●銀行の保険販売と保険会社の取り組みについて(2002年7月17日)
【金融機関代理店】
★日本のバンカシュアランスには2つの形態(経路)がある。したがって窓販の議論や実際の取引には常に表と裏があり、両面で捉えなければ実態が把握できない。銀行関連の保険流通形態の1つは古くから存在する金融機関代理店(金融機関本体とはヒト・モノ・カネ・ハコ・社名を分離した別働体代理店)による保険販売で、金融機関本体関連の顧客紹介(書面または口頭で顧客からの同意を取り付ける必要がある)により、主にアウターマーケットに生損保商品を販売している。
ちなみに日本社最古の東京海上の第1期営業報告書によれば、同社創立の1879年の8月に同社の第1号代理店として函館代理店に委託した旨の記載があるが、これは第百十三銀行の代理店であり、すなわち日本の損保代理店のルーツは金融機関代理店なのである。銀行の荷為替業務関連の貨物保険を取り扱っていたもので、現在の類別で言えば本体代理=窓販類似の形態だったように思われる。
興味深いのは、銀行による保険販売をめぐる議論はなんと百年以上も変わっていないようで、上記の金融機関代理店が誕生して20年後の1899年に大蔵省が銀行の関連会社規制を実施、銀行への保険代理店委託が不許可となった史実がある。
<別働体代理店>
☆最近の金融機関代理店をめぐる規制では、1975年に大蔵省が5条件の「適正化通達」を発出。これにより、金融機関代理店は適正化措置済みの法人企業代理店として法規制上認知されたことになる。さらに、98年12月:公認会計士協会監査実務指針の公表、99年3月:金融監督庁事務ガイドラインの公表を受けて、銀行子会社・関連会社の見直しが行われ、関連会社に該当する場合、保険募集は不可となった。本規制には3年間の経過措置期間が措置され、02年3月末までに再適正化措置を講ずることとされた。したがって、現在、これをクリアした金融機関代理店は銀行の関連会社にあたらず、通常の法人代理店(独立代理店)とみなされることになる。ルールを定め措置した以上、長く続いた「金融機関代理店=不鮮明な代理店」論議には終止符を打たねばならない。すでに金融機関代理店には生損保各社が乗り合っており、銀行インナーマーケットの行員に対する生保の団体構成員規制該当契約を除いて、アウターマーケットを主体とした生損保商品の販売が定着している。
★都銀から信金・信組までおおむね上記の別働体代理店を存置している。その体制・募集従事者数は精粗まちまちだが、その他の損保販売チャネルに比べて、行員OBのマネジメント層、プロパー職員含めて総じて資質も高い。アメリカでは最近の規制緩和(99年:金融サービス改革法など)により銀行による独立代理店の買収が進んでいるが、日本ではそもそも銀行系の独立代理店が古くから活躍しているわけで、日本における窓販論議とは、実質的には窓販=本体代理と既存の別働体代理店との業務分担論でしかない。いまさらながらの「窓販解禁」的な論議なぞ法律論としては実に陳腐な話といえる。要するに「窓販」取扱商品の拡大・調整議論とは、銀行ブランドを前面に出し顧客に強調して銀行本体の資源をフル活用して販売できる商品を選別するだけの議論でしかないのだ。
☆保険会社側の販路として見ると、金融機関代理店は従来から、基本的に主要損保全社乗合代理店の形での共同保険ないしは、個別会社商品のいわゆる「つかみどり」による運営を行ってきた。この大型損保乗合代理店に対し、74年のAFLACをはじめ国内販売網の手薄な外資系(カタカナ)生保会社が進出と同時ないしは進出以降順次乗合を進め、当該販路において第3分野でAFLACが、中小企業向け逓増定期保険など死亡保険でINGが圧倒的なシェアを保有するに至った。96年の子会社方式による生損保相互参入以降は東京海上あんしん生命など損保系生保会社が順次乗合を進め、顕著にシェアを拡大している。一方、主体の営業職員チャネルへの影響を懸念して生保窓販=本体代理反対の立場をとる国内生保は必然的に論理矛盾をきたすことから、この「裏」の販路への乗合に出遅れ、本体代理として年金限定解禁・構成員契約以外オールマイティな取扱を行う別働体との棲み分けの方向が見えてきた99年以降、日本生命、第一生命など大手生保が順次乗合を開始するに至っている。
