●東洋経済保険特集号の過去論文要旨(06年4月18日)

(週間東洋経済05年版保険特集号論文「保険・銀行・郵便局チャネル融合の時代へ〜大手生損保の保険・金融サービスミックス戦略を探る」05年8月発行:山野井良民著作)
<前分>
 バンカシュアランス(銀行窓販)はフィナンシュアランス(保険・金融サービス融合)時代の幕開けとなるのか。生損保の専業チャネルは生き残れるのか―保険・銀行・郵便局が相互に販売資源を共有する時代が目前に迫る。
<本文>
 長年、沈殿した澱を吹き飛ばすかのごとく、住友生命が生まれ変わろうとしている。今年4月の総合経営会議で横山進一社長は自身の総仕上げとして、「経営インフラ革命」を宣明した。本気で生保マーケティングのすべてを変えるつもりなのだ。
 「大手生保は皆、同型の商品と販売網で同じ売り方をしてきた。ビジネスモデルが皆同じ産業なんて他にあるだろうか。戦後長く続いた護送船団行政で生保産業は甘やかされてきた。われわれは何も変わらなかった。謙虚に反省しなければならない。銀行窓販も郵政民営化も時代の流れだ。我々も時代の流れに乗って勝つ商売をやる。株式会社の経営者が株価を上げて企業価値を高めるように、相互会社の経営者はEV(エンベディッドバリュー)を高めるあらゆる工夫をして、企業価値を向上させていくことが努めだ」
 銀行窓販にも、社内事情やら腰の引けたエクスキューズは一切言わない。「銀行ネットワークは非常に強い。今年12月からの貯蓄商品追加、そして全面解禁へと銀行窓販の品揃えは拡大するが、銀行はFAによる相続活用などが有望で、手数料の高いものを売るという点では中小企業向けの逓増定期商品も最適だ。ぜひ積極的に採用していただきたい」と、早くもトップセールスの姿勢を示す。

★金融コングロマリット
保険と金融の融合で何が生まれる?

 東京海上日動の若手中核代理店集合体で、IT先進型プロ代理店ネットワーク「保険プラザ」代表を務める有我信行リスクコンサルティング且ミ長は、銀行窓販の全面解禁と郵政民営化時代に対応する保険と金融サービスミックスの必要性について強い意欲を示す。
 「長年、労働集約型産業の末端で、地域に根づいてドブ板型営業に勤しんできたプロ代理店には、十分なローコスト耐久力がある。メガバンクや郵政コングロマリットの隙間を埋めて、地域のお客様の多様な保険と金融を組み合わせたニーズに応えられると思う。住宅ローン補償保険の引受経験もあり、住宅ローンや小規模零細企業への融資取次サービスにチャレンジしたい。また、最近は富裕顧客から相続相談を受ける機会が多く、遺言書作成支援や遺言執行人の指名依頼を受けるケースもあり、ぜひ各種の信託サービスを手掛けたい」
  東京海上日動の中核代理店が扱う生損保トータルリスクマネジメント(TRM)プログラム「超保険」には、全社的なシステムの抜本改革に合わせて、近く年金商品が組み込まれる予定だ。「超保険」の担当者は「変額年金のほか、将来は各種のアセット機能を組み込み、コアのTRMサービス機能に、アセットマネジメント機能を付加した斬新なユニバーサル型のプログラムを構築したい」と、夢を馳せる。
  勝手に空想すれば、こんなイメージか――顧客の生活設計ニーズに合わせて、変額年金、国債、投資信託などで組成されるファンド部分から「超保険」の保険ゲートウェイ(生損保保険料決済用積立特約)へ資金スイングを可能とし、生活保障と資産運用とのバランスシート・マネジメントを保険会社―銀行間で一元管理する。そうすれば、顧客は銀行ATMやインターネットで自分の預金口座にお金を出し(積立金等の引き出し)入れ(TRM+ファンドコスト)するだけで、「負債の保障」と「資産運用」を実現できる。
 また、銀行と信託代理店を兼営する保険代理店で、証券外務員資格を持つ営業社員(使用人)は代理店計上などの事務作業から解放され、もっぱら顧客の生涯にわたるバランスシートマネジメントのコンサルティングを行うことができるようになる。
 このようなフィナンシュアランスサービス(金融・保険サービスミックス)が正夢になるには、@業態間代理代行のさらなる規制緩和と、A費用(ITコスト、人件費・教育費)対効果(収入手数料、クロスセルによる顧客単価アップ)、そしてB保険専業チャネルの顧客対応力の強化―の3つの条件がクリアされなければならない。
