●東洋経済保険特集号の過去論文「06年版」要旨
(08年2月16日)

〜銀行窓販・郵便局保険販売と生損保基幹チャネル改革〜
※文中の役員氏名・役職名は06年9月発行当時のもの。
 少子高齢化、リスク多発時代における利用者ニーズの変化、破綻・合併・アライアンス、急速な価格競争の進行、デフレ後の資産価値
(含み損益)格差の拡大、規制緩和による新たな事業領域の拡大、それと表裏一体の既存市場へのコンペチターの新規参入や、コンプライアンス規制の強化(金融庁監督行政の消費者運動化)などの動機が絡み合って、保守的な生損保各社のビジネスモデル改革が進みつつある。

 2002年4月に初の損保持株会社というROE経営のハコモノを立ち上げたミレアグループは、その後の共栄火災、朝日生命のグループ離脱、窓販生保子会社の設立(旧スカンディア生命買収)、中核損保部門・東京海上日動の合併、日新火災の吸収統合など、実に目まぐるしい事業再編を経て、06年度から新たなビジネスモデルの構築に着手した。その骨格となるのが、東京海上日動の中計最重点項目「業務革新プロジェクト」だ。
 ミレアホールディングス社長在任4年目、旧東京海上を含め東京海上日動社長5年目を迎え、自らの経営の総仕上げに当たる石原邦夫社長は、「元受会社内のケチな業務プロセス改革ではない。安心と安全を求める顧客ニーズを体して、代理店と会社の双方で新たなビジネスモデルを創出する一大プロジェクトだ。損保が頭打ちだから、次は第3分野だ、生保だといった、その場しのぎの市場・経営資源移転には与しない。顧客ニーズ→代理店→営業担当社員→東京海上日動の事業展開→ミレアの事業再構築→顧客・株主への利益を最大化する、プラス循環型のビジネスモデルを向こう3年間で構築する。ミレアグループが花開くのはこれからだ」と意欲を示す。

チャネルは利用者が選ぶ

マルチチャネルの相乗効果

  非日常性商品を扱う保険産業では販売チャネルのあり方で、あらかたのビジネスモデルが決まる。石原社長が「プロ代理店によるトータルリスクマネジメントサービスと、銀行・郵便局窓販によるワンストップサービスは、利用者が自ずと使い分ける。一方、地域金融機関・郵便局・地域プロ代理店が地域顧客のために有効なコンタクトポイントとして協業する姿も描きうる」と言うように、すでに多様な販売チャネルを自在に使い分けている損保会社の場合は、巨大な銀行・郵便局窓販チャネルの新規展開は、おおむね商圏拡大のメリットが見込める。
 また、すでに世界市場で窓販、直販、専業チャネルを自在に使い分けているグローバル外資系の生保経営者もチャネルシナジーによる市場拡大に自信を示す。07年度末までにエジソン生命と合併し、日本市場での地歩を固めるAIGスター生命のJ・バークハード・Jr社長は、「保険会社ではなく利用者がチャネルを選ぶ。米国での約20年の銀行窓販の実績で言えば、窓販により生保の市場規模は拡大した。全チャネルに占める営業社員数の割合は減ったが、生産性は著しく向上している。窓販拡大により顧客の商品ニーズが顕在化し、市場全体の保険購買意識が高まる。利便性を求めるシニア層や資産家層主体の窓販顧客と、コンサルティングを求める若い世代〜ミドル世代中心の、営業社員の顧客とで、顧客層も棲み分けている。最近は当社も窓販に注力しているが、営業社員コアチャネルの生産性は過去5年間で2・5倍に向上した」と胸を張る。
 アクサ生命は5000人余の営業社員で、提携520商工会議所傘下の中小企業市場を主体に開拓するが、銀行窓販に卸す外貨建て変額年金を営業社員も扱っており、さらに、いま営業社員が主力チャネルとなっている医療保険を、07年以降の銀行・郵便局窓販の戦略商品に据える構えだ。開拓ポテンシャルの大きい生存保障市場においては、中小企業市場と窓販個人市場との棲み分けが成立すると考えるポール・サンプソン社長は、「商工会議所関連の強固な顧客基盤があるからこそ、窓販拡大が絶好のチャンスとなる。特に全国2・6万局の郵便局ネットワークに対しては、コールセンターサポートやアクサダイレクトの活用が有効だ。営業社員は独自のITセールスプロセスにより、当初より生産性が35%も伸びている」と、日本市場でのマルチチャネルの発展を期待する。一時払い変額年金を扱うとはいえ、同社営業社員1人当たりの月平均の新契約生産性は件数4・9件、年換算保険料69万円と高水準だ。
 一方、長く専業営業職員モノチャネルに依存し、不在客訪問で時間を費消する低稼働層も含め、大量の職員数をもって利便性ニーズ?に対応してきた国内生保会社にとって、リテール市場での大規模チャネルの使い分けは初体験で、窓販商品が年金から将来、保障性商品へと拡大していった場合のマーケティング展望は描ききれていない。現場の生保営業職員の気持ちとして、第一生命の櫻井磨理子・特選営業主任は、「銀行・郵便局窓販は生保商品の新たな販売経路と言え、まさに私達のライバルの出現と受け止めている。私達は生保販売のプロとして、自己研鑽に励み、お客さまの信頼が得られるよう努力しなければならない」と、率直に危機感を表す。