★金融機関別働体代理店への乗合状況
〈損保会社〉都銀・地銀・第2地銀・信金等の別働体代理店では、従来は損保16社が乗り合い、共同保険や「つかみどり」の形で販売。損保会社の合併・統合により必然的に委託数は減少している(大手集中)。金融機関代理店の収保構成はざっくり住宅ローン関連火災保険50%、自動車保険20%、積立商品10%、その他(新種・傷害)20%といったところ。 商品・料率の自由化、さらなる保険会社の合併・統合、第一火災・大成火災の破綻、窓販定着を契機に共同保険を廃止する傾向が強まるだろう。本体窓販との業務分担、顧客データベース・事務処理システムのグループ化などで代理店による取引保険会社の選別が進む。
01年4月の銀行本体による損保窓販開始に伴い、当該銀行の別働体代理店の手数料収入の主体をなしている住宅ローン関連火災保険が減収する傾向にあり、別働体代理店は生き残りをかけて独自ルート開拓による多種目販売、生保販売などに注力しつつあり、窓販解禁が契機に金融機関代理店のプロフェッショナルが進んでいる。こうした取り組みにより本体窓販のバックオフィス機能も備えつつある。
〈生保会社〉別働体への乗り合いはがん保険でAFLACが74年に日本市場参入と同時に第一勧銀系の別働体に代理店委託したのが最も早く、以下、96年の子会社方式による生損保相互参入以降、オリックス、ING、INAひまわりなどカタカナ系、東京海上、三井海上、住友海上など損保系生保子会社が乗り合いを進めた。
国内生保は窓販全面解禁につながる懸念から乗り合いが遅れていたが、外資系、損保系生保が別働体代理店による第3分野・中小企業事業保険開拓などの実績を重視、開拓ポテンシャルの大きい第3分野・中小企業事業保険市場用チャネルに位置付け、リテール主体の営業職員チャネルとの棲み分けが可能との判断から、99年以降に既存損保チャネルへの乗り合いを所管する受け皿部署をつくり、乗合を開始した。日本生命は当初、相対的に高い手数料を武器にして乗合攻勢をかけた。
新契約普通S(死亡保障)ベースのシェアは、Sの大きい逓増定期を扱う生保14〜5社の比較では先行会社のINGが42%でダントツ、以下、オリックス23%、ひまわり15%、アクサ13%などで、やはり先行した外資系がのシェアが最も大きいと思われる。各社が競う逓増定期保険は保険期間後半の逓増率が高いオーソドックスなINGの商品に対抗して、日本生命、東京海上あんしん生命などが前半の逓増率が高い新商品を投入、早期解約のメリットを訴求している。
第3分野はがん保険のAFLACがダントツ、残りを損保系生保、国内生保、その他外資系生保が争っている格好だ。AFLACの流通基盤に代理代行先の第一生命が死亡保険で相乗りできれば一気にSシェア拡大もあるが、いまのところ両社間では棲み分けが守られている。01年夏時点で別働体代理店における国内生保の主要各社別新契約普通Sベースのシェアは概数で日生25%(委託数90台後半),第一10%(50台後半),住生15%(50),明治13%(40台後半),朝日5%(40),安田25%(50),三井5%(10)程度。
☆多くの別働体代理店では収入主体をなす住宅ローン火災保険が本体窓販により大幅減収となっていることから、第3分野・生保商品への販売マインドが高まっているものの、販売体制が脆弱である。本体窓販の代申生保会社が別働体を含めた一体的取引を推進する中で、別働体と営業職員との手数料分担で銀行顧客を囲い込む可能性もある。
【窓口販売】(銀行本体による販売代理)
☆96年:政府・2001年金融ビッグバン主唱、97年:保険審議会答申、98年:規制緩和3カ年計画閣議決定、2000年:改正保険業法施行、金融庁窓販解禁種目見解公表、2001年3月:内閣府令公布、規制緩和3カ年計画閣議決定を経て、4月:保険窓販解禁。銀行・生保・損保の二股三股の業界利害が表と裏で錯綜し、消費者・市場原理不在の調整論議の結果、損保はキャリヤ規制(銀行傘下保険会社=子保険会社、兄弟保険会社の商品に取扱限定)なしで、住宅ローン関連の長期火災保険(専用住宅)、海外旅行傷害保険、CLTD(債権返済支援保険)の3種目、生保は現在の銀行を取り巻く情勢下では実現するはずもないキャリヤ規制付の住宅ローン関連の信用生命保険のみの解禁となった。契約者が銀行であって、現行ルール上手数料不払いとなる団体信用生命保険を売るために保険子会社をつくる銀行があるはずもない。元をたどればほとんど旧保険審議会答申通りの保険窓販となったわけで、事実上生保の窓販解禁は先延ばしとなった。