 仮に金融持株会社の下で銀行・生保・損保が経営統合すれば、フィナンシュアランスサービスは一元管理され、費用対効果の問題は持株会社の経営によってROEベースで差配・調整できるようになる。販売網のダブリの解消や低生産性チャネルの撤収も機動的に措置できる。
 小粒ながら日本で唯一、ソニーフィナンシャルグループは金融持株会社の下で、ソニー銀行・ソニー生命・ソニー損保を統合、独自のIT・対面コンサルティング融合型の金融・保険サービスミックス(クロスセル)モデルを構築している。
 顧客数は、対面ライフプランナー(LP)チャネルのソニー生命が150万人と最も多く、ソニー損保60万人、ソニー銀行40万人で、主にソニー生命顧客へのクロスセルがベースになっている。
 現在、ソニー生命のLPが、@優良顧客にソニー損保の自動車保険を併売(ソニー損保新契約の約10%)、Aソニー銀行の住宅ローンの取り次ぎ(ライフリスクマネジメント・コンサルの中に織り込む)を行い、ソニー銀行はBソニー損保の住宅ローン用火災保険、Cソニー生命の住宅ローン用団体信用生命保険、一時払年金商品をネット窓販(LPの紹介も可能)している。
 ソニーフィナンシャルホールディングスの徳中暉久社長は「グループのシナジーで、個人顧客を最適なサービスミックスで囲い込むビジネスモデル」と自負する。
否定的な経営者たち
第3の道としての生損保の融合

 金融庁は今年6月、金融コングロマリット監督指針を公表した。資産340兆円を抱える巨大な民営郵便貯金・保険コングロマリットに対抗して、国内金融・保険資本がかつての財閥型経営統合へと歩を進め、窓販を含むフィナンシュアランスサービスで各業態顧客を囲い込めば、躍進著しい外資系生保には強烈なアゲンストとなり、日本市場からの撤退も相次ぐだろう。しかし、世界的にも金融コングロマリットの有効な成功例が見られない中、国内保険会社の経営者はおおむね銀行との経営統合には否定的もしくは消極的だ。
  資本・営業両面で銀行―生損保間のつながりが深く、外形上いささかなりとも将来の経営統合の可能性がうかがえるのは、「みずほホールディングス―第一生命―損保ジャパン」グループと、「三井住友フィナンシャルグループ―住友生命・三井生命―三井住友海上」グループだ。
 第一生命の斎藤勝利社長は「よく銀行を頂上に置いた絵を描きたがるものだが、ホールセースの理屈では理解できても、主体のリテール市場で統合メリットはイメージできない」とし、損保ジャパンの平野浩志社長も「日本に金融コングロマリットがすぐできるとは思えない。みずほ―第一生命―損保ジャパンはすでに強者連合を形成しており、グループ連携のシナジーを高めて各業態顧客にフルラインサービスを提供していけばいい」と語る。 両社長とも、みずほとの経営統合は視野に入れていないものの、第一生命が子損保の引き取りを損保ジャパンに頼み込んだことからスタートした両社の包括提携も5年目を迎え、日本最大規模の保険グループとして両社間のチャネルミックスは着実に進んでいる。
 第一生命は損保ジャパンのプロ代理店3646店に代理店委託し、その新契約高(普通死亡保険金額)は3316億円、シェア2.4%を占める。損保ジャパンは中核代理店「エリアサポートプロ代理店」の資格要件に、第一生命への委託と新契約高1億円以上の挙績条件を組み込んでいる。一方、損保ジャパンの第一生命職員チャネルによる挙績(収入保険料)は約300億円でシェア2%を占め、両社販売網のクロスセル効果はうまくバランスしている。斎藤社長は「双方ウィン−ウィンの提携関係が成立しており、今後さらに代理店チャネルでの第1分野の拡大に注力したい」と述べ、両社間のチャネルミックスを強化する方針だ。このグループは実質的な協働経営のあり方から見て、銀行抜きの生損保経営統合のほうが遙かに現実的だ。
