●人口減少と保険市場縮小への対応(08年2月16日)
1、人口減少の影響
今後の人口減少の最も大きな影響を受けるのは、直接のないしは主導できる専任販売組織を持たない大規模な制度共済団体である。例えばJA共済は農協の正職員が5年前後の一定期間ごとに経済活動、信用事業、共済事業などを担当しているが、農業人口の減少による顧客基盤の縮小と、それに伴い共済募集を行うJA職員数がこの10年間で約2割以上減っており、農家家庭への普及推進力が弱まった結果、生命共済などの主力長期共済の保有減少が目立つ。全労済も生協での取扱が大きなウエートを占めつつあり、本体での普及推進がすでに壁にぶつかっているように思われる。とりわけ単種目共済は保険会社とのシェアによって生き残る途を探るか、解散する団体も早晩出現するだろう。
第1・第3分野の人保険市場は、銀行窓販・郵便局チャネルによる新規取扱により、シニア層を中心に今後一定の拡大が見込まれるが、長期的には人口減少による市場シュリンクから逃れられない。生損保・共済含め縮小する人保険市場でのパイの奪い合いが激化するが、この中で勝ち残るには@シニア層の生存保障と団塊ジュニア層を中心とする死亡保障市場の2つの塊を併行して開拓するマーケティングを中核チャネルにおいて徹底すること、Aその有効な手法として、親子・友人関係が共に成立している団塊ニューファミリー世代の母娘市場を開拓すること、および解約抑制のためにも家庭内白地市場の徹底した多種目販売が必要なことが基本的な手法として指摘できる。従来の右肩上がりの人口増加時代のような単純な地域(エリア)・職域開拓といった手法は、今後は通用しないだろう。
チャネル政策について指摘すれば、専業中核チャネルにおける生損保多種目販売で低単価競争を乗り切るか、スキルの高度化によって営業生産性を高めるか、いずれかを選択する岐路に立っている。生保会社専業職員の5年間育成も低稼働滞留層の延命策になると余計のことコスト割れする懸念がある。人口減少は顧客減少のみならず、採販合一型の職員制度による国内生保においては採用減少とりわけ若手人材の採用が顕著に減少し、機関経営を圧迫している。一方、採販分離型の外資系ではブランド力と採用育成方法のノウハウ・スキルを持つ会社が職員の拡大に成功している。この事実から、マーケティング論からは人口増加時代には有効な手法だった親・子・孫職員から成る労働集約型かつマルチ型の陣容主義から、国内生保は決別すべき時期を迎えている。
端的に長年、労使間で積み上げてきた営業職員制度改革は、相互会社風土における労使関係の改革が不可欠だ。人口減少の時代において、有力な固有募集基盤を持たず、銀行窓販・郵便局チャネルから外された中小生保・外資系生保の生き残りは難しく、日本郵政グループとの競合上、ROE向上をめざす銀行・大手生損保グループからのアプローチによるアライアンスが起きる。
なお、日本郵政グループとの対抗上、銀行持株会社によるコングロマリット化は将来の生き残り策として想定されるかもしれないが、保険会社は保険本業での収益減少に伴い一般事業で少しでもROE貢献を図りたいところであり、一般事業を傘下にもてない銀行持株会社による保険会社の統合は現実的でない。市場からはじかれた保険会社が銀行の窓販子生保として生き残りを図るケースは想定できる。
ちなみに、バンカシュアランスの主役である地銀窓販が本格化する時点で大手生保は窓販子会社を各グループともぶら下げるだろう。収益コントロール面や、組合員である職員チャネルとの競合からは同一社内での窓販対応は限界があるからだ。保険持株会社は株式会社と法定されており、株式交換によって相互会社は持株会社を立ち上げることはできない。今後の海外戦略面、一般事業の拡大を計るには持株会社経営が必要になるが、生保本体を傘下に置けないのでは意味がない。