★上記の通り、01年4月開始の窓販の第1段階は、ほとんど銀行の本業サービス付随業務と言える損保の1部商品のみ解禁となった。これまでの損保の窓販状況をみると、都銀・地銀・第2地銀・信金等における本体窓販の委託保険会社数は大手を中心に約4〜5社に選別されており、中小損保がはじかれている。信金の場合は全信協が東京海上、安田火災、三井住友海上の3社+共栄火災の中から各信金が選別する方針を決めている。現在の窓販主力商品の火災保険で見ると、都銀・地銀・第2地銀で共同保険を採用しているのは約3割で、7割が廃止している。さらに委託保険会社4〜5社のうち、実際に販売しているのは2〜3社の商品に絞り込んでいる。売れるブランドの保険会社の選別が顕著である。ちなみに、頭取を除く全行員が損保募集人の試験を受験したと言われているほど、本業の収益が縮小する現状において、保険窓販に対する銀行の期待は大きい。
☆01年12月に総合規制改革会議(旧規制改革委員会)が「保険窓販全面解禁」を予定通り指摘した。続いて、金融審議会金融分科会第二部会が02年3月19日、第10回会合を開き、銀行等における保険商品の窓口販売について審議し、10月1日からキャリヤ規制なしでの個人年金保険(定額・変額)など窓販商品の拡大への見解をまとめた。
<金融分科会第二部会の見解>
1 .銀行等における保険商品の窓口販売は、次の商品を対象として、平成13年4月1日から開始されたところ。
○住宅ローン関連の長期火災保険・債務返済支援保険・信用生命保険、○
海外旅行傷害保険
(注 )住宅ローン関連の信用生命保険は、窓口販売を行う銀行等の子会社・兄弟会社である保険会社の商品に限定されている。
上記解禁の際、対象保険商品の拡大等については、実施状況をみながら更に検討を行い、平成13年度中に改めて結論を得ることとされていた。
2 .これを受け、今般、利用者利便の向上、販売チャネル間の競争の促進、保険契約者保護等の観点から検討を行った結果、以下のとおり見直すこととし、今後、パブリック・コメント等の手続を経て、所要の規定の整備を行うこととする。
(1) 次の保険商品を窓口販売の対象として新たに加える。
○ 個人年金保険(定額、変額)、財形保険、年金払積立傷害保険、財形傷害保険
(2) 現在、銀行等が窓口販売できる住宅ローン関連の長期火災保険・債務返済支援保険・信用生命保険については、対象物件が専用住宅であるものに限られているが、これに店舗併用住宅を加える。
(3) 現在、住宅ローン関連の信用生命保険は、窓口販売を行う銀行等の子会社・兄弟会社である保険会社の商品に限定されているが、この規制を撤廃する。
3 .今回の規制緩和に併せて、以下のような弊害防止措置等の充実を図ることとする。
○ 銀行等が保険商品を販売する際に、保険商品を購入しないことが他の取引に影響を及ぼさないことについて、顧客への説明がなされるための措置を講じる。
○ 銀行等が変額個人年金保険を販売する際に、融資を受けて保険料に充てた場合、当該商品が元本割れすると、借入金が残ることについて、顧客への説明がなされるための措置を講じる。
○ 銀行等が住宅ローン関連の信用生命保険を販売する際に、住宅ローンの返済に困ったときの相談窓口(当該銀行等の内部及び外部の相談窓口)について、顧客への説明がなされるための措置を講じる。
○ 銀行等の内部でマニュアルを策定して研修を実施するとともに、内部検査を行うなど適切な募集体制を整えることを求める。
○ 銀行等による保険商品の窓口販売の際に発生したトラブルについて、保険業界に設けられた紛争処理の場で解決を図る場合には、募集を行った銀行等にもその場への参加が義務付けられるようにする。
4 .上記2.及び3.の措置を平成14年10月1日から実施する。
5 .なお、対象商品の更なる拡大については、平成14年10月1日以降の実施状況をみながら、引き続き検討を行い、平成15年度中に結論を得ることとする。
