデータを取引先保険会社にマル投げし、保険会社からの回答の中から価格の安い順に並べて提示しているケースもあり、信頼のおける「見積もりサイト選び」も必要です。
現状はこうしたビジネスが緒についたばかりで、問題点も多くあります。一般向けに自動車保険を販売する主要損保会社は約30社あるが、取引先10社程度のなかで比較したり、大手損保会社すらそろっていないものがあります。各種特約・費用を含む担保内容が不揃いのまま単に保険会社が算定した価格を比較したり、損害サービス体制等を比較対象に入れていないなど、事故時の対応に不安がある回答が出てくる懸念もあります。したがって、活用するとしても今しばらくは一定の参考程度に止めて、見積もりサービス業者の独立性の確保と消費者保護に関する法制整備など、今後の成熟を待つべきでしょう。
やはり、自分自身で面倒がらずに複数の損保会社から相見積りを取るか、保険会社のホームページで情報収集し、時間を掛けてじっくり比較検討することが大切です。
●任意の自動車保険の契約手続きのポイント
最善の保険選びができたら、次になにをポイントにして契約するかの検討が必要になります。
いまや対人事故で3億円、対物(事故相手は車ばかりではない)事故で1億円をこす高額賠償事例もあります。賠償資力が無ければ加害者の人生も悲惨なことになるのです。何よりも大切なポイントは、対人賠償保険の保険金額を必ず「無制限」としておくことです。人の生命の値段にあらかじめ勝手に区切りをつけることなどできないのですから。例えば保険金額で「無制限」と「1億円」では大きな差がありますが、保険料負担でみれば月にコーヒー1杯程度の差しかないのです。また、保険料負担の余裕があれば、対物賠償も無制限としておけば、高価格車のみならず、信号機や建物などへの損害賠償にも安心です。 次に自分自身の被害事故の備えです。人身傷害補償保険はアメリカではノーフォルト保険といわれ、州により加入を義務づけられています。過失相殺による減額が無く、完全被害事故でも保険会社の専門家が相手方と示談交渉してくれます。
次に、加害事故での対人・対物事故両方の示談代行については車両保険の付帯(従来のSAP)が要件になる場合があります。車両保険の保険料は割高感がありますが、オールリスク補償の一般の車両保険より割安なエコノミー車両保険(相手自動車との衝突などで損害を受け、相手自動車が確認できた時だけ保険金払われる)や、エコノミー車両保険に車両危険限定担保特約A(火災・爆発、盗難、台風、洪水、高潮などの損害を補償)をセットする契約も可能で、いずれも保険料が安くなります。このほか、車両保険は時価を限度に保険金額を設定しますが、保険会社により、時価を下回る修理支払い限度額を設定することで車両保険料を軽減する契約方法が選択できるところもあります。
こうして必要な補償の選択ができたなら、家族限定割引など各種の保険料割引制度を最大限活用し、「補償はより広く、価格はより安い」合理的な契約手続きを完成させます。
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