コストをドブに捨てる

ターンオーバー営業モデル

 大手生保の専業営業モデルが抱える古くて常に新しい問題がターンオーバーだ。生保商品は無形商品であって、非日常性商品であり、死亡保険に至っては、購買商品のサービス対象者(被保険者)は商品の効用を生涯実感することはない。それは人(見込客)が人(姿が見えるセールスマン)を信頼して加入する最高期待値商品なのだ。よって生保会社は契約募集(成績計上ベースによる資格規程)と新人採用(職員任用・育成評価ベースの営業職位規程。親→子→孫職員へと連鎖的採用拡大を図る制度趣旨)の両建てによる独自の専業職員(階級)制度を構築してきた。新人採用による陣容拡大に取り組むことが昔も今も営業機関経営の根幹を成す。
 利用者が日常的に商品の効用を実感できないという、最も販売が困難な商品を陣容維持のためにかき集めた新人に売らせれば、必然的に大量脱落が発生する。大量脱落した新人にかけた直接コストのみならず、「掛けた人」がいなくなれば、孤児化した大量の契約が損益割れのまま早期解約される。ターンオーバーで捨てられた膨大なコストが必要経費になっていないことは、生保業界の誰もが分かっている。では、なぜモデルチェンジできないのか――ライバル他社と同型の営業モデルゆえ、みんなで渡れば怖くないのだ。
 新人が一人前の生保セールスになれるかどうかのボーダーラインを国内・外資系とも採用後13月目・25月目に置いて計っている。今回取材した専業職員主体の生保会社で、05年度末の25月目在籍率はニードセールスを行うジブラルタ生命が34・0%で最も高く、次いで営業教育に注力している日本生命が24・7%、厳選採用に取り組む朝日生命が22・4%で、以下、富国生命20・9%、住友生命20・7%、第一生命19・7%、三井生命17・0%、明治安田生命16・7%などの順になる。大手生保はいずれも底を打って上昇傾向にあるものの、歩留まり2割の実態にほとんど変化はない。
 最近は他産業のパート雇用が多様化するのに伴い、主婦層の採用が年々困難な状況になり、入り口が細くなってきたことで、大手生保は陣容維持・基盤確保のため、採用後3年目以降5年目まで職員の給与を加算したり、成績条件を緩和するなどして、言わば「残る可能性の高い職員を残す」趣旨で5年間育成の方針を相次いで打ち出している。これもしかし、ターンオーバーが改善しないまま低稼働層まで長期滞留する懸念もあり、さらなるハイコストオペレーションの招来を胚胎している。大半の国民が加入する生保専業営業職員のモデル改革は、個社の政策の範囲を超え、国民経済の視点に立って断行すべきものだ。専業営業職員が組合員であるということは、労使とも大胆にリスクを取る覚悟がなければ、モデルチェンジは実行できないことを意味する。