★02年10月の生保窓販開始までの主な段取りは、5月末頃までに生保各社が各金融機関に対して研修・登録業務等を行う幹事会社である代理申請会社(代申会社)の座を取り合い、確定。6月21日に金融庁が内閣府令案(パブリックコメント)を公表、7月5日に意見集約後、8月までには内閣府令(10月1日施行)が決まる。銀行側は、代申会社のアテンドにより7月4日以降11月中旬まで計10回行われる生保協会特別試験(窓販行員用に一般課程・専門課程・変額保険販売資格制度の各資格試験の内容をまとめた統合試験)に、約30万人の行員が受験、生保募集人登録するものとみられる。銀行により、当面の窓販要員のみ受験するところと、今後の体制拡充を見越して幅広く資格取得を目指すところに分かれるが、後者のほうが多いようにみられる。
<保険業法施行規則及び銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令等の概要>
T 趣旨:銀行等における保険商品の窓口販売は、平成9年の保険審議会報告、平成12年の保険業法改正を受けて、平成13年4月から実施されている。
その後の銀行等における保険商品の窓口販売の実施状況、規制改革推進3か年計画等を踏まえ検討を行った結果、弊害防止措置の充実を図りつつ、窓口販売の対象商品を拡大することとし、保険業法施行規則の改正につき、所要の措置を講じることとする。
また、これと併せて、変額保険の契約者に対する情報提供の充実、銀行等の証券子会社等における保険募集に係る業務の見直し及び保険会社等の子会社が行う確定給付企業年金等の制度管理業務に係る規制緩和を行うこととし、保険業法施行規則及び銀行法施行規則等の改正につき、所要の措置を講じることとする。
U 内容
1 .銀行等における保険商品の窓口販売について
(1) 銀行等が保険募集できる保険商品の追加について
@銀行等が生命保険募集人として保険募集できる保険商品について、次の保険商品を加える。(保険業法施行規則第211条第1項第1号関連)
○個人年金保険(定額、変額)
○財形保険
A銀行等が損害保険代理店として保険募集できる保険商品について、次の保険商品を加える。(保険業法施行規則第211条の2第1項第1号関連)
○年金払積立傷害保険
○財形傷害保険
B銀行等が保険仲立人として保険募集できる保険商品について、次の保険商品を加える。(保険業法施行規則第211条の3第1項第1号関連)
○個人年金保険(定額、変額)
○財形保険
○年金払積立傷害保険
○財形傷害保険
(2) 既に解禁されている保険商品に対する規制の緩和について(保険業法施行規則第211条第1項第1号等関連)
@現在、住宅ローン関連の信用生命保険は、保険商品の販売を行う銀行等の子会社・兄弟会社である保険会社の商品に限定されているが、この規制を撤廃する。
A住宅ローン関連の長期火災保険・債務返済支援保険・信用生命保険については、対象物件が専用住宅であるものに限られているが、これにいわゆる店舗併用住宅(全体の床面積のうち、専ら事業の用に供されている部分の床面積が50%以下である住宅)を加える。(3)上記の規制緩和と併せて充実を図る弊害防止措置について(保険業法施行規則第234条関連)
@銀行等が保険商品を販売する際に、保険商品を購入しないことが他の取引に影響を及ぼさないことについて、顧客に対し書面により説明することを義務付ける。
A銀行等が変額個人年金保険を販売する際に、融資を受けて保険料に充てた場合、当該商品が元本割れすると債務の返済が困難になる可能性があることについて、保険契約者に対し書面により説明することを義務付ける。
B銀行等が住宅ローン関連の信用生命保険を販売する際に、住宅ローンの返済に困ったときの相談窓口(当該銀行等の内部及び外部の相談窓口)について、保険契約者に対し書面により説明することを義務付ける。
2.変額保険に関する情報提供の充実(保険業法施行規則第53条関連)
今般、前述の通り、銀行等の窓口販売の対象商品として変額個人年金保険を追加することとしている。この変額個人年金保険の販売チャネルの拡大にあわせて、変額保険全般について情報提供の一層の充実を図ることとする。具体的には、変額保険の保険募集をする際に、投資信託における目論見書相当の事項(投資方針、投資対象、投資リスク等)について記載した書面を、保険契約者へ交付することを義務付ける。また、保険期間中において、契約している変額保険の運用状況について、年1回、保険契約者へ通知することを義務付ける。
