●生保会社の「基礎利益」の正しい理解を(2001年8月8日)
 生保会社の新しいディスクロージャー指標として、2000年度決算から「基礎利益」が公表されたが、週刊誌等で誤った解釈による報道が散見される。消費者の正しい保険(会社)選択のため、情報公開を徹底すべきだが、専門的な経営指標の公開が進むにつれマスコミ側の消化不良も拡大し、ミスリードが多発する傾向が見られる。そこで以下、生保の利益の捉え方について問題提起したニッセイ基礎研レポート2001年8月号・トピックス欄掲載の「生保会社に対する基礎利益指標の導入」(保険研究部門・荻原邦男氏)の一文(要旨)を紹介する。
 ●基礎利益導入をめぐる経緯
 従来はストック指標に偏重していた健全性指標を総合的に判断することを目的に、新たにフロー面の健全性を表すために導入された指標が基礎利益である。昨年度、生保会社の破綻が相次いだなかで、契約者に保証した予定利率を運用利率が下回るいわゆる逆ざやが問題視され、14社計で1兆5000億円といった数字が強調して報道されるなど、あたかも生保の最終的な利益がマイナスであるかのような印象を与えた。さらに、「逆ざやは累積する」との一部報道も見られるに至った。(これらの見方に対し)基礎利益指標の導入により、逆ざやはあってもそれを上回る益があり、合計ではプラスになっていることを示すこととなった。
 ●基礎利益の受け止められ方
 基礎利益は利差益+死差益+費差益にほぼ等しく、逆ざやを埋めるに足る利益が上がっていることは理解を得てきているものと思われる。ところが、マスコミの一部からは以下の指摘がされている。 @高い死亡率設定により死差益が多額に発生しており、問題である(生保儲けすぎ論)。
 A基礎利益の開示により、トータルで利益が出ている保険会社が多い。そうであるなら、既契約の予定利率引き下げは不要ではないか。
 ●生保の利益をどう見るか
 あらためて基礎利益の位置付け、生保の利益の特色についてコメントしたい。
 (1)生保の利益の中には「新旧の保険料格差によって必然的に発生する部分」が含まれる。保険料計算に用いる死亡率などの前提は、将来の予期せぬ変動を考慮してやや保守的に設定されるのが原則である(結果として、予定利率はこの原則の例外となった)。そして、実績と予定との差異によって生ずる利益を事後的に配当で調整する方式が取られている。
 死亡要素についてみると、予定死亡率は継続的に引き下げられてきているため、最近の死亡実績に基づく予定死亡率を適用した保険料に比べ、それ以前の契約者は相対的に高い保険料となっている。したがって、この部分から必然的に利益が発生することになる。
 このように、保険料計算に用いた前提の差によって発生するいわば見かけ上の利益も多く含まれている。こうした一般事業の利益と性格を異にする部分については十分な説明を行い、理解を得ていく努力が求められよう。
 (2)基礎利益の全額が配当や内部留保に使用できるわけではない。基礎利益のほか、有価証券の売却損益などを中心としたキャピタル損益が利益となるが、このうちの一部は@不良債権の償却、
A不動産関係の含み損の償却、B退職給付債務の償却に充てる必要がある。こうした事情は銀行も同様で、業務純益を上回るクレジットコスト(不良債権処理額+一般貸倒引当金繰入額)が発生しており(事業会社なら実質赤字を意味する)、業務純益だけを見て儲けすぎとの指摘はなされていない。生保についても費差益、死差益水準だけに言及するのは適切な議論とは言えないのではなかろうか。

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