トップダウンによる
スミセイ再生革命

 横山進一社長のトップダウンでビジネスモデルを再生する「Reスミセイ革命」が昨年度来、住友生命で劇的に進んでいる。 05年4月からの「営業インフラ革命」(営業適性検査の導入、営業職員5年間育成を軸とする募集品質向上)、「事務サービスインフラ革命」(支部キャッシュレス化、告知書簡素化・診査締め切り廃止、保全処理のコールセンター一元対応などによる営業機関・営業職員の事務負担削減→営業専念化促進)、「人財革命」(定地型営業職支部長の拡大など)に続いて、06年度から「マネジメント革命」(ガバナンス革新)に着手し、この4大革命をもって「Reスミセイ革命」と呼称している。中でも、国内漢字生保の旧来型営業モデルからの脱却を目指すのが、「営業インフラ革命」だ。05年度は在籍数・実働数ともプラス反転し、好業績となったにもかかわらず、横山社長は「当社は資産の含みが薄く、自己資本も少なく、不良債権処理で大きなコストも払った。含みの厚い他社と同型の営業モデルでやっていたら、明らかに配当込みの価格競争に負けてしまう」と冷静に足下を見つめる。
 一方、今後の生保市場を鳥瞰して、「これからは銀行窓販、民営郵便保険や通販など多様な保険流通チャネルと、我々の専業チャネルとの募集品質が市場で比較される時代になる。専業チャネルの募集品質が向上できなければ、我々の基幹チャネルの崩壊が始まる」と、危機感を強調する。
 上げ潮基調の社内の猛反発を押し切り、05年度から実施した5年間育成については、「極端に言えば、採用数は従来の半分でも構わない。目先の陣容など興味すらない。顧客や社会から許されないターンオーバーとは決別する。8割もの新人が入れ替わる2年回転型の営業モデルは大量の早期解約に連動し、膨大なコストをドブに捨てるものだ。職員は保有150〜200件になれば、ほとんど脱落しなくなるが、それには5年程度かかる。3年目以降の低稼働層を些かな手当を出して残したとしても、ターンオーバーの無駄遣いに比べれば、はるかに安いコストで済む。一時的に業績が落ち込むことも覚悟している。痛みに耐えて必ずや育成型専業モデルに転換する」と、覚悟のほどを披瀝する。
 住友生命は5年間育成のためのインフラ整備として、昨年4月に販売技術研究所を設立し、ニードセールス研修カリキュラムを策定した。3年目以降の低稼働層でも週1件の挙績が必ず励行できるように育成するためだ。また、昨年2万人に対してテストランした営業適性検査「キャリアプロファイル」(質問128項目)を06年度から本格導入する。米国リムラ・インターナショナル社製の「入口選別」の検査内容を5年間育成に連動させて改定し、優秀者の採用アプローチと診断評価を採用後の幹部職員育成に向け役立てる。現場を預かる田中美由紀・横浜支社旭支部長は、「キャリアプロファイルは新人の営業適性を具体的な数値で表すので、本人の将来の夢に向かっての目標設定や伸ばすべき長所をアドバイスするのに参考になる。5年間育成の中で、ライブデザインを活用したコンサルティング力をしっかり習得させ、育成していく」と意気込みを語る。