3.銀行等の証券子会社等における保険募集に関する業務の見直し(銀行法施行規則第17条の3第2項第3号の4、保険業法施行規則第234条第1項第10号等関連)
現在、銀行等の子会社である証券専門会社及び金融関連業務を専ら営む子会社の保険募集については、銀行等が子会社として保険会社を有している場合に限り認められているが、今般、保険子会社を有しているか否かにかかわらず、銀行等の証券子会社等において保険募集(銀行等が営める保険募集の範囲に限る。)に関する業務を営むことができることとする。これと併せて、弊害防止措置として、親銀行の取引上の影響力を不当に利用した保険募集行為を禁じる措置を講じることとする。
4.保険会社等の子会社が行う確定給付企業年金等の制度管理業務に係る規制緩和(保険業法施行規則第56条の2第2項等関連)
確定給付企業年金等に係る制度管理業務の効率的遂行を推進する観点から、保険会社の金融関連業務を専ら営む子会社の業務範囲に同業務を新たに規定することにより、同子会社が保険会社以外からも同業務の受託をできることとする。また、銀行等の金融関連業務を専ら営む子会社についても、保険会社と同様の措置を講じることとする。
V施行期日:1、2及び3については平成14年10月1日から施行し、4については、公布日より施行する。
☆別働体代理店、本体窓販それぞれ生保会社と損保会社が別々に代申会社となる。損保については東京海上を筆頭に大手損保が同じ銀行の別働体・本体窓販双方の代申会社となるケースが多い。生保は過去の乗合の経緯から別働体はAFLACなど外資系が多く、新たにスタートする本体窓販についてはほとんどの銀行の有力株主である国内大手生保会社が代申会社になっている。保険商品の窓販は、@地域の拠点数が多く、A地域の顧客の財布(貯金)を預かり、渉外行員などの顧客グリップが強い地域金融機関(地銀・第2地銀、信金など)が主役となる。都銀や大手地銀の窓販はカウンターセールスやPBサービスが主体となろう。窓販主力の地銀の代申数では、有力株主の地位を生かした日本生命(35〜36行)と東京三菱系地銀の地盤と有力株主の地位を生かした明治生命(32行)が双璧をなし、かねて銀行職域募集でなじみを持つ安田生命(17行)、関西に地盤を持つ住友生命(12〜15行)の4社で大半を占める。04年に合併する明治・安田連合が事前の予測どおりトップシェア(地銀代申49行)を占め、所期の合併成果を確実にしている。少数行ながら別働体との一本化でAFLAC、T&Dフィナンシャル生命、東京海上あんしん生命、三井住友海上きらめき生命といった新興勢力を代申に選定した銀行もある。
信金は全信協の窓販指定4社(富国生命、日本生命、明治生命、安田生命)の中から個別に選定する形で、もともと信金を募集基盤にしている富国生命が大半の代申を獲得した。 今後、銀行チャネルの生産性が高まれば本体窓販の代申会社がオールマイティに生保商品を扱える別働体の生保代申も獲得し、銀行への一体的な囲い込みに攻勢をかける可能性もある。
★代申以外の乗合については、国内生保は日本、第一、明治、安田、住友、富国、T&Dフィナンシャル、ソニー、損保系生保は東京海上あんしん、損保ジャパンひまわり、三井住友海上きらめき、あいおい、日本興亜、共栄火災しんらい、外資系はハートフォード、AFLAC、アリコジャパン、ING、アクサなど、当初は広範にわたるが、ブランド力(知名度)、格付、商品魅力、手数料(相対)、販売・システム支援面などで窓販開始後、国内生保4〜5社、損保系2〜3社、外資系3〜4社前後へと順次絞られていく可能性が高い。
☆保険商品の窓販にかかる規制緩和については、売り手の銀行側は消費者利便向上と手数料収入拡大の見地から全面解禁を要請してきたが、行政当局は「銀行本来業務との親和性(銀行経営にとってはシナジー効果)」を前提に01年4月住宅ローン火災保険など、02年10月年金保険・キャリア規制なしでの信用生命保険などに限定し、段階的に窓販対象商品の拡大を進めてきている。最大のポイントは銀行による保険窓販で何が売れるか、また何を売りたいのかを正確に把握することである。銀行にとってシナジー効果のない保険商品ないしは銀行が不利益を被る懸念のある保険商品は、保険業界との利害関係にかかわらず銀行は扱わないから、別段大騒ぎする必要はない。