損保は人口減少と〈自動車事故率の減少〉の相乗的な影響を被る。支払漏れ問題で商品の簡素化を行っているが、見落とせないのがレーティングのミスマッチが会社によって起きており、収支残が悪くなっている会社もある。実は98年以降の自由化当初段階で、損害率60%想定で試算したところ、自動車保険収益の主体が費差益となっていることが判明した。低単価・不可率競争から逃れられない中、今後は損保は稠密な商品レーティングが生き残りの重要なファクターになる。大手損保グループで大手生保との関係が薄いところは、子生保のROE貢献は知れたモノであり、生保部門のアライアンスが喫緊の課題となる。
また、国内市場の縮小とデフレの収束傾向が見えてきた中、生損保ともに営業優先での政策投資が復活しつつあり、これがグループのROE低下の要因ともなっている。
2、国内市場の縮小と海外進出
人口縮小による国内市場のシュリンクの隘路を打開するポイントの一つは海外市場への進出、とくにM&Aによる海外ローカル市場の新規開拓だが、日本の生損保会社は長年の大蔵省保護規制下にあり、それがためドメスチックな営業モデルからの転換が遅れた。俯瞰すればグローバルな保険アライアンスに立ち後れた。むしろ海外トッププレーヤーとの時価総額との格差からして、一部損保に見られるような外国資本によるM&Aリスクに直面している。
各国市場でのローカル物件を獲得し、連結売り上げと収益に早期に反映させるにはM&Aによって、それぞれの市場特性に応じた営業モデルをそのまま生かして、現地保険会社の経営権を握って「時間を買う」べきだ。そのうえで日本人経営ならではのきめ細かいマネジメントを時間をかけて注入していく必要がある。たとえて言うなら、日本市場におけるAIG型の戦略を指向すべきだろう。労働集約型の日本モデルの海外移転は、その特殊なモデル自体が付加率競争の中で抜本的な転換を迫られていることを自覚すれば、今後の正否を占うのはたやすいだろう。中途半端なM&Aでは、国内市場の収益シュリンクをとてもカバーできない。後の経営者に決断を先送りする時間的猶予はない。
(1)大手生保会社の海外進出動向
生保会社ではここ数年、中国、インド、タイなどアジア市場への進出を手がける例が見られるようになった。大手生保の海外進出例を挙げると、日本生命はかねて米国ニッセイで日系企業向け団体健保を引き受けているほか、最近ではタイ第4位規模、収保300億弱のバンコクライフに出資比率上限の25%出資。また、中国では政府系企業の上海広電と50%出資現法を新設し、本邦営業職員モデルで長期的な取組みを開始したが、円換算で10億弱の収保規模に止まっている。BRICsに止まらず、欧米市場含めて大型事案の買収が必要だろう。
第一生命は2010年上期に、主に海外市場でのM&Aにおける市場からの資金調達を図るため、株式会社への転換・上場を決めた。2011年度には持株会社経営に移行する。順次または同時に密接な損保ジャパングループとの生損保共同持株会社の立ち上げも予測される。中国市場では立ち後れたが、グループの損保ジャパンともどもインド国営銀行の店舗網を活用すべく上限26%の投資を行い窓販市場に進出する。これは海外ローカル市場を国内モデルとは異なるマーケティングで獲得するもので注目すべきモデルと言える。また、ベトナム生保を100%子会社化したが、20億程度の規模。
住友生命は昔の中国人民保険保険公司が衣替えした生保会社との合弁生保会社「中国人保寿険有限公司」は、すでに四川、北京、湖南、吉林支店を展開。中国人保寿険有限公司は、一昨年11月の開業以来、順調に業績を伸ばしており、開業1年余で保険料収入は約100億円(06年1月〜11月)。シェア(収入保険料ベース)は中国生保43社中17位、外資系では7位。代理人数も06年12月現在で7,000名。
このように日本の生保の海外進出はようやく緒に付いたところだが、国内市場の縮小をカバーできるものでなく、さらなるワールドワイドな買収・投資を積極的に行うべきである。一方大手生保の海外進出が進むにつれ、海外からの相互会社批判が強まる懸念もある。