 すでに01年11月に銀行・生損保4社間で広範な業務提携を行っている「三井住友」グループでは、三井住友海上の植村裕之社長が「経営統合により金融・保険業態の資源と情報を共有し、ワンストップショッピングを進めることは利用者利益を増進する」と、利用者の視点での金融コングロマリットの組成利益を評価するが、「各業態でトップクラスのサービスを提供できる会社が統合した場合は」という、ただし書きが付く。 住友生命の横山進一社長は「現実論として金融コングロマリットは考えにくい。銀行と生保の経営が分かれているから、相互に資本協力できるメリットもある。現在、住友信託銀行と富裕層市場の開拓で提携しているが、今後は金融・保険業態間での業務の融合が進む」と見通す。
 三井生命の西村博社長も「銀行と生保・損保の損益構造が異なるため、経営統合は適さない。銀行とのサービス融合も限定的で、住宅ローンの取り次ぎや信託代理の緩和による遺言信託をFPサービスに付加する程度が現実的」と語る。07年中の上場を目指す三井生命が、中小企業リスクマネジメント+富裕層向けFPサービス特化モデルを構築できれば、将来的に銀行抜きの生保統合、もしくは生損保統合に向けて糊代合わせが進む可能性もある。
 すでに保険持株会社を形成するミレアホールディングス・東京海上日動の石原邦夫社長は、銀行との融合について、「リスクキャリアの損保が銀行と経営結合体を組成することは考えられない。ミレアのビジネスモデルは生損保をコアビジネスとする保険グループであり、銀行とは窓販、401k市場の共同開拓など、市場ニーズに応じて業態間で連携すればいい。ただ、銀行と保険サービスのワンストップショッピングを進めるには、保険会社側にも銀行・信託代理店を認めて、双方向での利便性向上を図るべきだ」と主張する。
 現行保険業法でも銀行業務のうち融資取次は認められており、大同生命がTKC税理士チャネルの顧問先企業開拓に協力する趣旨で、東京三菱銀行の事業者ローンの取り次ぎを、また、損保ではAIUが新銀行東京の融資取次を行っている。確かに、公平な法体系としては銀行・信託と保険間で双方向の代理代行ができるように規制緩和すべきだが、銀行・信託代理の微々たる手数料ではIT経費や人件費は到底賄えず、フィービジネスとして成立しない。
 したがって、際立って手数料の高い保険の販売代理(窓販)に対する銀行側のニーズが旺盛であるのに比べ、保険会社側の銀行業務や遺言信託などへの参入意欲は低い。現実の保険・銀行間ビジネスでは、フィナンシュアランスよりバンカシュアランス(窓販)が主体となる。
★バンカシュアランス
大手生保はそろって積極姿勢へ転換

 日本生命の岡本国衛社長は「株式型投信へのニーズの高まりなどから見て、変額年金など貯蓄型商品の窓販はさらに伸展するだろう。12月からの追加解禁種目も積極的に拡販したい」と語る。
 12月22日実施の窓販追加解禁(第3次解禁)種目は、第1分野:一時払養老保険、平準払養老保険(10年以下)、一時払終身保険、貯蓄性生存保険、第2分野:自動車・自賠責保険以外の個人向け保険、第3分野:積立傷害保険。これを売り手側(銀行)の最大関心事である手数料面で見ると、一時払終身保険の手数料は外資系生保の例で、円建商品で4.5%、ドル建商品で為替手数料含め6〜8.5%、一時払養老保険で4.5%程度。変額年金や外貨建年金と同程度の水準だが、保障の説明に手間がかかる。第2分野のメインとなる火災保険(住宅総合保険)は27%と高いものの、保険料単価が低い。
 これらに対し、すでに解禁されている変額年金はハートフォード生命など外資系3社で5%、国内生保でもT&Dフィナンシャル生命が4〜4.5%、三井生命の新商品も5%程度と、銀行が扱う貯蓄商品として説明に手間がかからず、他の金融商品より相対的に高い手数料が稼げるため、12月の追加解禁以降も引き続き年金商品が窓販の主体となろう。ちなみに、銀行が貯蓄商品と並んで売りやすいガン保険や医療保険の初年度手数料(契約条件などで異なる)は40〜50%もの高水準だ。将来の売り上げ規模と収益性から考えて、銀行窓販の全面解禁時、そして郵便局会社発足時以降は、主に外資系と損保間で第3分野商品をめぐる激しい窓販シェア争いが展開されるだろう。