まず、住宅ローン関連の火災保険や信用生命保険はほとんど銀行の顧客サービスの一環に位置付けられる。年金の窓販についても、顧客の財布を預かる銀行として、銀行ブランドで終身年金(保険との分野調整により金融型年金商品にはない)を含む定額年金・変額年金の2タイプのニーズに対応した年金保険を販売することで、顧客の資産管理・運用に関して初めて一生涯のポートフォリオを組むことが可能となる。いずれも銀行の顧客満足に大きな成果が期待できる。
★とりわけ変額年金は、投信窓販で銀行ブランドの効果を実証した銀行としては投信商品の年金版バリエーションとして、他の投信商品とともに窓販運用メニューを飾ることができ、確実な算盤勘定が可能である。年金商品の定義・範囲については施行規則が公布されていない現在、投信+保険のユニットリンクやイギリスの公的年金代替のステークホルダー年金のような資産形成型商品まで認可される可能性があるのどうかは断定できないが、消費者の選択肢は広いほうが良い。
アメリカでは最近の株式相場の変動もあり、定額年金の窓販が大半を占めるが、日本では超低金利下での予定利率に低さからして、当面は定額年金の商品魅力が訴求しにくい情勢が続くだろうから、変額年金に対する銀行側の販売意欲が高いと思われる。また、銀行にとってはペイオフ対策としての年金商品の活用という「喫緊の事情」も、当面の年金窓販のあり方に影響を与えている。
☆金融機関によって年金商品の品揃えはと販売ウェートの置き方は異なるが、基本的に顧客ニーズに対応して一時払い変額・平準払い定額商品の双方のメニューを揃えていくだろう。大括りに類別するなら、比較的顧客とまとまったお金の取引を行い、投信窓販の実績のある都銀や大手地銀の場合は一時払い変額商品主体、その他の地域金融機関の場合は小口のお金の取引が多くなるにつれ平準払いの定額商品のウェートが増すだろう。
格付けが低く顧客側のペイオフ対策で資金流出・顧客離れの懸念のある地域金融機関では、格付けの高い生保会社の年金商品に1000万円を超える部分の資金移動を誘導することで、手数料を稼ぎながら顧客を引き続きグリップすることが可能となるという「喫緊の事情」もある。10月の開始時点ではフルラインナップでスタートする銀行、一時払い変額商品から始めて順次品揃えしていく銀行と、それぞれ販売政策が異なるだろうが、銀行業界の直近上位指向の体質からして、変額商品はスタートから扱う銀行が多いものとみられる。
★年金窓販の手数料については相対で設定されるが、米国変額大手のハートフォード生命が日興証券との窓販提携で一時払い変額で最高4%(ロット別手数料)の高い手数料を出したものと言われており、銀行間でこうした手数料情報の交換が広く行われているため、生保会社は苦慮している。年金商品のローディング(付加率)は薄く数%程度(例えば確定年金一時払い・50歳加入10年据置60歳年金開始のケースで3%程度)のため、乗合競合で手数料引き上げ競争になると、収益が望めないどころか赤字を強いられる懸念すらある。健全な窓販を定着させるため行政主導で一定のキャップをはめる必要もあろう。 銀行窓販は生保会社の低ローディング商品の有効な販売チャネルになるが、価格(ローディング)・手数料の両面で販売主体の金融機関が強い立場に立つことから、生保会社にとっては収益性の低いチャネルとなる可能性が高い。したがって、高ローディングの生命保険が扱える別働体との一体取引が実現することが生保会社にとって重要な課題となる。
☆生保会社側の事情から、窓販用に品卸する商品も異なる。国内生保は主力の営業職員チャネルとのバッティングを避けるため、原則、変額商品は窓販、定額商品は営業職員チャネルと、それぞれ棲み分けさせたい意向。損保系生保はシステム負担のかさむ変額商品への参入は困難で、当面定額商品を卸す意向。外資系は変額の運用ノウハウやローコストオペレーションに長じており、外貨建て、予定利率変動型と多様な商品提供が可能で、将来ブランドが認知されれば外資系が窓販市場で国内生保にとって最大のライバルとなろう。