(2)大手損保会社の海外進出動向
大手損保は古くから海外店舗を数多く展開し、日系企業相手にいわば国内法人営業の地理的延長元受営業を行ってきたが、これとて収益源の国内自動車保険市場の将来的な大幅な縮小をカバーできるものではとてもない。大手損保の海外市場での主な動向をいくつか例示する。
ミレアグループの連結ベースでの損保事業の収保ウエートは、国内市場が86%、海外市場が14%(うち再保険収入3%)の構成比。ローカル元受物件はブラジル現法などで古くから扱われているが、現在、アジア市場におけるローカル物件比率は約8割に達している。三井住友海上とともに、アジア・欧米・中南米・中東などに最もワールドワイドな営業網を持つ。中国市場には中国生命・中国天安と2つの生損保現法を展開。最近ではイスラム式保険のタカフル市場にもマレーシア、シンガポール、ドバイで参入。海外市場でのROE拡大を図るため海外戦略機能をミレアHD海外事業企画部に一本化した。
ミレアグループと双璧のグローバルネットワークを持つ三井住友海上グループの連結ベースでの海外収保ウエートは17%で、ミレアグループを凌駕する。これはアジア市場でアヴィバグループのネットワークをそっくり買収したことが奏功した。中国では上海支店を全額出資の独資現地法人「三井住友海上火災保険(中国)有限公司」に変更する認可を取得。01年5月に元受営業免許を得て上海支店を開設したが、今回の認可により、関係当局への登記手続きが完了次第、現地法人として営業を開始する。また、ドイツのローカル企業を対象にした損保元受事業に10月より新規参入。欧州市場の100%子会社「三井住友海上ヨーロッパ社」の増資を行うとともに、引受に必要な人材確保を行い、ドイツ現地企業を対象として火災保険・賠償責任保険・貨物保険、建設工事保険など企業保険の元受事業を行う。ドイツのロカール企業保険市場への本格的な参入は日本損保会社では初めて。当面、保険料収入目標として2010年までに1億ユーロ(約160億円)、ドイツ国内のマーケット・シェア1.5%規模を目指す。海外事業のさらなるROE貢献を見込んで4月にHDを設立し、海外戦略を一元化する。
当面、世界主要市場での全体的なシェア拡大を目指すのはこの2社で、そのほかはアジア市場をベースに段階的に海外ローカル市場を拡大していくことになるだろう。
損保ジャパンは、07年1月に設立したインド現地法人「Universal Sompo General Insurance Company Ltd.(USGI)は、11月16日付で現地の保険業規制開発委員会(IRDA)による営業免許の正式認可を取得。今後、商品申請手続を経て、12月営業開始。インド国営銀行の関係する合弁会社として初めて認められた損保事業。合弁パートナーはインド全土に約4,000の支店を持ち、銀行窓販の実績もある。損保ジャパンは保険会社運営に関するノウハウを、合弁パートナー4社はインド全土に展開する販売網をUSGIに提供し、国内ローカル・リテール市場で事業展開を図る一方、進出日系企業向けにも保険サービスを提供。また、05年に設立した中国現地法人の日本財産保険(中国)有限公司は、9月25日付で中国保険監督管理委員会から上海支店設立の正式認可を受けた。登記などの手続きを経て、10月中に営業開始。日系損保会社としては初めて、中国市場において大連・上海と複数都市に営業拠点を構える。
あいおい損保は、昨年11月に中国保険監督管理委員会より天津市での支店設立認可を取得し、開業準備を進めていたが、5月31日、同委員会より営業免許(経営保険業務許可)を取得。各種手続を経て6月中に開業の運び。同社はこれまで、北京・天津・上海・広州、香港に駐在員事務所を開設。今後ともトヨタの海外市場をカバーすべくBRICsなどでサービス網を展開しよう。
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