EVベースの新生モデル
朝日生命のチャレンジ

 今では遠い過去のことのようだが、振り返れば朝日生命は021月に旧東京海上の子会社生保との合併見送り、翌031月のミレアホールディングス傘下の経営統合からの離脱という単独で生き残るピンチから、瞬く間に新生ビジネスモデルで蘇った。かつ、国内勢の一歩先を行く揺らぎのない将来収益(EV)重視型経営で着実に勝ち残りへと歩を進めている。
 朝日生命はミレア離脱と同時に、従来モデルでの再生ではなく、市場をリテールに特化したうえで、EV増加額(アチーブド・プロフィット)ベースの「業務収益指標」(BPI)による経営を確立した。さらに06年度からは、営業職員陣容がもたらす将来の新契約価値の増加額を表す「陣容将来収益指標」(FPI)を導入し、営業職員の採用・育成と将来収益額を連動させた独自の年責体系を設定した。将来収益を稼ぐ陣容方程式など内外に類を見ない。業界が長年、呻吟してきた「陣容と将来収益」の相関を明らかにしようとする知恵の挑戦と言える。06年度のテストランを踏まえて、専業営業職員コアチャネルにこだわりながら、BPI+FPI=TPI(総合収益指標=アプレイザル・バリュー)ベースで、新たな企業価値を創出する経営を目指す。
 特にFPI向上への基軸政策として、今年度から5年間育成に取り組む。ピンチを機にトップダウンでモデルチェンジした藤田譲社長は、「具体的な成果をもって専業営業職員体制の優位性を必ず示す。25月目で3割を切っているようでは世間から認められない。厳選採用で2人に1人は残るようにし、月当たり新規3件以上の挙績は当たり前にする。また、厳しいときに基盤顧客をグリップしてくれた高能率職員が定年で辞めるのはもったいない。収益貢献度の高い職員が長く勤められる多様な制度が必要だ。基幹チャネルを高度化できないまま、窓販を云々する風潮はおかしい」と、新たなビジネスモデルに自信を見せる。 藤田社長は頻繁に現場に出て、機関長たちに「3つの使命」を平易に説く。@多件数販売を徹底すること→新契約価値が高まる、A継続率を高めること→保有契約価値が高まる、B良質な陣容拡充への日常的な取り組みを続けること→次年度以降の新契約営業力が高まるの3点で、@AがBPI、BがFPIを一言で表現している。
 掛川敦史・朝霞営業所長は、「FPI導入で、人材を着実に採用・育成していく現場の取り組みがしっかりと評価してもらえるので、やり甲斐を感じている。現場責任者の使命として、腰を据えて戦略的に人材の採用・育成に努めていく」と力を込める。朝日生命の売り上げの大半はユニバーサル型保険付帯の定期性商品に拠っており、低単価だが儲かる保険料だ。残る課題は転換主体の営業から脱却し、新規件数の生産性で目に見える答えを出すのみだろう。

 三井生命は、05年度に新契約年換算保険料を商品別の将来収益の現在価値で係数化した業務運営指標「戦略P」を導入し、総合収益に連動させた職員給与体系を整備した。そして営業職員チャネルでエリア市場、FP型チャネルのPMMサービス部隊と銀行窓販チャネルで個人富裕層市場、支社法人推進課長・専業職員とPMM部隊の連動により中小法人市場を開拓するビジネスモデルを着実に築き上げつつある。西村博社長は、「チャネル・商品・運用三位一体の構造改革と成長ストーリーのベースが確立できた」と自己評価する。上場は収益状況と市場環境をにらみつつ慎重に時機を探る構えだ。
 これら国内生保3社のビジネスモデルの転換は、デフレに押し込まれて生保の生命線であるストック価値を毀損した会社が、生き残りをかけてフローモデルを革新した共通項でくくることができる。