★金融審議会で引き続き窓販拡大につき議論される予定で、損保系・外資系が注目しているのは第3分野商品の窓販解禁の方向性である。彼らはすでに多様な代理店チャネルを活用し、国内生保のようなチャネル間の相克もない。販売主体の金融機関側は第3分野は消費者ニーズが高いが、保障を売るものであり、年金と異なり本業とのシナジー効果がどれだけあるか各銀行によって判断が分かれている。がん保険や医療保険などは銀行の女性顧客の開拓・囲い込みに有効で、かつカウンターセールスになじむことから、取扱ニーズは高い。
その他、特殊養老保険タイプなどの小口の貯蓄型生保商品、損保積立商品も消費者のニーズに合致するだろう。このように消費者ニーズに合致し、かつ銀行本体の資源を投入しても見合うだけのシナジー効果があり、収入手数料が見込め、そして窓口での簡易な取扱に適したものを銀行はさらに販売したいと考えている。
生保死亡保険については、FP行員によるプライベートバンキングサービス(窓販)ないしは別働体代理店のFP社員によるブース販売の一環として、富裕層への長期平準定期や逓増定期を活用した相続税対策・事業承継・役員退職金プランなどは一定の市場が見込めるだろう。ただし、死亡保険のコンサルティングセールスに習熟するには相当な時間を要し、かつ、そうした販売力のあるプロを大量に育成するのは至難のことであり、欧米でもあまり成功事例は聞かない。規制緩和以前に、銀行が既存生保会社を傘下に収めるケース以外は実務的にも現実論にならないだろう。
☆生損保両協会は専業チャネルに配慮して「今回が最大限の範囲」とする協会長コメントを発表している。しかし、内実のところは上記のように、国内生保、損保系、外資系あるいはそれぞれの保険会社ごとに期待の寄せ方は異なっている。国内大手生保にしても変額窓販で収益がでなくても別働体での地盤が拡大すれば成果が見込めるとみているし、金融法人営業体制の整備拡充を急いでいる。
★保険会社が懸念しているのは拡大する生存保障市場において銀行が価格を含むマーケティングの主導権を握ることで、とりわけ付加率が相対の「卸値」化する可能性が高いこととだ。また、今後の金融・保険のアライアンスが進む中で銀行の子・兄弟保険会社が出現する可能性があることである。逆ざやで体力の落ちた生保会社の救済策として株転→銀行の子・兄弟保険会社化するケースも考えられ、ここでまた保険業界内の利害論議がかしましくなるだろう。
いずれにしても業界間利害の事情を排除すれば、消費者利便に役立たないものや消費者が望まないもの、ないしは銀行が扱いたくないものは売れないし売らないから、法制上は全面解禁して市場原理にまかせたとしても窓販が無制限に拡大することはありえない。西欧市場と異なり、バンカシュアランスに関して特段の税制優遇もないため、窓販チャネルが資産形成型低ローディング商品の有効な流通経路になることはあっても、他の保険販売チャネルを脅かすような存在になることは考えにくい。
☆別働体との棲み分けについては、どのみちコンサルが必要な死亡保険や事故処理でクレームがつきものの任意自動車保険などを扱うためにすでに別働体代理店があるわけで、いずれにしても窓販=本体代理と別働体代理店との業務分担の線引きを役所が細かく線引きする必要もない。
★営業職員の現行給与体系を変えない限り、もし、わずか数%のローディングの年金商品を単品で営業職員に拡販させたら、とても収支は合わない。生保会社の収益上、年金商品は付加率の厚い死亡保険に重ね売りするか、ユニバーサル型商品における多種目付保の選択肢として位置づけるのが妥当であって、これでは年金商品の普及が進むわけもない。保険会社の収益の観点に立てば、予定利率が低いときに年金のような貯蓄型保険をローコストチャネルで売ることができれば将来、金利水準が回復したときに利差益が見込めることになる。
☆国内生保会社は現行の営業職員モノチャネルからローディング別のマルチチャネルに早く移行しなければ、利差損を埋める費差益の源泉はもっぱら内勤職員のリストラしか選択肢がなくなることになる。おおむね50歳代の僅か2割の優績者が売り上げの8割を占める営業職員モノチャネルに依存する余りに、内勤職員のコストカットしか描けない国内生保の時代遅れのビジネスモデルはあまりにももの悲しい。2割の優績者層が順次定年を迎えるこの5〜10年のうちに、同時並行で消費者利便と商品別ローディング体系に対応してフルコミッション・チャネルの多様化が進めば、営業職員の陣容一辺倒の営業政策から念願の営業職員の選別採用・長期育成に取り組む余裕ができ、その結果、営業職員のプロ化が進むこととなる。その意味で年金窓販解禁は国内生保の販売チャネル改革の一つの契機となろう。