 第一生命の新契約件数120万件のうち、変額年金や一時払養老保険などの貯蓄型商品は22%を占める。昨年夏には、利率変動型の一時払養老保険を発売し、1000億円の収入保険料を上げた。12月の追加解禁に手応えを感じている斉藤社長は「04年度は年金窓販が倍以上の進展でトップライン(収入保険料)の伸びに寄与した。遅くとも06年にはデフレ収束、その後、金利は強含みで推移するだろう。金利情勢が反転すれば変額年金や貯蓄型保険にさらに妙味が出る。追加解禁でトップラインをさらに伸ばしたい」と意欲的だ。
 明治安田生命は、07年度以降、職域市場基盤から大量退出する団塊世代の退職者を地域でつなぎ止めるため、地銀窓販や企業健保組合・ヘルスケアサービスを融合させて囲い込む独自の取り組みを進める。金子亮太郎社長は、「今後、急増する職域退職者を地銀窓販と、地域をキメ細かく回る営業職員との分担でグリップしていく方法もある」と語る。朝日生命は全面解禁時をメドに収益性の高い分野で新たに参入する方針。藤田譲社長は「みずほグループをはじめ、かねて相互顧客紹介で親密な地銀や税理士協会との交流も生かして、独自の銀行ネットワークを展開したい」と意気込む。
 また、三井生命は、三井住友銀行と共同開発した変額年金新商品を6月から投入しているが、当初の付加保険料を厚くして、外資系並みの優位な手数料水準を確保した。西村社長は「年金新商品は今年度収保2500億円をめざす。さらに年金顧客に新設のコールセンターからアウトバウンドを掛け、追加解禁時や全面解禁時に、新契約獲得へつなげる手法を早急に確立する」と抱負を語る。4月からは独自のEV手法による「戦略P」(年換算保険料ベースで20年先の将来収益を算出し、現在価値に置き直した数値)で業務運営を行っており、トップライン拡大と収益が齟齬を来さない形で窓販拡大に取り組む。
 営業職員チャネルと信金窓販チャネルを2本柱とする富国生命では、代理申請(引受幹事)278庫中、250庫がすでに稼働しており、追加解禁種目のシステム手当てを急いでいるが、早くも全面解禁後をにらんで長期的なパートナーシップを組む政策を展開している。秋山智史社長は「ホールセラーの拡充や信金側窓販担当者の研修に注力しているが、今後、各信金から人材を受け入れ(出向)、売り方からマネジメントまできっちりトレーニングして、信金バンカシュアランスのコア人材づくりに長期的に取り組む」と語る。
 国内生保で唯一の窓販生保であるT&Dフィナンシャル生命は、責準ルール変更に伴う認可遅れの影響で、変額年金新商品の発売が今年3月からとなったため、当分は年金ビジネスに集中する。T&Dホールディングスの宮戸直輝社長は「ホールセラー63名体制で新規取引銀行30行、将来は年金資産残高1兆円をめざす。親密先UFJ銀行の東京三菱銀行との統合は窓販チャネル拡大につながる」と期待をにじませる。
郵便局ネットワーク
生損保は新たなチャネルとして待望する

 竹中平蔵郵政民営化担当大臣は6月15日の通常国会で民主党議員の質問に答えて、「窓口ネットワーク会社(郵便局会社)は民間サービスに対し、排他的独占は行わない」旨言明し、民間銀行や保険会社へ郵便局会社ネットワークを開放する方針を示した。
 現在、郵便局はバイク自賠責の取り次ぎのみで、損保にとっては巨大な全国ネットの新規チャネルの出現が目前に迫っているのだ。地域に密着した郵便局ネットワークは、地域の企業型プロ代理店網のイメージと重なる。常に株式市場による「収益監視」にさらされる大手損保の経営者たちは、本音では千載一遇のビッグビジネスチャンスととらえている。
 ただ、今回の取材時点では民営化法案の成立が不透明で事業想定ができず、慎重論と積極論が相半ばした。仮に、郵政公社で存続する場合でも、郵便局のユニバーサルサービス体制を維持するには、民間保険の販売代理(立法措置が必要)によるフロー収益の拡大が不可欠となる。
 旧日本火災時代から数えて歴代社長中、営業センスbPの日本興亜損保の松澤建社長は「損保にとって郵政民営化はビジネスチャンスだ」と、キッパリ明言する。
 同社は時間がかかる自前のプロ代理店網の拡充と併行して、「時間を買う」あらゆる仕掛けを巧みに実行して、大手他損保との競合を凌いでいる。フリーランスの独立系大衆損保を標榜し、明治安田生命のお荷物だった自動車保険直販部門(そんぽ24損保)を引き取る一方で、その営業職員チャネルで一般種目収保260億円、旧来グループのT&D太陽生命でも56億円の計316億円を、生保会社とのチャネルミックスで稼ぎ出している。もし生保による併売分がなかったとしたら、04年度に大手損保で唯一、自動車保険の増収を達成した偉業は実現できなかった計算になる。