破綻生保を蘇らせた
外資の経営モデル

 優良提携基盤を持っていたにもかかわらず、経営力が劣っていたために破綻の憂き目にあった生保会社が、外資流の合理的な経営によって蘇り、さらに固有の基盤を生かして急成長している事例として、今やプルデンシャルグループの中核会社となったジブラルタ生命(GIB)がある。
 グループの中では、旧協栄生命の基盤を生かしたGIBが提携団体市場主体の営業モデル、プルデンシャル生命(POJ)は個人保険市場主体の営業モデルと、ビジネスモデルを峻別している。共通するのはいずれも収益性の高い死亡保険のニードセールスを骨格に置いていることで、国内生保の第3分野傾斜がプルデンシャルグループには追い風に働いている。
 三森裕POJ社長は、「精鋭ライフプランナー(LP)による死亡保障市場の開拓が創業以来のビジネスモデルで、保有200万件を獲得した。他社の第3分野傾斜で今後は一層優位になる」と見通す。男性主体のLP1人当たりの月平均新契約生産性は件数7・9件、年換算保険料173万円とハイパフォーマンスだ。
 GIBは旧協栄生命が半世紀余にわたって育んだ教職員団体基盤に経営資源を集中。提携商品の集団扱い個人定期保険を主体とする教職員団体関連の新契約件数ウエートは全体の5割近くに達する。
 GIBの営業体制は支部長がリクルート(採用)に専任し、支部の業績に対して報酬を得る。営業社員(LA社員)は募集に専念し、新契約年換算保険料に対するフルコミッション制で報酬を得ている。04年度まで4800人前後だった陣容は今年6月、一気に6000人台に乗った。その構成比は女性6割・男性4割で、支部の現場は老若男女が融合して活性化している。2年間のトレーニング期間終了後のキャリアLAの平均年収は509万円で、生保セールスが安定した職業として確立している。大手生保が目指す週1件の挙績どころか、かつては同じ国内生保だった旧協栄生命在籍のキャリアLAの中から3W(毎週3件挙績)連続100週(2年間)達成者が続出している。
 大川裕彦専務・最高営業責任者は、「LAの子息など身内の入社が増えていることが何より嬉しい。営業力は平均値で地道な努力を続ける女性のほうが上回る。2カ月単位の採用数は約400人で、25月目在籍率を4割台に上げ、早期に1万人体制にする。将来的には国内大手3、4番手規模の体制にしたい」と、陣容維持に四苦八苦する国内生保が目を剥くようなことをあっさり言う。ただ、新契約至上主義に走りすぎるとコンプラ懸念が惹起するだろう。