★欧米市場で変額年金やユニットリンクの窓販で実績があり、わが国での生保窓販を待望していた外資系生保は将来の発展可能性は大きいが、当面は金融機関の系列の壁に直面するだろう。手数料競争よりも商品魅力で参入拡大をめざすべきである。
☆すでに昨年度から窓販を行っている損保のほうは、銀行におけるローン手続の一環と言える専用住宅のローン火災保険の取引が併用住宅にもさらに拡大する。従って、現在の飯の種の火災保険の売り上げが本体に持って行かれることになる別働体代理店は待った無しの生き残りの局面に立たされることになり、これを契機に生損保フルサービスの法人プロ代理店として中小企業市場開拓へと転身していくことになろうから、これまた取引実績のある大手損保、外資系生保に新規参入の大手生保を巻き込んだ有望チャネル争奪戦が展開されよう。本体の窓販では各種積立保険、損保型第3分野商品などの追加を銀行側は望むだろう。自動車保険は直販保険会社の事例で分かる通り販売は容易だが、事故処理の苦情がふりかかるリスクがあり、別働体プロ代理店での取扱のほうが無難だろう。ただ、郵便局での取扱が始まった自賠責は公共性・消費者利便の観点から扱う可能性もある。いずれにせよ、窓販の本命は貯蓄型保険であり、補償を目的とする損保は住宅ローン関連保険を除き、別働体代理店での取扱がメインとなろう。
★窓販に関して、融資と抱き合わせの「圧力募集」の懸念が言われているが、現行法制でも事実があれば業法本法で罰せられることになる。ただし、保険会社の監督法規(根拠法)としての業法と、市場取引における消費者保護や損害賠償を趣旨としてた消費者契約法、金融商品販売法が錯綜している中で、個別事案により法規制のねじれが懸念される。保険会社より銀行が主導権を握る可能性が高い保険窓販においては、旧来の業法規制ではしばれないケースが予見され、銀行の暴走から消費者の個別取引を保護する市場サービス法の構築を急ぐ必要があろう。
【保険販売システム】
☆昨年4月の損保窓販開始に伴い、損保各社は金融機関各店舗の端末で利用できる乗合企業代理店用オンラインシステムを展開しているが、生保窓販に備えて生損保併売(併用)システムの構築が進んでいる。金融機関代理店や企業代理店用の生損保併売システムは、@業界共通の接続システムである共同ゲートウェイシステム(全社共通)、AWeb型顧客データベース(生損保名寄せ)システム、B販売支援システム(原則個別会社メニュー)の3分野で構成される。昨年、日本生命・ニッセイ同和損保グループと三井住友海上がAの共同開発・管理を行う共同事業会社ISSを立ち上げ、AFLACを除くほとんどの生保会社が共同出資し共同化する方向で動き出した(各社データはアクセス遮断)。ここに参加した保険会社は販売支援システムのみ個別に構築することになる(ニッセイグループと三井住友海上は3社クローズドで販売支援システムも共同化)。ただし、年金窓販に際して、損保の住宅ローン顧客と年金販売に有効な顧客データベース(資産取引状況)は別物であり、生保会社として窓販システムの共同化を進めている。また、同じ銀行でも本体窓販と別働体では特定の担当者以外は双方のデータベースにアクセスできない措置を講じている。
★すでに別働体・窓販の実績があり、個別にシステム展開しているその他の損保会社はISSには参加していない。乗合企業代理店用システムで先行している東京海上は「顧客データベースそのものが市場戦略の根幹をなす」としてミレア保険グループとして独自路線を歩む。また、みずほGを取引基盤に持つ安田火災と有力地銀市場を抱える日本興亜損保が代理店システムの共同化に踏み切る。システムによる窓販の販路囲い込み競争が激化している。基本的に生損保別々に各チャネルに対するシステムの共同化が進む方向にある。
以上
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