 アクサグループ以外には生保とのチャネルミックスに出遅れた、あいおい損保の児玉正之社長は捲土重来を期して、「すべて自前のチャネルで賄う時代ではない。郵便局ネットワークと中核(総轄)代理店との組み合わせを考えたい。過疎地のカバーは中核代理店網を活用してもらうなど、相互の資源を生かしていく。これにより将来の地域戦略は変貌する」と、自前のプロ募集機関とのチャネルミックスを期待している。
 他の大手損保3社は、新規販路のビジネスチャンスを歓迎しながらも、地域のディーラーやプロ代理店に配意して、郵政側の具体的な事業想定を見守る姿勢だ。
 東京海上日動の石原社長は「全国的な郵便局ネットワークを活用できるビジネスチャンスと、既存の地域プロチャネルがクラッシュするリスクの両面を検証する必要がある」とし、損保ジャパンの平野社長も「損保の販売網が拡大すれば、地域の消費者利便は向上する。損保には巨大な新規販売網が出現することになるが、銀行窓販以上の議論が必要だ。現段階では事業スケジュールが見えないので、アフターサービス面を含め採算性評価はできない」と慎重に見る。また、三井住友海上の植村社長は「地域で親しまれ、信頼されている郵便局は損保販売網として大きな効果が見込める。ただ、地域の既存チャネルとの競争条件をどう整合するか、慎重に対処すべきで、当初は自賠責など公共性の高い商品を中心に取り扱う方向が考えられる。民営郵便局会社は全社乗り合いではなく、商品・サービス体制の優れた引受損保会社を選択するだろう」と、民営化の成り行きを見守る構えだ。
  一方、生保にとっては、本音は「寝たきり状態」(従来の最高1300万円までの保障額制限のある簡保のまま)での棲み分けを維持したかったものが、巨大な民営コンペチターに生まれ変わるというのだからたまらない。民間の郵便保険会社にいつまでも保障制限を強いるのは難しい。共生に向けての条件闘争に主眼は移っている。
 日本生命の岡本社長は「経営が民営化しても月払い・無診査で民間保険ができないところをやるのが本旨。その前提に立って、地域の消費者のために、郵便保険ではできない分野やそれを超えるサービスについて、民間保険が郵便局ネットワークを活用できるようにすることが重要だ」として、棲み分けを前提に郵便保険と民保のサービスミックスの道を探る。
 大手生保の中で、郵便局チャネルの活用に最も前向きなのは住友生命の横山社長で、「明らかに郵便局会社のネットワークは活用できる。我々にとっても乗り合ってビジネスチャンスとなるような民営化であってほしい」と、まるで株式会社の経営者のごとく、スッキリ語る。
 明治安田生命の金子社長も「保有7500万件もの簡保の顧客基盤から、民間保険が排除されないようにすべきだ。地域での棲み分けや新契約・保全両面でのネットワーク活用の可能性を探っていく」と、しなやかな姿勢を見せる。
 T&Dホールディングスの宮戸社長は、上場企業らしく株主利益を追求するスタンスで、「破綻リスクを取らない民営化はありえないが、郵便局資源には、いろいろなビジネスを仕掛けていく。我々の顧客は郵便局に保険料引き去り口座を置いている。民間ビジネスになれば郵便局も儲け話に乗ってくる。商品供給のみならず、彼らへの教育ビジネスなど、いくらでもビジネスチャンスはある。T&D3社のビジネスモデルと共生できる対郵政戦略を積極的に研究していく」と語る。
 また、条件付きながら、富国生命の秋山社長も「パートナーシップを組んでいる信金チャネルとバッティングしなければという条件は付くが、生保チャネルとして郵便局の全国ネットワークを使わない手はない」と本音を明かす。
 ただ、大手生保の中で唯一、10年ぶりに営業職員の陣容が反転増加(4月)に転じ、自前の専業チャネルに自信を持つ第一生命の斎藤社長は「340兆円にも達する郵政資産を論議の外に置いたまま、民営化後の窓口活用を語るのはどうか」と頑な構えを見せる。
生損保専業チャネル
生き残るために必要な施策は何か?