価格競争の勝ち組は
マイナーチェンジ

 資産の含みが厚く、価格競争の勝ち組の日本生命と第一生命は大陣容の営業職員チャネルを展開し、大量の保有顧客と最大利源の保有Sを維持する営業モデルを守りながら、ハード・ソフト両面のマイナーチェンジで補強する。
 日本生命は、市場特性に対応した最も多様な対面マルチチャネルを展開している。市場競争が激しい大都市部は営業職員基幹チャネルに加えて、GLAD(富裕層)、シャルム(中小法人)、リーブ(大規模職域)、法人営業総合職のほか、来店型店舗ライフプラザ、代理店チャネルを使い分けて多面的・重層的な開拓を進めている。伝統的に強みを持つ地方市場は主に営業職員基幹チャネルで開拓する。保全ニーズに応えて保有顧客との絆の強化を図る「新トリプルA活動」では、携帯端末の新機能で職員の有効コンタクト状況をチェックすることで、昨年度950万件の訪問対面を実行した。
 岡本圀衛社長は、「最も大切なのは教育だ。顧客満足向上と基幹職員層の拡充に向け、拠点長・同補佐6000人の本部集合全員研修を行っている」と語る。同時に4年目までの若手層の活動量拡大を狙った「フレッシュグランプリ」(05年度1200人表彰)や、有望新人層を重点研修する「はつらつルーキー」制度を実施し、若手基幹職員づくりに取り組む。
 第一生命の斎藤勝利社長は、「保有S重視路線は今後とも不変だ。職員の新規参入が閉塞する中で、3年目以降の育成率を向上させるため制度見直しを行い、営業力の強い人材を育成する。現場で汗をかく職員にとって明るい夢が描ける制度を常に考えていくことが当社の現場主義の伝統だ」と言う。
 第一生命が目下、最も注力しているのが営業職員用の新携帯端末「eNavit」(イー・ナビット)の活用励行だ。顧客対応機能はもとより、コンサル話法の自己研修機能やリクルート(採用活動支援)機能を搭載しているのが最大の特色だ。実際の効果について櫻井磨理子・特選営業主任は、「オンカメラを活用したロールプレイング機能は、自分が顧客対応している姿を客観的・多角的な視点でチェックでき、特に新人へのアドバイスに効果がある。リクルート機能も、採用見込者に画面を見せながら説明でき、生命保険への理解や働く意欲を深めてもらえるツールとして有効な武器になっている」と評価する。
 すでに固有基盤とチャネルの強みを保持しつつ窓販対応インフラにも手を打ち、市場環境に対応したビジネスモデルを構築している富国生命とT&D保険グループにも当面、大きなモデル変化はない。
 強みの中小企業職域市場、官公庁市場などを開拓する営業職員チャネルと、信金窓販チャネルの2本柱を確立している富国生命の秋山智史社長は、「営業職員チャネルは陣容1万2000人規模、実働9割以上として存在感を出す。育成を永遠のテーマとせず、時限を区切って強化する。社長方針でさらなる世代交替に取り組む。信金チャネルでは地域の本体顧客の信頼を毀損することがあってはならないので、コンプラ・コンサル両面で信金職員の集合研修を実施している」と足下を固める。
 TKC税理士チャネルを基軸に中小企業市場を開拓する大同生命、営業職員チャネルで地域個人市場を開拓する太陽生命、銀行窓販チャネルで富裕層市場を開拓するT&Dフィナンシャル生命と、市場特性と販売チャネルの最適ミックスにより、3社それぞれ異なるビジネスモデルを築き、国内生保会社の中では最も合理的な持株会社経営を行うT&D保険グループの宮戸直輝社長は、「3社のビジネスモデルは当面不変だが、将来は市場環境と収益状況に応じて変化する場合もある。EV導入後3年を経て3社の経営指標を統一し、持株会社指示型の迅速な経営が可能になった」と自信を見せる。
 一方、営業モデル再生の旗幟を鮮明にすべき時期を迎えているのが、明治安田生命とアメリカンファミリー生命だろう。
 明治安田生命は会社帰属意識と仲間意識の強い専業職員チャネルの同型モデル同士の合併には、急速な陣容縮小という大きな副作用が伴うことを如実に表した。04年1月合併時の陣容4万3298人が、合併後の不払い問題発生の影響も加わり、05年度末には3万2307人と短時日のうちに1万人以上も減少させてしまった。
 会社再生に当たる松尾憲治社長は、「極力現場に出て職員の意見に耳を傾け、その声を会社再生に反映させている。これからは厳選採用を第一義とし、ターンオーバーを改善する。OJTを強化し、育成型の職制と機関評価体系に見直した。さらに、より高い資質の職員の給与を安定化する方向があって良い」と述べるが、最優先すべきは営業拠点における「人の融合」ではないか。その点で松尾社長には、大手生保で唯一の機関長経験者という自らの強みがある。現場で苦労する機関長の目線でビジネスモデルを再生すべきだ。
 第3分野特化型のアメリカンファミリー生命の経営は、0712月の窓販全面解禁後の、銀行側の第3分野政策の有り様で吉凶が分かれる。厳しい弊害防止措置に加え、説明義務ルールが厳格化される中で、リテール営業専任体制が整備されたメガバンク以外では、保障性商品の取り扱いが遅れる可能性もある。銀行が本体で第3分野商品を扱うか、それともアメリカンファミリーがトップシェアを取る別働体代理店の本体吸収(要員移転含む)が進むか、そのシナリオ次第では、すでに年金窓販で実績のある他生保や、有力損保との激しい競合にさらされるだろう。
 また、かつてアメリカンファミリーは企業代理店の職域市場に傾斜していたが、90年代後半から個人代理店(アソシエイツ)拡大路線に転じた(05年度1万1326店、専属85%)。さらに、代理店側の要請に応えて死亡終身保険を取り扱うようにもなった。国内生保と同じ土俵に乗って個人代理店が膨れていけば、優位性を誇っていた第3分野特化型のローコストオペレーション経営が行き詰まる懸念もある。米国本社の市場拡大を実現し、05年1月に凱旋帰国した幹晶稔社長は、「今は窓販云々より、まずアソシエイツを強化し、そのアライアンスを進めていくことが重要」と強調する。

中核代理店の夢を育む
ビジネスモデルが発進

 損保会社が描く中核プロ代理店(企業型専属専業代理店)の将来像は課支社代替機能や、製販分離の販社的機能などまちまちだが、合併・協業(募集・事務委任など)による代理店アライアンスを促進する目的は各社共通している。自らの経営内資源としての販売効率や経費効率を高めることで、望ましいビジネスモデルを描くことに変わりはない。しかし、専属代理店を損保会社の直営店舗化するような発想では、トヨタディーラーのような足腰の強い地場経営者は育たないだろう。そもそも専属代理店は代理行為を行うとはいえ、損保会社と同心円のビジネスモデルでいいのか。それが地域顧客に密着する独立代理商たるプロ代理店にすべからく裨益するのか――この疑問に答える一つの小さな胎動が、若手専属プロ代理店の側からやっと出てきた。 「虚ロ険プラザ」が持株会社「プラザホールディングス梶v(加志尚久社長=泣Jシショウジ保険事務所社長。2代目代理店で旧東京海上元社員)に衣替えして、7月14日に設立登記された。それは、旧東京海上の研修生OBによる専属代理店を中心とした自発的なITネットワークに参加する99店(うち8割が中核代理店クラスで、参加人員は委任型募集人を含め約1000人。組成当初より代申会社・東京海上日動の関与はまったくない)の夢を育む揺り篭である。
 代申会社に対するロイヤルティがひときわ高く、優績コンベンション常連の中核代理店が、会社に対するポジションを何ら変えることなく、自分たちの知恵とコストとネットワークで、独自のビジネスモデルを模索し始めた。当面は中核代理店有志が合併し、持株会社の傘下に、将来の全国規模の専属代理店創設への種となる大型代理店を設置する。そして、これをコアにブロック単位に統合の輪を広げるとともに、事務・経理など代理店内務の標準化→アウトソーシングの受け皿部門設置に始まり、IT部門、要員派遣の受け皿となる人材派遣部門などを設置する。さらに将来は団体市場協業ビジネスや金融機関とのジョイントベンチャー事業の受け皿部門、店頭販売部門、直販部門、窓販地域協業部門、ミニ保険会社などの立ち上げを展望する。持株会社設立で、彼らは事業家集団として、遠大なる夢の挑戦に第一歩を踏み出した。

元受会社製のハコモノに
代理店側のメリットはあるか?