 銀行窓販や郵便局チャネルで容易に売れるリスク顕在型の第3分野商品や自動車保険・火災保険、そして貯蓄手段である年金、貯蓄型保険などの生損保フルラインサービスが解禁された場合、果たして生損保の専業チャネルは生き残れるだろうか。
 顧客対応力の面でザックリとくくれば、生保営業職員でコンサルが必要な死亡保険の持続的な販売が見込めるのは在籍10年以上の幹部職員層、また、損保専業代理店で生損保トータルリスクマネジメントの実践による顧客囲い込みが見込めるのは一般種目収保1億円以上の層であり、それ以下の層の生き残りは困難になるだろう。
 生産性の高い中核層以外は自前主義を捨て、他業態のチャネル資源を活用せざるをえない。銀行や郵便局という強大なチャネルに販売を委ねるということは、価格や手数料を含め、付加率の自前主義からも決別せざるをえない。また、第3分野の通販部門の立ち上げや通販会社の買収を想定している保険会社も複数社ある。
 本来、人口減少(市場縮小)の時代は、大量の保有顧客を抱える大手生保が比較優位な立場に立つ。大量の既存客を維持し、その周囲の家庭内白地や地域・職域を丹念に開拓するだけで圧倒的に勝てるポジションにいるにもかかわらず、現状はその単純な営業行動すらおぼつかない。保険を獲るより人の採用のほうがはるかに困難な時代にもかかわらず、目先の採用に傾斜してきた結果、どうなったか。
 大手生保の04年度の採用後25月目在籍率は、最も高い日本生命が22・4%であるほかは、いずれも20%を切っている。つまり、新人職員の80%が2年以内に脱落したということだ。もっと分かりやすく言えば、2年前に80%もの営業適性のない新人を陣容の員数合わせのためだけに採用したという、膨大なコストの無駄遣いを証明する数値なのである(実は筆者がウオッチを始めた35年前も脱落率は同じ80%だった)。
 残るあてのない採用にコストの無駄遣いをするのではなく、育成にコストを投資すべきであり、陣容が縮小したら生産性を上げることだ。そのための基本動作を習熟させればいい。月新規2件台の低生産性の現場に適性のない新人を入れたらどうなるかは自明のことだ。
  「振り返れば特にこの10年、職員の育成にしっかり手を掛けてこなかった。失われた10年が中堅抜きの職員構造に反映されている。外資系生保の成功モデルは謙虚に取り入れる」と、住友生命の横山社長は率直に反省する。
 住友生命は4月から米国LIMRAと提携し、営業適性検査「キャリアプロファイル」を導入。また、「総合職支部長路線は失敗だった」として、原点回帰である定地型(営業職員)支部長の拡充に転換する。横山社長は「当初から残る可能性のある人を入れる。現場でセールス経験のある人が適性のある人を育成し、機関経営を行う。当たり前のことをやるだけ」と言う。
 瞬間風速ながら年度始に陣容反転した第一生命は営業職員機関長が約8割を占める。また、実働義務のない営業職員支部長補佐を2000人配置して、現場での育成体制を固めている。制度面では、保有200件以上の職員を一律営業主任として身分保証している。「言わば、保有ベースで減価償却が終わった収益貢献度の大きいベテラン職員の業務廃止を止めることを重視した」(堀尾則光執行役員保有業務部長)。実績のあるベテランを大切したら、陣容反転したというわけだ。
 一方、大手損保では、98年の価格自由化以降、損保最大種目の自動車保険が緩やかな収益縮小基調をたどる中で(図3)、従来の「自動車が飯のタネ」型専業代理店の改革と生損保併売力の向上が急務となっている。合併や協業によって大型・企業型プロ代理店を創出するための「中核プロ代理店制度」は、東京海上日動、損保ジャパン、あいおい損保に加え、三井住友海上(代理店格付制度)や日本興亜損保(中核モデル代理店・200店余)でも実施している。中でも東京海上日動では、同社のパーソナルフラッグ商品「超保険」の供給を含むマーケティング施策全体で、中核代理店の育成をバックアップしている点が目立つ。将来的に中核代理店は社員出向型代理店を含め、製販分離の方向で保険ディーラー化していくだろう。損保の代理店は独立代理商であり、やがて自ら金融サービスを取り込んでいくだろう。自由化は強いプロを育てるのだ。

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