 一方、損保会社の視点に立てば、最大収益源のリテール市場において、第1、2、3分野フルラインサービスによって顧客を獲得・グリップしながら、激しい価格競争に打ち勝つビジネスモデルを構築するには、専属中核代理店の拡大が必須要件の一つになる。
 自立した専属プロ代理店が行う確実な事故処理の初期動作、車両入替手続き、各種事務処理ロードを損保会社の経費負担に置き換えて銓衡すれば、特に経費効率面の寄与が大きい。今後は売上高の大きい中核代理店には、プロフィットシェア(収益配分)を高めるべきではないか。大手損保の中核代理店制度のハコモノ作りは進んでいるが、代理店の統合集約がもっぱら非自立型代理店や営業担当社員のリストラに寄与するだけでは、専属プロ代理店が夢を馳せるビジネスモデルは実現しない。本気で彼らの発展を望むのなら、コンサルティングを前提にしたプロ専用の高単価商品を提供するか、手数料のプロフィットシェアを高めるか、その両方を実行するかで、専属メリットを具現化すべきだ。
 相対的に東京海上日動の中核代理店の手数料規模(図表4参照)が大きい最大の理由は、中核代理店のほぼ100%が扱うプロ専用商品「超保険」による単価アップ効果だ。「超保険」の05年度の売上高は前年度比79・8%増の266億円余で、2リスク以上のセットが51・9%(最多セットは自動車+第3分野で32・3%、自動車+財物+第3分野の主要3リスクセットは10・4%)を占め、3リスクセットの単価は20万円を超す。今後はこれに顧客ニーズの高い年金を組み込む。将来像としては規制緩和に伴い信託や銀行など、他業種の金融サービスのビルトインも考えられるとする。同社はこのほか、協業(業務・手数料分担)によるプロ代理店への契約集約化を促すため、分担に応じる副業チャネルにインセンティブを出す方法も試行する。自立した専属プロへの契約集中が進めば、その結果として顧客維持率と会社の経費効率は高まる。
 損保ジャパンと三井住友海上への業務停止処分は、独立代理商である専属代理店にも営業停止という手痛いダメージを与えた。専属代理店がさらされる地域社会における信頼毀損リスクと顧客喪失リスクの蓋然性も斟酌すれば、保証料としての専属メリット創出に異論はあるまい。
 損保ジャパンは、量よりも質を重視した「地域1番店」作りを進めている。そこにはグループを組む第一生命商品の販売要件も織り込む。佐藤正敏社長は、「業務停止命令が出たその日に、専属代理店に対して顧客保護のためには乗り合いもやむをえないと苦汁の決断をして、現場に指示した。大変な迷惑をかけたにもかかわらず、結果的に乗り合いした代理店は少なかった。逆に多くの代理店から、この非常時にこそ社員と代理店が心を通わせて頑張るべきだと励まされた。これまでハコモノ主体のプロ大型化論がまかり通っていたが、今回の痛切な経験を機に当社伝統の『異体同心・共存共栄』の理念を再認識した。専属プロとの絆を紡ぐ専属メリットを商品面・手数料面・サポート面を含め、あらゆる面で考え方を詰めたい」と、声を詰まらせながら語る。
 時あたかも専属プロ代理店ブランド化戦略「新特級格付制度」を骨子に販売網の構造改革を進めている最中に、不祥事を引き起こした三井住友海上の江頭敏明社長も、「当社ブランドを掲げて顧客を守ってきてくれたMSA会をはじめとする専属代理店には申し訳ない気持で一杯だ。顧客保護のため、乗り合いが必要になる場合はやむをえないと考え、腹を割って話し合いをした。当社ブランドの信頼回復へ全力を尽くす」と沈痛な面持ちで語るが、専属プロ代理店組織の齋藤健MSA会長(蒲エ崎社長)はむしろ会社側を励ますように、「プロ新特級AAAの格付を取得すれば、対外的な信用力が高まると同時に人材確保にも役立つ」と、胸を張る。
 あいおい損保は特に中核代理店の定義を定めていないが、総轄代理店制度などのように地域のコア代理店に契約(顧客)を寄せることで、プロ代理店の大型化を推進している。シェア低下基調のプロチャネルのテコ入れに懸命な児玉正之社長は、「これまで手数料拡大へのハコづくりをしてきたが、総轄代理店クラスでも従業員数10人規模にとどまっている。これが20人規模となり、損保コア業務以外にもリスクマネジメントサービス、税務財務FPサービス、金融サービス体制まで具備すれば信金・郵便局窓販などのバックオフィスとして協業できる可能性が開ける。まずその入り口として一般種目5億円クラスの500店体制を早急に展開する」ことを狙う。
 「中核代理店」の名称をいち早く用いたのは日本興亜損保だが、企業型プロ代理店制度のハコづくりには出遅れた。松澤建社長は、「地域顧客にトータルリスクマネジメントが提供できなければプロ代理店は生き残れない。課支社単位まで展開している当社伝統の中核会を基盤に、慌てず着実に代理店本位でプロの企業化を進める」と語る。そのための時間差を埋めるため、独自の経営資源を活用して地域のプロと競合しない郵便局窓販の姿を模索する。松澤社長は、昨今の業界状況を見つめながら、「規制緩和で損保チャネルはますます多様化するが、収保稼ぎに狂奔するのはどうか。アンダーライティングと顧客保護のコンプラにこだわって、独自のビジネスモデルを構築していく」と誓う。

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